七日目・「あとから追いかける」
「……逃げしかないな」
ただ、逃げるにしても、全員無事に行けるとはとても思えない。
俺はベルトに差し込んでいる拳銃に手を這わせた。
「岡崎、先に行け!」
腕にしがみつき何事かを呟き続ける明日香を引きはがした。
彼女が震えていることは分かっていたが、悠長に慰めている時間などない。
引っぺがした明日香をそのままの流れで状況が読込めていない岡崎に押し付けた。
「は!? 前原さんは――?」
明日香を抱き支えた岡崎が焦りを浮かべ俺を見る。
どうして空気を読めない。こちらとしてはさっさと明日香を連れて逃げて行ってほしいのだ。
舌打ちする時間も惜しい。
「あとから追いかける。明日香の様子がおかしいことぐらいわかるだろ」
あいにく俺は庇いながら戦うことなど得意ではない。
しかもどうやら相手は明日香を知っているようだ。この様子だと明日香にとっての地雷を容易に踏んでくる可能性だってある。
というか存在自体が地雷だったのか声をかけられただけで戦闘不能状態と陥っているいるこの状況。
不利だ。退却するしかない。
ただ、普通に逃げれば銃でもかんでもぶっ放してくるだろうし、足の速いやつがいれば追いつかれるだろうし、そもそも今の明日香がどこまで走れるのかもわからない。三人の中では出血量ナンバーワンなのだ。
三人で逃げるか、戦うか。
考えて出した答えがこれだ。
「前原さんも一緒じゃないと!」
「馬鹿野郎ッ!」
怒鳴る。甘ったれたことを言うなと。
俺がいなくてもお前は死ぬわけじゃなかろうに。
明日香は明日香で今の状況を理解しているのかも怪しい。岡崎に腕にしがみついてしきりに首を振っている。何かを振り払うように必死に。
彼女と俺を見比べ何か言いたげな顔をしたが、納得まではいたらなくとも飲み込んだらしく岡崎は明日香とブルータスとともに木々の間へと走りこんでいく。
「待て!」
さっき声をかけてきた奴とは別の男が駆ける。
撃てば早いだろうに。生け捕りにしたいと考えているのか。
「させるか」
足のあたりを撃った。
偶然どこか当たってくれたらしくその男は悲鳴を上げ、足を押さえてもんどりうった。
「邪魔するなよー。アンタ、あれのなんなの?」
性根ねじまがった顔をしている男はうるさそうに倒れた仲間を一瞥した後に俺を見る。
どうやら心配なんてしてやらないみたいだ。
じりじりと迫ってくる連中の次の動きを考えながら答える。
「なんなのって…わからねーよ」
「はーい? なんだよそれ」
むしろこっちが聞きたい。
俺は明日香の何なんだ。
どうしてこんなに気にかけているのか。最近考えてはいるが答えは出てこない。
あの日、誘って以来俺とあいつの中で何が変化したのか。
わからない。
わからないが――今しなくてはいけないことはわかっている。
「ここを通りたいなら俺を倒してから行けよ――なんてな」
言ってて恥ずかしくなった。
これは俗にいう死亡フラグじゃあないか。さっきも口走っていた気がする。
どうして俺はあいつらを必死に守ろうとしているのだろう。
殴りかかる相手の鼻柱を銃底で叩き潰しながら頭の片隅で疑問が湧く。
ぶっちゃけこの数を一人で相手するの辛い。
自分の命が惜しいなら、怖くて仕方ないのなら、この場から逃げればすむはずだ。
だけど同時に大事なものまでなくしてしまうような気がする。
ーー大事なもの。ああ、そうか。今までどうして気づかなかったのだ。
こんなに明日香に気を使っていたのは、あいつを大事に思い始めているからなんじゃあないか。
なんて遅すぎた回答だろう。




