七日目・”お父さん”
一泊した建物を意味もなくみんなで眺める。
今にも壊れそうで、それでももう少しはこの形を保ってそうな感じ。危ういといったところか。
「軍艦島の建物思い出した」
「あー。僕一度行ってみたかったんですよね」
しみじみといった風にふたりがなにやら知らない場所について話している。
どんな島なんだろう。いまいち想像がつかない。
私の開けた手の中にあるのはたまたま建物の中で拾ったメダル二つ。
空に掲げて光らせていた私の足下で「遊んで遊んで」とせがんでくるブルータス。
しばらく私が行動不能状態だったので暇を持て余していたらしい。だから川で飛びかかってきたのか。
手元を見る。今頃このメダルたちを必死こいて探している人のことを考えると大事に扱った方がいいはずだ。
が、
「とってこーい」
私にはあんまり関係ないことなのでひとつを投げた。右肩を痛めないために代理で左を使ったのであまりきれいなフォームを描けなかった。
一目散にかけていき、舞い戻ってきたブルータスをお兄さんとおじさんが生暖かい目で見守っていた。
「僕たちあんまりメダル探ししてませんよね」
「そうだな。たくさん集めるとかさばるし、興味もないし」
「“コレクトゲーム”という名前が霞んでしまいますね。命名者かわいそうだ…」
そういえばそんな名前だったと思い出す。
「ま、本質は殺し合いだからな。メダルなんてこのゲームを盛り上がらせるためのただのアイテムだろ」
「メダル考案者かわいそうだ……」
我関せずといった風に両腕をお手上げのようにあげてからおじさんが歩き出す。
それについていくお兄さんと私とブルータス。
それを肩越しに振り返っておじさんがなんとも言えない顔をする。
「……RPGみてーだな…」
「だとしたらいろいろ足りないパーティーですね」
「お前の胸もな」
「何か今言いました?」
今とても聞き捨てならないものが。
ぜひもう一度話していただけたいのだけども。
おじさんはこれ以上何も言う気がなさげー―というか、しらばっくれた。
絶対に後で聞き出してやる。
そんなくだらないともいえる決意をしつつしばらくおじさんの背中を追いかけたり危なそうなところを避けて歩いていた。
「……」
おじさんが、次にお兄さんと私は動きを止めた。あとブルータス。
「人影が……」
遠目からなのではっきりとは見えないが、確かに人の形をしたものがいる。
お兄さんが即座に黒い袋から猟銃を取り出して構えた。
続けておじさんも拳銃を出し、私はナイフを手にした。
「なんか数多いみたいだな…逃げるか?」
「そうでーー」
お兄さんの言葉をさえぎるように銃声、そして近くの木に弾が当たり木くずが弾ける。
無言になった。ブルータスが私の足元に避難する。
それと、お兄さんがショックで意識が落ちかけたのでおじさんが彼の頬をつねった。かなり強くつねっているらしく「いたいいたい」とお兄さんが小声で騒いでいる。
「ここにいろと?」
「恐らくな。構うか、行くぞ」
おじさんとしても早く立ち去りたいのだろう。前回の団体さまの一件でとにかく大変だったことは身に染みている。
しかしその行為を許さないというように二つ目の銃声。ただし、先ほどとは正反対の方向から。おじさんが舌打ちをした。
「囲まれているな…」
「…最初から囲んでいたんでしょうか。それとも今?」
「それは知らん」
短く言うと静かにしろとジェスチャーを出した。そんなことしなくても分かっている。
やってきた4,5人の集団の中、一人だけいやにどうどうと歩く男が先頭をきっていた。
顔がお互いぎりぎり見える位置でその人は止まる。
「あっれー」
妙に間延びした声。
――まさか、そんな。
「マイカんとこの双子ちゃん?」
母親の名前が出た瞬間、鳥肌が総立ちした。
ぞわぞわとして気味が悪い。
「おい!?」
後ろへバランスを崩し、たたらを踏んだ私をおじさんが抱き留めてくれる。
悪いが、なにも今は答えられない。呼吸が苦しくてそれどころじゃない。窒息しそうだ。
「ひっさびっさじゃーん? まさかこんなところで会うなんてさー」
「ひ、あ、うぅ…」
声になったのはそれだけ。
赤子のような声しか絞り出せない。いや、私はこの人の前でまともに話せたことはあっただろうか。
うそだ、いやだ。にげたい。
にぶくわきばらがいたんだ。いわゆるげんつう だけど、なまなましい いたみ だ。
そんな、どうしてここに。
もう、もうあわないものとおもっていたのに。
そいつは、おもしろくなさそうに わたしを みて いった。
「久しぶりの再会だろー? お父さんに挨拶ぐらいしろよ」
たすけて、きょうか。




