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七日目・ここが本土なら通報レベル

(前話と時間が平行しています)

「……?」


 なんで抱きしめられているんだろう、私は。

 こうなった理由を誰か簡潔にまとめてくれる人を募集――そんなことしても当然いないわけで、状況把握を自分で行わなくてはいけない。

 おかしいな、私はおじさんが来ることを拒絶していたはずなんだけど。

 どうしてこんな密接なのか。


 おじさんの胸を片手で押して離れる。

 意外とすんなりと腕の檻から出ることができた。

 間近にあるおじさんの顔をにらむ。


「なに抱きしめているんですか、変態」


 首絞めるぞ、とおなじみのセリフを吐いてから彼はなにやら困ったような表情になった。

 できればもう少し離れるか、後ろを向いてくれたらうれしいのだが。

 裸を見られる羞恥心よりも傷痕もろもろを見られる嫌悪感のほうが数倍優っている。きっと世間一般ではおかしいことなんだろうけど。


「そうだな…正直に言っていいか」


「どうぞ」


「俺にもわからない」


 きっぱりと言いやがった。

 本気で殴ってもいいだろうかとさえ思った。

 拳を握る動作に気付いたのかあわてておじさんは言葉をつなぐ。


「引き上げたのは、その、川にあんまり長く入ってほしくなかったんだよ。それはちゃんと――理由が、あるから」


「…そうですか」


 置いてあったタオルを渡されてひとまずそれで体をぬぐいそして隠す。

 そういえば、以前にもおじさんが川辺で吐きかけていたことを思い出した。

 その時に何か話していた気がするんだけど――なんだったっけな。キーワードは川か。


「でも抱きしめたのは分からん。多分父性だな」


 どの顔で父性だと言い張るのだろうか。決まったという顔をしているのが妙にイラついた。

 思わず「おじさんに父性なんて似合いませんね」と言ってやろうかとも思ったがめんどくさいことになるからやめた。

 おじさんの視線が一瞬私から離れたときにさりげない動作でわき腹の体で最も嫌いなところをタオルと手のひらの二重バリゲートで隠した。こんなの見られたら引かれるだろうから。


「…残念ながら私がこの世で信じていないもののひとつは父性ですから」


 母性は――少しだけなら信じて、いた。


「俺の父性ならどうだ」


 どうだって。どうだってなんだ。

 頭おかしくなってしまったんだな。かわいそうに。


「まったくと言っていいほど感じないので圏外でよろしいですか」


「けっ」


 つまらなそうな顔された。

 身勝手な人である。


「…なにはともあれ、上を着たいんですが」


「あ、悪い」


 近くに置いてあった洋服とコートを拾い上げて渡してくれた。

 肩を痛めないように細心の注意をしながら着ていく。

 後ろを向いていつの間にかいたお兄さんを呼びながらおじさんがぽつりと言う。


「お前が何と言おうと包帯は巻き直すから」


「…えっと、はい」


 気まずい。

 先ほどの流れを気にしているのならすまない気分だ。感情だけで動いてしまうのはどうにかならないものか。

 手をはたいてしまったことを謝ろうと思ったけど、結局言い出すことはできなかった。


――まだ時間(チャンス)はあるからと、先延ばしにした。どこにも根拠なんてないのに。



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