七日目・ブルータスのこと
雲の切れ間から太陽がのぞいている。
雨が降り続けなくてほっとした気持ちだ。天気一つでも気分は違う。
「結局、この建物は何だったんですか?」
先ほどの建物に戻り、明日香に包帯を巻いてやり、ずぶ濡れになったズボンに絶望している彼女をとりあえず宥めた後。
賞味期限を控えたパンをみんなでもっそもっそ食べているときに岡崎が切り出した。
ちなみにパンは潰れていた。ほかの荷物と押し合い圧し合いしているうちにつぶれたのだろう。クリームパンにいたっては見た目がとてもグロデスクで食べる気が湧かず、じゃんけんで誰が食べるか決める運びとなった。
「岡崎は俺を探す途中でどっか見てこなかったのか」
「見る気が起こりませんでした。怖かったので」
いっそ清々しい。
「ヘタレ」
「うっ」
清々しく言い放ってもダメージは来たようでクリームパン片手に岡崎が呻いた。
ブルータスが虎視眈々とパン狙っているから早めに食べたほうがいいと思うんだが。
「なんかの実験施設だな、多分。たくさんゲージがあったし」
「ゲージ?」
ぺったんこのメロンパンを食べていた明日香が首をひねる。胸の形と似ているなぁなんてことは思っても言ってはいけない。
先ほど下着だけの姿を見てしまったが、脱いでもやっぱ薄かった。
「ああ。動物の骨もごろごろあった」
「へぇ……」
「思い当たることでもあるのか」
意味深に呟くために気になった。
「思い当たるというより予想ですが」
彼女はパンの欠片をちらつかせて近寄ってきたブルータスに視線を向ける。
犬にそんなもの与えて大丈夫なのだろうか。
ばったんばったんと尻尾を振るブルータスを撫でながら明日香はさらりと言った。
「ブルータスは実験動物の子孫かな、と…」
ざざっと。俺と岡崎はブルータスから遠ざかる。
シンクロ率の高さを競う大会があったとしたなら今なら上位狙えていたかもしれない。
そんな俺たちを明日香は不思議そうな目で見てきた。
「何しているんです?」
「考えてもみろよ…こんな孤島で生体実験なんてヤバい系のモンだろうが」
思えば実験の内容を示すようなものが言語として残っている例は見た限りどこにもなかった。
あるのはせいぜいひっかき傷や噛み後。床にこびりついた血痕。
二階に行けばもしかしたらなにか見つかるんだろうが。
こんな誰が来るともしれない無人島でも念入りに研究結果を残さなかった。裏に絶対なんかありそうな気がする。
「それとブルータスに何の関係が?」
「ほら、実験対象だった先祖が万が一遺伝子操作とかされていてそれがブルータスにまで受けづかれていたら?」
岡崎が大体俺と同じような考えを出した。
実験によりどんな結果が出ているのか不明瞭だ。それが子孫まで残っているのかさえも。
あと水を差すようなのであえて言わなかったが、約五十年前に遺伝子操作の技術はあったかは謎である。
「うーん、ブルータスは別にミュータント化とかしませんし。そこらのワンコと変わらないんじゃないですか?」
どうしてそこでミュータント化とか出てきたのかは不明だが気にせずブルータスを撫でている。
怖いもの知らずとでも言おうか。じゃなかったらまず俺に襲い掛かるなんてことしていないしな。
残りのメロンパンを取られないようにしながら明日香は続ける。
「でも知能は高いのかもしれませんね」
「まあ、そうだな」
今まで人間がいなかったはずなのに人語をある程度理解しているようだし、適応能力も高い。
なにより、たき火をあまり怖がらない。
これまでどうやってブルータスは暮らしてきたのか不明だが、火を必要以上に怖がらない。野生動物にとっては天敵だろうに。
ブルータスが特別賢い個体なのか、それともーーあったかもしれない実験の成果か。
「それにしてもいきなり女の子を化けもの扱いなんてひどい人たちだよねー、ブルータス」
「あ、メスだったんだ…」
男女比率は1:1




