七日目・川にて、僕の場合
「何をしているんだあのふたりは…」
猟銃を担ぎ、ブルータスについていった前原さんの後を追いかけたらなぜかラブコメが始まっていた。
…ラブコメ、かなぁ。あれ。違うな。
少しでも甘酸っぱいものが混じっているのならばいいのだけど。
それになんだか前原さんがガード機能を果たしていてよくわからないけど、明日香ちゃんの上半身が肌色成分多いみたいで自然と顔が赤らむのを感じた。こんな状況でも恥ずかしいっていうのはあるんだ。
ぼそぼそと話しているのが聞こえたけれどしっかりとは耳に届かない。殴り合いに発展する空気ではないようだ。
なぜかあの二人、短時間とはいえ異様に好戦的な時がありそういう時は必ず会話の大部分が挑発のオンパレードになったりする。
逆に言えば仲良しこよしっていうやつなのだろうか。本人たち、一切自覚していないけど。
僕はあえて遠くから傍観するに留めておく。
というより、僕は二人の間に入ることはできない。
さみしいとは思う。
だが傷を抱える彼女を慰めることができるのは、傷を抱える彼だけだ。
慰めるというか、その実は傷の舐めあいだが。
でもそれでいいのだろう。あの二人には。重い荷物を少しでも減らしてくれる相手がいるなら。
そりゃあ僕だっていくつか抱えている。二人よりもましだとも思わない。
だが。
僕と出会う前に彼らなりにいろんなことがあって、いろんなことをしてきただろう。使い果たされた言い方をすれば前原さんと明日香ちゃんの間にはキズナができている。
一応僕のほうにも細く伸ばされているけど、それでも彼らの間のソレとは比べ物にならない。
何が言いたいかというと、今、ここで僕のできることはないのだ。
「くっつくのかなー、あのふたり」
当人たちに聞かれたらどんなことされるかわからないことを呟く。
あれは経験則からいうとめっちゃバカップルになるぞ。
何やらもめ始めた前原さんたちを見て僕は多分半眼になっていると思う。いやーほほえましいなー。
明日香ちゃんの裸(前原さんにさえぎられているから不明だけど)を見ないようにうつむく。
「ああ、もうこんなに」
ついでに腕時計型の残り人数カウンターを見ると、27人と表示されていた。
減りがかなり遅くなったように思える。
初日はざっくざっく消えていたのに。やはりみんな強く今まで以上に警戒を始めているようだ。
胃がきりきりと痛む。こんなの、締切前夜に徹夜でレポートしたとき以来だ。
「帰りたいな…」
大学院のほうはどうなっているのだろう。
彩美は元気だろうか。美空に何かされていないか、それだけが気かがりだ。
「岡崎ー」
前原さんはひと段落ついたのか、僕に手を振っていた。その横で明日香ちゃんが服をゆっくりもごもごと着ている。
僕も振り返して二人の元へ歩いて行った。
いつまでこうしていられるんだろうって考えながら。