七日目・そしてお前も寝落ちするのか
太陽が一度顔を覗かせるとあとは早い。
先ほどまでの闇が嘘のようにもう互いの挙動の一つ一つまで分かるぐらい明るくなった。
「明けない夜はない――とは言いますが」
眠そうに岡崎が目をこする。
そういえばこいつ完徹だった。
そんな状況でも話に付き合っていたあたり性格が出ているな。
ただ単に眠れる状況じゃなかったのかもしれないが。
「明日香ちゃんには、朝は来るのでしょうか」
「来ないだろ」
俺は言う。
岡崎が俺を見た。ある程度予想していたとでも言いたげな眼だった。
「どうしてそう思いました?」
「なにもかも諦めているからだよこいつは。未来のことなんてまったく視野に入れてないだろ」
それこそ惰性だ。
力を失えばいずれ止まる。
無気力はやがて呼吸を止める。
「そうですね。……でもこの数日のかかわりとか、さっきまでの話とか聞いて思ったんですけど」
欠伸をかみ殺した岡崎の向こう側に明日香が見える。
胸が上下していることでかろうじて生きていると判別できるぐらいに静かな寝姿だった。
「前原さん――明日香ちゃんを死なせたくないなら死んではだめですよ。ぜったいに」
「なんでだよ」
「ある意味、あなたが『朝』となり替わりつつあるから…」
話が飛躍しすぎていないかそれは。そんなポエムまがいなことを言われても困惑するだけだ。
なんで俺が生きなくてはいけない。
それに明日香の死と俺の死が直結しているだなんてそんな話あるか。
問いただそうとした矢先、岡崎の身体が大きく揺れてばたりと倒れた。
なんだかデジャヴを感じなくもない。
「岡崎!?」
頭は打ってなかったが、どうしてこんないきなり――
「すぅ…」
「……」
伸ばした手が中途半端な位置で固定された。
なんだこいつ。まさかこいつまで。
ゆるやかな腹式呼吸を開始した彼をしばらく見つめ、特大のため息が出た。
「寝落ちかよ! 大事なところで寝落ちすんのかお前らは!」
言ってみたところで反応を返したのがブルータスだけという残念な結果に終わった。
徹夜すると唐突にエンジンが切れてしまうらしい。大学のレポートとか徹夜せずにどう仕上げていたのだろう。
俺は通っていなかったが幼馴染はヒーコラ言っていたもんだったが。
とにかく置いてけぼりにされた俺は髪を掻きむしった後に立ち上がった。
脳みそが消化不良気味だ。身体を動かそう。
ついでにこの建物の一階部分を捜索しようと思い立った。
こいつらになにかあればいざとなればブルータスがなんらかの反応を示すだろう。
ついでに探し物も。
数日前から考えていた少しばかり危険な賭けをするために。だがこれが成功すれば攻撃されてもそこまで怖がることはないだろうし。
「留守番頼んだぞ、ブルータス」
仲良く兄妹のように眠る二人を残し、俺は扉を開けた。