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七日目・そして寝落ちである

 今の僕の気持ちとは不釣り合いな淡く白い光が部屋を満たし始めた。

 夜明けがもうすぐのようだ。


 明日香ちゃんは両親を殺したことをぼそぼそと話したっきり黙ったまま。

 気にはなるけど彼女のペースで行くほうがいいと思うので急かすようなことはしない。

 おそらく次に口を開くときは、三華宮高校殺人事件についてだろう。

 戦後最悪の事件といわれる、未成年による連続殺傷事件。

 不可解なことも多いとは聞いてた。様々な憶測が飛び交ってたんだっけ、あのころは。


当時学生だった僕らも犯人の行動だとか精神を面白半分に考察していた。――何も知らなかったからこそ出来たのであって、今は興味半分になんて出来ない。

 ふと特に仲良しでもなかった大学の知人が研究とか言ってずいぶん熱心にあの事件のことを調べていたことを思い起こす。ある時泥酔して川に落ちて死んでしまったっけ。

 確か酒は飲めなかったはずなのに。


「…あれ、明日香ちゃん?」


 あまりにも静かすぎるので声をかけてみる。

 返事は返ってこない。

 明日香ちゃんのそばに近寄り、薄い光の中で彼女の顔を覗き込む。


「なあ、まさかそいつ」


 前原さんが引きつった声で尋ねてきた。

 肩ごと振り返り、頷いた。


「……寝てますね」


「寝落ちかよ! ここで寝落ちかよ!」


 気持ちも分からなくもないですけど。


「でもこういうのって体力消耗しますから。嫌な記憶を掘り起こすの、疲れません?」


「まあ…そうだが。自分で話す提案しながら寝るかこいつは…」


「あはは…」


 この短時間さきほどよりさらにはっきりとしてきた明日香ちゃんの顔を見下ろす。

 そこに表情はなく、お面をかぶっているような錯覚さえする。安らかな寝顔という表現とはかけ離れていた。

 まだ絵に描かれた人物たちのほうが表情豊かだろう。


 気が付くとブルータスが明日香ちゃんのおなかに顎をのせて僕の挙動を見ていた。これ見張られているのかな。

 これ以上接近だとか触ったりしたら噛まれかねないので身体を明日香ちゃんから話す。


「明日香の妹は、結構なシスコンだったんだな」


「シスコンというより…明日香ちゃんしか心のよりどころがなかったんじゃないですかね」


 家でも学校でも精神的な居場所がなかったのなら。

 姉妹間に芽生えるライクラブに変わっても不思議ではない。

 もっとも美空との間にはライクすらなかったけど。


「心のよりどころか。今のこいつにはどこによりどころがあるんだろうな」


 彼女のよりどころ。

 確かに、どこにあるのだろう。

 失い、破壊した世界で何を目指して生きているのか。


「もしかしたらそんなものは今はなくて――惰性で生きているんじゃないですかね」


「ふうん」


 じゃあ、俺と同じじゃねえか――と。

 そうつぶやいた声が聞こえたのは、たぶん気のせいだろう。


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