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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
三華宮高校占領事件
65/178

事件が終わった後、事件が始まるまで 4

 テロリストにどうしてあの十人だけが連れていたのか。

 今まで別のことしか考えていなくて根本的なことは手つかずだった。

 何故京香たちは殺されたのか、ではなく。

 何故京香たちが人質となったのかを。


 生贄。

 人質。

 それからクラスメイト。


 考えたくない。

 今保っているぎりぎりの均衡がすべて崩れてしまう。

 何が面白いのかフリーライターは相変わらずニコニコとしながら私を見ていた。

 それに構っている暇は私にはない。


「ぼくはもう真実こたえを教えたよ。でも、そうだね。信じたくないことかもしれない」


 アイスコーヒーは半分に減っていた。

 逆に私のオレンジジュースはまだ一滴も減っていない。

 グラスは汗をかき、テーブルの上を濡らしていく。まるで今の私そっくりだ。

 暑くもないのに冷汗が全身から出ているのだから。


「確信につながる話をしようか――少し前に何人かの学校関係者に聞き込みしたんだ」


「……そんな簡単に聞き出せるのか?」


「出来るさ。あの事件は一部の人間以外にとってはたまたま訪れた『非日常』だ。それを自慢として話したがる連中ももちろんいる」


 分からない話ではなかった。

 火事を見たとか。交通事故を見たとか。

 そんなことを何故か嬉々として会話にするやつは身の回りにいる。

 それと同じというわけだ。自分に危害がなかったからこそ、他人に喋ることができる。


「――とあるクラスでは“推薦”があったそうでさ」


「すい、せん?」


「とあるクラスでは“投票”。とあるクラスでは無理やりに“選出”」


「なんのことだ…」


「だからさ。人質をそうやって選んでいったんだ。そうすれば他は解放すると言われたんだって」


 次に続く言葉は、きっと。

 聞きたくない。止めないと。

 私はなんにも信じられなくなる。

 もういいじゃないか。

 私は京香を、友人たちを亡くした。

 これ以上苦しみたくなんかない。


 非情にもフリーライターは言う。



「人質になった子は、我が身がかわいいクラスメイト達に売られたんだよ」



 ――そして彼ら彼女らは死んで、存在をなかったことにされたのだ。

 身代わりにされて、死んで、消された。

 それを何事もなかったかのように語るやつらがいる。

 他人を人質にしてのうのうと生きているやつらがいる。


 ぴしりと、どこかがひび割れた音がした。




 気が付くとフリーライターはいなくなっておりアイスコーヒーが置かれていたところにはレシートがぽつりとあるのみ。

 ちゃんと会計はして帰ったらしい。


 結局手を付けていないジュースをぼんやりと眺める。

 ひとりぼっちのさくらんぼ。

 もう片方はすでに誰かに食べられたのだろうか。

 ひとりでジュースの底に沈んでいる気持ちはどうなのだろう。

 光の反射できらりとさくらんぼが光った。

 「お前もこっちと同じだ」と嘲られたような気がした。



 薄くなったジュースを飲みほし、どうやっても氷の障害物から出せなかったさくらんぼを放置して喫茶店を出る。

 辺りはまだ少しは明るい。

 携帯を取り出してちょっとためらった後に電話をかける。

 相手はすぐに出てくれた。


<もしもし>


 泣き止んではいたようだ。

 声は湿っぽいが、落ち着いた息遣いだったから。


「あのさ、桃香」


<どうしたの?>


「私がもし人を殺したいと言ったら、どうする?」


<協力するよ>


 即答だった。

 安堵の息が漏れた。


「ありがとう」


 やっぱり持つべきものは友人だ。

 いくつかやり取りをしてから電話を切りしばし思考にふける。


 ――ナイフ一本で何人殺せるのだろうか。


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