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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
三華宮高校占領事件
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三華宮高校占領事件 5

 いやいやいやいや、ありえないでしょ。

 そんな人質とか現実で聞くような言葉じゃないでしょ。

 あの子は動揺しすぎて周りが見えていないだけだよ。


 壁に寄りかかり深呼吸する。

 それから百八十度回って壁とご対面。ひんやりとしたそれに頭を思いっきり叩きつけた。

 混乱しているときにはこれが効果的だ。京香はそんなことないって言っていたけど。


 考えろ。私はなにをすべきか?


 彼女の世迷言を信じるか、それとも京香がすでに避難したと信じこの場から去るか。

 二つに一つ。

 頭をもう一度叩きつけた。さあ、決断しろ。

 

「……私はどシスコンだからね」


 些細な情報でも、確かめずにはいられない。


 壁から離れて先ほどより数が減った人波を逆走する。

 数が減ったとはいえ、流れに逆らうことは難しい。

 ちらちらと色んな表情が私の横を過ぎていく。

 それは恐怖だったり、怯えだったり、はたまた私へと向ける迷惑な顔。

 ――私は今どんな顔をしているのだろう。


 やっとのことで四階までこれた。

 たった二階昇ったとはいえ、ひどく疲れてしまった。


「京香……」


 口の中で呟いて、屋上に向かう階段の手すりに手をかけようとした、その時。

 乾いた音と共に目の前を高速でなにかが落ちてきた。それから床に強く固いものがぶつかる音。

 思わずしりもちをついて、音がした下の床をゆっくりと見る。

 穴が開いていた。

 明らかに今さっきできたものだ。


 え、ちょっと、まじっすか。

 銃弾ですか。まさかそんな。

 いや確かに相手は持っているって知っていたけど、今更ながらに理解が追いついた。

 撃たれたら、もしかして、死にますか?

 これって相当やばいんじゃないでしょうか。


「なんだ? 無駄な弾を撃つな」


「何かいましたから、つい」


 声がする。

 我に返って座ったまま後ろに退散する。ジャージが汚れるけど気にするものか。

 そろりと階段を数段降りる。これで上からなら私の姿を見ることが出来ないだろう。

 頼む、降りてこないでくれ。


「ガキどもの残りか? ――いないぞ」


 祈りが通じたのか、偉そうな口調の人は降りるという選択をしなかった。

 下っ端っぽい人は唸る。


「すいません…ちょっと慌てていたみたいです」


「まあいい。…しかしこの静けさは不気味だな…」


 偉そうな人はしゃべりながら外、つまり屋上に行ったのか声はフェードアウトした。

 ほっとしたのもつかのま、足音が下りてきた。

 息を飲みこみかけて慌てて口を覆う。少しでも音がしたら大変どころじゃない。

 足音は数歩で止まった。まだ見つからない。多分。


「いたと、思ったんだけどな」


 います。


「いないなら別にいいけど。いるなら逃げたほうがいいよ。どうせおれたちは死ぬ」


 いきなり何を言い出しているんだろう。

 静かな廊下に若い男性の声が響いている。


「リーダーがバカでさ。国家の突かれたら痛いところを持ち出して脅しているんだ。これはもし国民にばれたらとんでもない事態を巻き起こすほどのものでね」


 最初からマスコミに流しておけば面白いものを、とぼやいた。

 そんなことを言われても私はなんとも反応が出来ないし、したら一巻の終わりだ。


「ばらされたくなければ要求を呑めとか、こちらには人質がいるんだぞ、とか。そんなもの意味をなさないのに」


 淡々と独り言を漏らす男性。

 なんだかそれは自分の中で整理するためというよりかは遺言のように思えてならない。

 何をするつもりなんだ?

 自爆でもするつもりなのだろうか。


「――死人に口なしって、便利な言葉だよね」


 久しぶりに全身に鳥肌が立った。

 本当に、何を言っている? 何を意味している?

 真意を問いただしたくて仕方がなかったけどそんなことできるはずもなく。


「なーに話してんだよ。誰かいた?」


 さっきの偉そうな人とは違う、別の声。

 親しげに男性へ話しかけているところを見ると、友達なんだろうか。


「いいや、誰も。そっちの様子は?」


「おとなしいもんだよ。つまんないぐらいに」


 階段を上がっているのか声が遠くなる。

 すかさずどの階にでも同じ位置にあるトイレへ駆け込んだ。ただし今回は男子トイレ。

 一つしかない個室に入り心拍と呼吸を落ち着かせながら先ほどの意味を頭の中で反芻させる。

 物事を悟っているというより、頭がいっちゃっているのかもしれない。


「あれ…」


 異様な気配を感じてそっと個室の扉を開けトイレの外の様子をうかがう。見えない。

 静かに階段を上ってくるのは、私が待ち望んだ味方かな。正式名称は知らないけど、こういう事態を収拾する人たち。

 こちらに気づかないうちに頭をひっこめる。敵と間違われて攻撃されたくない。

 あ、でもトイレまで確認されたら…なんて話せばいいんだろう。


 眼で見なくても、軽い衣擦れの音はあったから徐々に進んで行っているのは分かる。

 屈強な人たちがこそこそ学校の階段上っているのを想像するとちょっと笑いそうにもなる、けど我慢。


 音が止んだ。

 もしこちら側の味方ならば作戦開始の合図でも待っているのだろうか。

 長いような短いような限界まで張りつめた時間の後。


「作戦通り、殲滅しろ。いいか、全員・・だぞ」


 重々しい声と共に気配が一気に動いた。


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