三華宮高校占領事件 1
少女にとってのエピローグ。
もしくは、殺人鬼にとってのプロローグ。
「待って、京香」
昇降口に入る直前、明日香が突然私を呼び止めた。
他の生徒の邪魔にならないように端により、私はうつむく明日香の顔を覗き見る。
「どうしたの明日香。具合でも悪いの?」
「ううん…でもなんか、嫌な予感がするの」
胸のあたりを押さえて、明日香は不安げな顔をする。
感情表現が下手な私とは違って明日香はすぐに感情が表に出やすい。
そのせいなのかよくお母さんやオトウサンに殴られるのは私だった。無表情なのが気に入らないそうなのだ。私にはよくわからない。
「嫌な予感って…何の?」
「分からないんだけども……ねえ、お願い。取り換えっこ、しよ?」
取り換えっこ。
明日香が京香になり、京香が明日香になるという、二人だけの秘密の遊び。
いかにお互いのクラスやバイト先でそれられしく振るまえるかということをしている。
さすがに一年以上一緒の友達にはバレちゃうけど。
「ううん…でも…」
普段なら私は快く許諾するのだが、今日ばかりはそうは言ってられない。
私のクラスの、今日の一時間目は社会だ。担当のおじいちゃん先生は私たちを見分けられる数少ない人だから、取り換えっこしてもすぐにばれてしまう。
クラスメイトの前で叱られたことはないけど後々社会科準備室に呼び出されて「良くないよ?」とやんわり注意されて以来、その先生の前では私たちは入れ替わらないと決めた。
「二時間目からならいいよ?」
「駄目なの。それじゃ、遅いと思う」
「遅い? 明日香、どうかしたの? 何を恐れているの?」
なんだか様子がおかしい。
おそろいの長い髪を揺らして明日香は首を振る。
「いいから、お願い。何もなければお昼休みにまた入れ替わろう?」
そこまで頼まれてしまえば断るに断れない。
しぶしぶ頷いて私は自分のバックを彼女に渡す。明日香は明日香のバックを私に渡した。
「ごめんね、明日香」
「いいよ、京香。私たち、姉妹じゃない」
さっきまでの自分の名前を呼び、こうして私たちは取り換えっこをした。
京香は困ったように、でもにっこりと笑う。
私も同じように笑い返そうとしたけど、やっぱりちゃんと笑えなかった。
「じゃ、行こうよ京香」
「ちゅうはしてくれないの?」
「学校行く前にしたじゃん。お預け」
「けち」
私は京香の唇に人差し指をあてて黙らす。それから一緒に昇降口へと歩いて行った。




