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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
過去、片割れ、コンクリート
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五日目・少女の名前

男しかいない

 足下に転がる死体を眺めながら俺は頭を掻く。

 たった今殺したひとりと、すでに死亡していた四人。

 四人に関しては誰が誰を殺したのかまでは分からないが、この建物を利用しようとしていたことは確定的だろう。

 

 一階の出入り口としていたらしきドアから忍び込んだ窓まで見回ってみたが、今の段階ではこの建物内には誰もいないようだ。

 だがここを本拠地にしている人間も少なからずいるという考えは持っておかなければ。


「ほんとびっくりしたわ…」


 あと一瞬でも引き金を引くのが遅かったら死んでいたのだ。

 そう思うと背筋がぞくりと寒くなる。結果的には無事で良かったけれども。

 とりあえず現段階では誰もいない一室があったからそれを使おう。

 そうと決まればあの二人を呼ぶか。生きているかな。



「あ、前原さん。無事だったんですね」


 ちゃんと生きてた。


「まあな。変わったことはなかったか」


「変わったこと…といいますか。うーん、なんていえばいいんだろう」


 岡崎は歯切れ悪そうに眼をそらして明日香を見やる。

 当の本人は規則正しく寝息をたてていた。のんきなもんだな、と肩を下げる。

 そういえばそろそろ傷にあてているガーゼを変えないといけない。

 明日香を抱きかかえるとブルータスがちょこまかと足に絡みついてくる。

 ご主人様になにをしてやがんだと言っているのだろうか。俺だってなんでこんなことしているか分かんねえよ。

 確かに一緒に行こうとは誘ったけども。なんだか過度に面倒みている気がしなくもない。


 さすがに明日香を抱えて窓からご訪問する気はなかったので扉のほうへ向かっていく。

 なにやら唸っていた岡崎は小走りで俺の横に来ると妙な事を言った。


「前原さん、この子の名前はなんていうんですか?」


「は?」


 急激に物忘れが始まったのかこいつは。


「あの、前原さんが言いたいことは分かります。僕自身何言っているか分からないです」


「駄目じゃねえか」


「でも冗談ではなく、本気なんです。この子の名前はなんですか?」


 妙に本気の口調で尋ねられて少しだけたじろぐ。

 俺が今抱きかかえている少女の名前。

 もう五日も呼んでいるのだ。間違えるはずもない。


「明日香、だろ」


「本当にそうでしょうか? 本当に『明日香』ちゃんなんでしょうか」


「え? ちょっとタンマ、お前マジでどうした?」


「……」


 そこで黙り込まないでほしい。

 変な電波でも拾ってしまったんじゃないだろうな。


「明日香ちゃんには妹さんがいるんでしたよね」


「ああ、双子のだっけ」


「妹さんの名前は聞いていますか?」


「……キョウカだったっけな」


 そういえば、キョウカという漢字は分からないのだが洒落のつもりなのだろうか。

 明日と今日という。


 建物に入り、落ち葉や土などがちらばる廊下を歩く。

 目当ての一室を見つけ、もう一度警戒しながら扉を開けた。

 岡崎はぐるりとまわりを見回して「これなら雨とか平気そうですね」と言った。

 明日香を比較的きれいなところに寝かしてやり、ひとまず一息つく。

 ブルータスは明日香の足のあたりで丸まりそれほどしないうちに眼を閉じた。


「で、話の続きなんだけど。なんでそういう発想に至ったんだ?」


「さっき一瞬だけ起きたんですけど、その時に『おやすみなさい、明日香』って言ってたんですよ」


「ああ? 明日香が明日香におやすみなさい?」


「はい。寝ぼけていたにしてもさすがにおかしいと感じまして。それで、考えた結果明日香ちゃんは本来『明日香』という名前ではないのではないかと」


「なんだそりゃ…つまり明日香は『キョウカ』だって言いたいのか?」


「あくまでも僕の予想ですが……」


 だとしたら何故そんなややこしいことになってしまったのか。

 何故今は『明日香』を名乗り、妹を『キョウカ』と呼ぶのか。


 外から涼しい風が吹いてきて、それほど経たずに雨音が聞こえてくる。

 誰も話さない部屋にやけにはっきりと音が聞こえていた。


 ふいに腕時計がピピッと音を鳴らす。

 何事かと思う暇もなく、デジタルの画面上で文字が横に流れていた。


【残り二十になりましたらルールを追加いたします】


 嫌な予感しかしない。




【五日目終了】

【残り 三十】



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