間章・秘密とお茶菓子 後
――京香ちゃんを埋めさせてほしい?
どういうことだ。
彼女たちの遺体は襲撃者の遺体とともに残らず回収されてしまったと聞いたのだけど――。
住職さんはわたしの様子をみて言葉をつづけた。
「いえ、骨などといった体の一部ではありません。小さな小瓶に髪の毛とキーホルダーだけを入れていました」
「キーホルダー?」
「こちらも詳しくは知りませんが、どうやらおそろいで買ったものだったみたいですね」
それが、京香という少女の存在を示すものだったわけか。
世の中から消された彼女の、断片。
どんな気持ちで明日香ちゃんはそれを持ってきたんだろう。そしてどんな気持ちで京香ちゃんを埋めようと決めたのだろう。
せめてもの安らぎを与えようとしたかったのだろうか。
唯一の妹の形見を、お墓に入れるというのはどれほどの葛藤があったのか。
わずかな間の面会でも分かるぐらいに明日香ちゃんは京香ちゃんに依存していた。
おそらくは京香ちゃんも同じぐらい依存していただろう。
共依存。
その依存する相手を失った時、彼女は完全に壊れてしまったのか。
彼女たちの母親、つまり私にとっての叔母は子育てにはおおよそ向かない性格だったそうだ。
男遊びが激しかったという伯母が何故双子を生み、育てようとしたのかは分からないけれど――。
「…ここに、京香ちゃんが」
いる、というのか。
弔うべき肉体などそこにはないのに。
「ええ…子猫とともに、います」
住職さんがわずかに濁すようにして言った。
同じことを思っていたようだ。
ふと京香ちゃんたちの死体は今どこにあるんだろうと考えた。
跡形もないのか、それともどこかで眠っているのか。
「明日香ちゃんは、それからこなかったんですか?」
「一度きり。それ以来は知っている限り来ませんでした」
占領事件から殺傷事件の間の期間はほんの二、三か月にも満たない。
その中で、一度だけ。
ちょっと意外だった。頻繁に来ているものだと思っていたし。
私は花束を置いてそこに手を合わせた。
会うことのなかった従妹に。
「しかし、あなたは面白い方ですね。事件については情報規制がなされていると思うのですが」
思い切り規制されています。
事件を嗅ぎまわってた人が一人不審死しているからちょっと控えめなつもりだけれど。
「人の知らないことを知るのが好きなんです。おかげでいっつもトラブルに見舞われているんですけど」
お兄ちゃんから説教食らうこともしばしばだ。
というよりなにより恐ろしいのがわたしのしている内容を把握していることだけど。
ほんと何してんだろうあの人。
「少しお茶を飲まれていきませんか? お茶菓子が処分しきれないんですよ」
「え? でも迷惑じゃ…」
「そうですね、はっきりいいましょうか。少しだけでも彼女たちにかかわりあったものとして、少し話をお聞きしたいのです」
柔らかな笑みを浮かべる住職さん。
その裏には後悔や悲しみが透けて見えるようだ。
責任感の強い人なのだろう。
「……そうですね、話を聞くだけじゃフェアじゃないですし」
花束を一瞥して、わたしたちはそこから離れていった。
もしかしたら。
自分が死んだ後もそこに妹と子猫が眠っていることを忘れないでほしくてわたしを使ったのか。
最近の明日香ちゃんはまるで気になることの後かたずけをしているみたいだ。
彼女は自分が死刑になることを分かっているのかもしれない。




