七日目・「おれのものだけでいいのに」
「あいつは、」
唇が勝手に震える。
こいつは明日香を人間どころか生き物としてみていない。モノだ。
ずっと「あれ」と呼んでいる時点で気付くべきだったのだ。
「人形じゃない!」
「人形だよ。されるがままの存在。それがあの双子に与えられた役割なんだから」
「ふざけるな! 何が役割だ! 結局は己の好きなように扱っていただけだろうが!」
怒りに任せて足に力を込める。
慌てたほかの連中に押さえつけられかけたが伊達に筋力を鍛えていたわけではない。
一人の手を振り払い蹴り飛ばす。あとは立ち上がるだけだ。
立ち上がって、こいつの顔に一発くれてやる。
「ぐぶぉ」
決意もむなしく、棒のようなもの――というかまんま棒で頭を横殴りされた。痛い。
キンと耳鳴りがしたかと思うと再び地面に墜落していた。痛い。
ついでのように背中にも一発入れられて左手がまた騒ぎ出した。クソ痛い。
「おればかりじゃなくて周りも見なきゃ、周りも」
くぐもったうめき声をあげている俺にとても楽しそうに奴が声を掛ける。
殺してやりたい。
「おれは逆にあれらを救ってやったと思っているんだけどね?」
「なに…を…」
何をのたまっているのか。
救ってやった?
誰を? 明日香たちを?
「何も感じなくなれば、苦しくも辛くもなくなるんだよ。そうなれば何されてももう大丈夫だろう?」
「どうして傷つけることしか考えないんだよ! お前はそうでもしなきゃ人と付き合えない臆病者なのか!」
「…関口も同じこと言ってたなぁー。あれは自分護ってくれるタイプに惚れるのかな。気持ち悪い」
誰だそれ。
関口なる何者かのことはそれ以上言及せず、奴は不機嫌に地面を蹴る。
それからそばにいた男から棒を受け取って――こいつがさっき俺を殴ったのだろう――肩に担ぐ。
これから何をされるかはそれとなく理解できた。
死んでも構わない。だが、だが明日香と岡崎がここに戻ることだけは困る。
頼むからここに来るなと。そう願うしかなかった。
「あれは、おれだけのものだけでいいのに。どーしてこう邪魔が来るのか」
ため息混じりにそういって、奴は棒を振り上げる。
木か。金属とどっちが痛いんだろう。
意識を手放す直前に考えたのはそんなばからしいことだった。
【六日目 終了】
【残り 二十四】