俺は誰?
真田幸村への転生もの 第一話です。よろしくお願いします。
「くっそ、何だよ。定時直前に今日締めの仕事なんて持ってくるんじゃねぇ」
悪態をつきながら、夜のオフィス街を歩く。もうすぐ三十歳。未だに出世の見込みもなく、毎日ひたすら働き続ける日々だ。
「はぁ、疲れたな。家に帰ったらすぐ寝よう」
独り言を呟いたところで、返事をしてくれる人などいない。
そんなことを考えながら横断歩道を渡ろうとした、そのときだった。
キキーッ! ガシャン!
けたたましいブレーキ音。視界の端に、こちらへ突っ込んでくるトラックが映った。
疲れた身体で避けることなどできなかった。
鋭い痛みが全身を貫き、俺の意識は途切れた。
――死んだ。
はずだった。
だが目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。
背中に伝わる、柔らかな感触。見慣れない木の柱に、紙の張られた建具。身体の下には畳が敷かれていた。
「……どこだ、ここ」
病院……ではないだろう。畳の上に患者を寝かせる病院なんて聞いたことがない。
事故にあったはずなのに身体は全く傷まない。戸惑いながら身体を起こすと、目の前にいた女性が声を上げた。
「まぁ、殿! 殿ぉ! 源次郎様がお目を覚ましに!」
そう言ってどこかへ駆け出してしまった。
源次郎?
それが、この身体の名前なのだろうか。というか殿っていつの時代だよ。
そんなことを考えた瞬間、激しい頭痛が俺を襲った。
『貴様、何者だ。私の身体を乗っ取る妖の類か』
頭の中に、知らない男の声が響いた。
気がつけば、目の前の部屋は消え失せ、辺りは真っ暗になっていた。その闇の中に、若い武士の姿が浮かび上がっている。
……誰だ、こいつ。
もしかして、この身体の持ち主か?
どう説明したものかなぁ。未来から転生してきました、なんて言って信じてもらえるわけがない。そもそも、ここがどこなのかすら分かっていないのだ。
そうだ。とりあえず、さっき呼ばれていた名前を名乗っておけばいいんじゃないか?
「俺の名は源次郎だ」
よし、完璧。
……と思ったのも束の間。
『何を言う、貴様! それは私の名だ! 己の名でもないものを騙るとは、やはり私の身体を乗っ取る妖であるな!』
あー、駄目だ。完全に逆効果だった。
いや、実際に身体を乗っ取っていると言われれば、否定しづらいんだけどさ。
「一つ言っておく。俺は妖なんかじゃない。人間だ。……いや、お前からすれば、妖みたいなものなのかもしれないけど」
『信用できるか。妖は皆、そのように人を騙すのだ。父上からもそう聞いたことがある』
父親がいるのか。
なら、その父親に会えば、ここがどこなのかくらいは分かるかもしれない。
そう考えていると、次第に視界が開けてきた。
どうやら、いつまでもこの暗闇にいるわけではなさそうだ。
……よし。まずは現状把握だ。
『待て。まだ話は終わっておらぬ!』
「はいはい、分かったから。とりあえず、落ち着けって」
『誰が落ち着けるか! 必ずこの身体を取り戻してみせる。覚悟しておけ!』
……先が思いやられるな、こりゃ。よくある転生系みたいに簡単にはいかなそうだ
拙い文章かも知れませんが読んでいただきありがとうございます。何かありましたら感想などお待ちしています。




