ハチ:おはよう
寝ている時に見る、夢って言われるあれが、俺はどうも気に食わない。
なんだかおかしかったり、昔笑ってた人が何食わぬ顔でそこに居たり、突然場所が変わったり。
何よりそれを、起きてしばらくすると忘れてしまう。今もアレクト自走砲の後部で揺られながら、さっき見てたはずの夢の内容を咀嚼するけど、もう少しづつ忘れかけている。
リオと、記憶に居るあの人が何故か同じ部屋に居て、俺は窓の外をぼんやりと見つめる。そんな夢だった。
何度もリフレインする言葉が、少しづつノイズ混じりになっていき、そして何と言ったか分からなくなる。
どちらも都合の良い言葉を並べていた。だから気に食わない。
「ホルン」
「何?」
「なんでカリンと一緒に居るんだ?」
ミズキは助手席で、カリンとフェタは後部の手すりに掴まったまま寝ている。今は何時だろう。夜なのは分かる。
「なんで言わなきゃダメなの?」
「じゃあ別にいいですよー」
星を見上げる。相変わらずよく見える。どれが天の川だろう。
「……カリンと何年一緒なの?」
「4年」
「長いな。種子島に行きたいってのは、いつからなんだ?」
「さぁ。でも関係なく、海峡は嫌いだよ。進めないのはつまらないし」
「分かる」
戦車が揺れる度に、フェタが落ちるのでは無いかと不安になる。鳥の声がした。少しだけ廃墟の背が高くなった。
「……カリンが、私を貰ってくれるって言ったから」
ボソリとホルンが言った。
「……え?すげぇな」
「……」
それ以上何か言う気は無かった。10年前、俺があの子になんて言ったてたか覚えていないから。
きっと似たような、恥ずかしくて守れない約束でも言ったんだろう。
何となくカリンの脛を蹴る。パッと起きたカリンが俺を見る。
「よう、おはよう」
「……うん、おはよ」
ホルンが俺を見る。薄い黒の中「何してる」って顔をしている。
アレクトが坂道を登る。少し霧がかってきた。フェタが落ちそうになって起きた。涎を拭いて律して座る。
「おはよう、フェタ」
「おはよ」
おはようという言葉は、お早うから来てるのは知ってる。ただなんというか、語呂が悪いし言いにくい。
もしも俺が天才ならば、起きた時に言う新しい言葉を考えるのに。
どこまで登っただろう。木々を抜ける坂道を登り終えて、少し開けた場所に出た。
カリンの目に、朝日が反射した。フェタの顔が晴れる。後ろを見ると、開けた場所から見える木々の額縁の中に、雲海があった。
「ホルン、止めろ!」
「はぁ」
ホルンが戦車を停める。フェタが真っ先に降りる。ミズキを揺すって起こすが、フニャフニャと言いながら目が開かない。
そこまで高く登った気はしなかった。下は雲になっていて見えない。少し遠くで山の頭が微かに出ている。横から照らされる太陽で雲の陰影が濃くて、なんだか柔らかい雰囲気を感じる。
カリンが近くの石碑らしきところに座る。雲海を見ながらポーチからナッツを取り出して食べ始める。フェタが手を出し、カリンがそこにわし掴みでナッツを渡す。
「わぁ」という声で、ミズキが起きたと知る。アレクトにカッコつけてもたれる。
こういう時間も悪くないな。なんだか最近バタバタしてて、この感情は忘れかけてた気がする。
欠伸をした。あれ、夢の内容はなんだったっけ。思い出そうとして、出てきたのはあの子の顔だけだった。
ボリボリとナッツを砕く音がする。
「カリン、俺にもくれよ」




