カリン:流れ
流出の流れがほとんど見えなくなる。ホルンに目配せをするとガスマスクを外す。
「ハチ、外していいよ」
ハチもガスマスクを外して唸る。まだ街っぽいけど、旧市街は抜けた。
「あー空気空気。というか口元が蒸れるし、服は汚ぇし……」
「お疲れ様」
ハチは急に姿勢を正す。
「カリンも、ありがとうな」
「どういたしまして」
なんだかこそばゆい。でも、ハチとホルンが話していると、少しだけ羨ましい気持ちはあった。
僕がもっと知識があれば、会話に参加出来るんだろうか。妬みと言うと大袈裟だけど、完全に否定は出来ない。
「どっか川無いの?水浴びしようぜ」
「あるんじゃない?でももう少し離れないと、化け物来るかもよ?」
ホルンの言葉に乗ってみる。
「来ないとは思うけど」
「茶化しただけ」
やっぱり難しい。
「おっ、あそこはどうだ?」
ハチが指さす。建物の間に川があった。戦車が通れそうな土手を下って止める。
川は綺麗で、それなりに広い。深さも無さそうだが少し勢いはある。
「丁度いいかも」
ホルンが言う。僕も頷く。
「よっしゃ!早速この血を流してくるぜぇ!!」
「あ、ハチ……」
ハチが駆け出す。止めようと手を伸ばしたが届かなかった。
「ぎゃぁぁぁああ!!」
腿まで入ったハチが固まって悶絶している。さっき撃たれた傷は、ジェルで止血していただけで、まだ塞いでない。
「あいつ馬鹿なの?それとも、もう痛くなかった訳?」
川に入り、ハチの手を引いて岸に戻る。
「ハチ、そのシャツはもう捨てな。血を落とすのは厄介だから」
「そうだな。そうするか」
ガチガチな顔でハチが言う。ホルンが医療箱を取り出す。
「カリン、休んでていいよ」
「え、いや。僕もや……」
そこまで言って思い出す。
「うん、ありがとう。洗車だけはやっとくよ」
「お願い」
土手の戦車の荷台からバケツと掃除道具を取り出す。川まで降りて水を汲み、戦車の外装に掛けて、血で汚れたところはブラシで擦る。
狙撃手にやられて剥げた部分を見つけた。助手席のシートにも穴が空いている。装甲を開けて中を確認するが、基部に当たった訳では無いらしい。シートの裏の小さな隙間に、ペレットが挟まっている。取り出して捨てる。
「カリン、俺にもやらせてくれ。女の水浴びだから追い出された。それはそれで危なくないか?」
「あー」
ハチが来た。服を脱いで、荷台から新しいシャツを取り出して着る。
別に、振り返って数歩出れば見える位置ではある。
「ありがとう。じゃあこれ」
ブラシを渡し、外装の掃除はハチに任せ、僕は基部のメンテナンスをする。
「戦車の洗車……片手で出来るもんなのか?」
「まぁ、慣れたかな」
「まぁ、これからは俺と言う腕が出来たから、いつでも頼ってくれよ!」
「そうさせてもらうよ」
一通り磨き、水を掛ける。布で拭き上げる。元々くすんだ色の戦車は、洗車をしても実感は湧きにくい。
「なんか変わったか?」
「まぁ、細かなところは」
それでも、胞子を付けて走り回るのは悪いから、必要なことだ。
出発からまだ2日目。洗濯の必要は無い。暑い。ジャケットを脱いで荷台に座る。ホルンとミズキが戻ってくる。
「終わった?」
「終わったよ」
「ありがと」
「よし!じゃあ次は俺らが水浴びだな」
「そうだね」
ハチが盛り上がって川に飛び出す。ミズキがそれを岸で見つめる。僕の隣にホルンが座る。
「……どうする?」
「何が?」
「2人。本当に連れてく?」
「別に、いいんじゃない?なんで?」
「なんか、行きずりみたいな感じじゃん?まだ2人の事、あんまりよく分かってないし」
僕はてっきり、ホルンはもう2人と打ち解けていると思っているが、ホルン的には違うらしい。ミズキに優しく接し、ハチと楽しそうに話す。別に、嫉妬じゃないけど。
でも上手く馴染めてない自分が、ただの守ってくれるレーダーみたいになっている気がしている。
「……それでも、こうして誰かと一緒に動くって、久しぶりだから。楽しいんだ」
「まぁ、カリンが良いならいいけど」
「ホルンこそ、やりたい事があったら言ってね」
「分かってる」
僕が回収員から、師匠の元から逃げ出した時、ホルンが付いてきた。その理由は今も聞けないでいる。歳は近かったけど、当時から密接な付き合いは無かったはずだ。
この旅の何処かで聞けるんだろうか。彼女は、どこに向かっているんだろう。
ハチの絶叫が聞こえた。立ち上がってマフラーの位置を直し、水浴びに行く。




