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騎士の私が大公の娘を演じてモンゴルと婚姻交渉に行ったら、暗殺事件に巻き込まれて国ごと包囲された ~La Storia:三川光の「春秋Annales」~  作者: 三川光
Glava Dva:???の合併

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15.減税一年。

注曰く:戦禍の為。

15.減税一年。


注曰く:戦禍の為。


 光と闇の対立が夕焼けを境に、空を引き裂いていた。ヴェローナは午後いっぱい、戦死した民の葬儀に追われ、明日の戦没者の合同葬儀の準備もしなければならなかった。手伝えることがあるかどうかもわからない。あちこちの教会から弔鐘が四方に響き渡り、劫火をくぐり抜けた城下町が、先に逝った者たちに別れを告げていた。


 私にできることといえば、晩祷がほぼ始まろうとする頃に中央大聖堂へ駆けつけることぐらいだった。


 大聖堂の門は開け放たれ、外から金色の聖障(イコノスタス)が蝋燭の光に照らし出されているのが見えた。天井には顔や体を描いた数枚の画像が斑に嵌め込まれ、それぞれ首をかしげて中央を向いている。聖像と同じく奇妙な佇まいだったのが、聖壇の上に立つ灰色の髪の若者だった。顔色は蒼白で、白い祭服を纏い、金の十字架を胸にかけ、唇をきゅっと結んで、晩課のテキストを不自然に握りしめている。名はステファン。この者が主の恩寵を受けた年数は、私が殿下の恩寵を受けた年数とほぼ同じだが、数年前のロストフの遠征でストーリアの聖職者がほとんど全滅したため、やむを得ず彼に主祭を任せているのだった。この灰白い若い神父とまるで不釣り合いなのは、堂内から立ち上る熱気と、数え切れないほどの人々だった。服装を見れば一目瞭然で、地元の農民から、イタリア各地から駆けつけたばかりの商人、先ほど死の影から逃れたばかりの兵士まで、ヨーロッパ中がここに詰め込まれていた。


 本来はヴェローナを手伝うつもりだったが、もう逃げ出したかった。迷った末、先に聖堂の倉庫を覗いてみた。堂内の盛況を見れば、ここでは私の出る幕はない。ヴェローナもこんな力仕事の場にいるはずがなかった。堂内は人影が重なり合い、見分けのつくのは聖像の傾いた顔ばかりで、妹の姿も見つからなかった。入口の修道女から小さな十字架を一つ受け取った。


「すみません、すみません、お通しください。あ、失礼、あなたでしたか。ああ、ありがとうございます。」


 今日は堂内の商人が異常に多く、見知った顔も少なくない。私が教会に現れたのを見て、少なからぬ商人の瞳孔が商会の大門に開いた穴のように見開かれ、慌てて道を空けてくれた。人混みの中に一筋の道が開かれた。おお、まるでモーセのようだ。


 もっとも、商会のことを思い出すと、一万人の給養のことが頭をよぎり、大聖堂の熱気に煮られたかのように頭がまた痛み出した。


 ようやく聖障の近くまで擦り寄って見ると、ステファンが手にしている小冊子には「イエス・キリストの受難」と書かれていて、字体にどこか見覚えがあった。見回すと、聖壇の一角で修道女たちを率いるヴェローナが汗を拭い、胸の十字架にそっと触れていた。彼女も私に気づくと、目を大きく見開いた。私は瞬きして、小声で何か手伝えることはないかと聞くと、彼女は白い目を向けた。


「にぃさんにしてもらえる一番のお手伝いは、早くどこかに座ることです。もう始まりますから。」


 壇上で憂鬱そうな神父が私に気づいた。まるで腹を空かせた復活のキリストを見たかのような目で、私に食われるのではないかと怯えている。だが受難しているのは私のほうだ。先日の戦いの疲労と興奮が重なり、息をするだけで湯屋に浸かっているように苦しい。このまま居続けるのは十字架に掛けられるに等しく、引き返せばまた天罰で塩の柱にされるかもしれない。今日はちょうど聖ペトロと聖パウロの日で、城下町の漁師と城の兵士がひしめき合い、一人ひとりが十字架を手にして、身分こそ異なれど、皆が晩祷の鐘を待っていた。それと比べると、ますます引き返しにくい。


 とはいえ、聖徒の大祝日に教会に来ないほうが、最大の敬虔であり民への配慮ではないか、という気がする。


 見回すと、異様に空いている席が二ヶ所あった。最前列の四本の長椅子のちょうど真ん中、通路を挟んだ両側。ステファンのあの灰白い死んだ魚のような目に見つめられたい者などいないのだろう。私は近いほうの空席に適当に割り込んだ。隣の三人の男――巻き髪で金糸の短衣を着た、貴族風の出で立ち――がやや戸惑いながら席を詰め、固まった。


「おい、兄弟(アンダ)。お前も敬虔な人だったんだな。」


 真ん中の男が、隣の初老の男越しに小声で話しかけてきた。私が顔を右に向けると、驚いたことにバトゥの髪がヨーロッパ貴族の巻き毛に束ねられ、まるでハンガリーの公爵のように見えた。スブタイとジェベが苦い顔で左右から挟んでいる。周囲の市民や商人たちが、この奇妙な組み合わせが教会の言葉で会話する様子を驚きの目で見ていた。


「あれ、殿下。なぜこんな所に。」信仰心がどれほど強烈なのか、基本的な安全すら顧みないとは。


「兄弟と呼べよ。――商人たちに聞いたんだが、お前は晩祷には来ないのか?」周りからひそひそ声が聞こえた。ちょうど教会の鐘が鳴り、ステファンがいくらか怯えた目でこちらを一瞥した。バトゥがうなずいて答えなくてよいと示し、厳粛な面持ちで姿勢を正した。


 祈祷が始まる前に、ジェベが眉をひそめて呟いた。「ああ、やはりそうだ。来なくて正解だったのだ。わしも来たくはなかった。」


 千人隊長は真ん中に挟まれて縮こまり、手にした十字架のように、私の知るあの人物と比べて不釣り合いに小さい。スブタイが遠くの端から聖壇を指さし、静かにするよう促した。


 私は気まずくうなずいた。ジェベが首を振り、二人の同行者を真似て、ぼんやりと聖壇を見つめた。聖事の最中に妄言を発するわけにもいかず、頭を左に向けて、向かい側に座る殿下、ティルーン、ハイデ、クレータを見やった。クレータとヴェールを被ったハイデの表情はまったく同じだった。口がわずかに開き、私の顔を凝視している。殿下とティルーンはといえば、無表情のまま十字架を身につけている。


 待て――殿下とティルーンがなぜ城内の礼拝堂ではなく中央大聖堂にいるのだ。クレータとハイデはなぜそばに。


 考えている暇もなく、すぐに後方を振り返った。ドミトリーらの衛兵が全員私服に着替え、灰・黒・褐・赤の人混みに紛れ、最前列の椅子を半ば包囲していた。少し安堵した。


 殿下が中央大聖堂に現れたのを、私は一度も見たことがなかった。少なくとも、ヴェローナに会いに大聖堂へ行った数えるほどの日々の中では。おそらく殿下は私の進言を聞いて、公衆の前に姿を見せてくださったのだろう。そう思うと、若い司祭が今日なぜこれほど緊張しているのか、おおよそ察しがついた。


 儀式は果てしなく長かった。まずステファン自身が一巡の祈祷を行い、続いてヴェローナが修道女を率いて歌い始め、ようやく神秘で荘厳な雰囲気が生まれた。この時、スブタイの頭が私の肩に寄りかかった。老将軍はすでに天賜の休息法を存分に享受し始めていた。


 続いてステファンが陰気で退屈な調子で小冊子を見つめながら説経を始めた。賛美に続いて頌歌、そしてまた賛美。何時間続いたかもわからないまま、ステファンが疲れ死ぬのではないかと心配になった。よく見ると、説教の状態に入ると体がまっすぐに伸び、声も力に満ち、まるで回光返照のように、語るほどに精気が漲っていく。少し安心した。


 隣からさほど大きくない鼾が聞こえた。私が反応する前に、バトゥが先にジェベを数回つついた。ジェベは困惑して目をこすりながら顔を上げ、慌てて姿勢を正して、小声で詫びた。ちょうどこの時、ステファンが「光栄は父と子と聖神に帰す、今も何時も世世に」と唱えたところで、ジェベが急に声を潜めて私に聞いた。「あいつが今言った世世何時とは何時のことだ。」こんな厳粛な場で、私は危うく吹き出すところだった。遠くのスブタイが堪えきれない顔で聖壇を指さしたので、二人とも何事もなかったように姿勢を正すしかなかった。


 殿下のほうをちらりと見ると、殿下もこちらをこっそり見ながら微笑んでいたが、私の視線に気づくとまた真面目な顔に戻り、壇上のステファンを見つめていた。隣の三人は眉をわずかにひそめ、こちらの茶番劇を見まいと堪えているようだった。


 今日の祈祷ではこの句が特に多く、聞くたびに笑いたくなった。この句のおかげで、蒸し暑さと退屈の中で眠り込まずに済んだ。数時間を経て、ステファンがようやく振り返り、血色の良い顔で十字架を掲げて左右に振り、祈祷の終了を告げた。もう帰り始めた商人もいた。ステファンはまだ祈祷の余韻に浸っており、咳払いをしてから短い説教を始めた。


「み、み、皆さん!」


 この男は経を読まない時は吃りだったのだ。後方から微かな失笑が漏れ、ステファンの顔の血色が引き始めた。


「皆さんもご、ご存じの通り、我がストーリアは最近、た、大変不幸なで、出来事に見舞われました。」


 後方の失笑がやや収まりかけた。


「悪しき異教徒の侵害を受けました。し、しかし、昨日我らは悪の象徴を打ち破り、今日こそはと、屠竜のせ、聖ジョルジョを記念いたします。そして主に帰依したば、ば、ば……こ、これは何というお名前で……」


 堂内が大笑いに包まれた。ステファンの顔の赤みがそのままバトゥの顔に移り、バトゥの笑みがスブタイの顔に移った。ちょうど祈祷は終わったものとされ、ヴェローナが慌てて駆け寄り、耳元で一言囁いた。


「はい! 帰依された拔都(バトゥ)様は、洗礼名をヨハネとおっしゃる、ぜ、善人のカン様でいらっしゃいます。悪しき異教徒にと、と、と、囚われておられましたが、ストーリアの奮戦の、のおかげで、今日自ら奉神礼にご臨席くださいました。加えて我らの君、君主、大、だ、大公殿下も、こ、この地にお、お出ましくださり、諸、諸位とともに主の栄光を仰がれます。」


 殿下が無表情のまま立ち上がり、後方に向かって軽く一礼した。群衆から驚嘆の声が絶えなかった。ステファンとバトゥはようやく落ち着いた。


「ストーリアの受難はキリストの受難のごとく、ヨーロッパの君主たちの紛争という原罪を洗い清める犠牲であり、モンゴルの異教徒を帰依に導く松明であります。ゆえに、兄弟姉妹の皆さん、今後も主に仕えるがごとく、神聖なる君主にいっそうの忠誠を捧げてください!」


 最後にようやく一文を吃らずに言い切った。おそらく前半はヴェローナが書いてやったもので、この最後の一文だけが本人の心から出た言葉だったのだろう。堂内の人々が拍手した。殿下が後ろを向いて微笑みながら頭を下げ、白百合を嵌め込んだ黒い帽子をわずかに持ち上げ、群衆に応えた。バトゥもそれに倣って後方へ一礼した。


 ティルーンも立ち上がり、傍らのハイデとクレータを率いて先に退出した。私もそれを見て、群衆がまだ殿下と交流している隙に追いかけた。


「三川閣下でしたか。」ハイデが黒いヴェールを軽く持ち上げ、目を半ば隠した。二人のギリシャの美人が私を見つめていた。その表情にはどこか憂鬱が漂っていた。


「ハイデ殿下……」私は謝りたかったが、声が喉に詰まって出なかった。


「何です?」彼女は微笑みながら私を見た。


「ルイージ殿の件……」


 ビザンツの公女は首を振った。その表情は夜の闇と黒紗の下に隠されていた。


「お気になさらず。祈祷を聞いて、あの人も天国で安らぎを得ていると信じます。私には、まだやるべきことがありますから。」


「ビザンツ帝国のこと……ですか。」


 ハイデが不意に声を上げて笑った。その声にはある種の解放感があった。


「まさか。閣下。私はもうこれ以上失いたくないのです。それに……」


 彼女は自責するように足元を見つめた。真絹の黒衣が白い玉砂利を掠め、半分の顔は金色の大聖堂に照らされ、もう半分は彼女自身の影に覆われていた。


「姉さん……」クレータがハイデの腕に手を添え、潤んだ大きな目で私を責めるように見た。


「大丈夫よ。――正直に申しますと、最後にコンスタンティノープルから持ち出した証を、いつの間にか失くしてしまったのです。」


 私は驚き、殿下を取り巻きながら教会から散っていく人々をちらりと見て、ギリシャの二人を倉庫の裏に引き込み、深い茶色の石壁を背にして小声で聞いた。


「証とは何ですか?」


「ローマ帝国の金印です。――少なくとも副官のあなたならご存じでしょう、外交文書に押すあれです。」


 私がその類の印影を最後に見たのは、今朝のことのようだった。というよりも、まさに今朝、ハンガリーが国境を開放した途端に遅ればせながら、何よりも早く届いた外交文書に押してあったあれだ。


「もしあれがあれば、誰かに託すなり、ニカイア帝国に行って皇室に忠実な兵士を見つけるなりできた。今はもう金印もない――私はただの一般人です。」


 ハイデが不意に顔を上げ、決然と私を見た。


「最後に一つだけお願いをさせてください。」「コンスタンティノープルの宮殿で国の滅亡という苦痛を知り、城下の民家で死別の悲報を受けました。今の私はあの子を除いて、俗世に未練はありません。ただ今日改めて教会に来て、ようやく世の神秘は巡るのだと悟りました。人々それぞれ、国々それぞれ、その生死と興亡が、一週の七つの星のように巡る。――どうか司祭に伝えてください……」


「姉さん?」クレータが驚いて口に手を当てた。


 ハイデは躊躇わなかった。夜風がヴェールを揺らし、教会の外の喧騒と夏の夜の蝉の声が奏でた。「私とあの子は、主に身を捧げると決めました。剃髪(トンスラ)をお願いいたします。」


「お待ちください、それはあまりにも突然で……」


 彼女の笑顔は、目から零れ落ちる涙の雫のように苦い。


「おわかりですか? 私はもともとギリシャに留まりたくなかっただけ。修道女として一生を送るのは嫌だった。姫のような暮らしを続けたくて、しかも宮殿からも逃れたくて、自分から飛び出したのです。勝手な女でしょう?」


「乱兵に捕まった時から絶望し始め、後悔し始め、これは過ちだったと。クレータのように、自分を匿ってくれる城壁の中に暮らす幸運にも恵まれず。」


 クレータが壁にもたれ、ハイデの腕を掴もうとしたが、振り払われた。


「ようやく面白くて私を愛してくれる男に出会えたのに、私はまた愚かにも、公女が山賊に嫁ぐのは相手の栄誉だと思い込んだ。聖ソフィア大聖堂で万人の祝福を受ける姿まで空想し始めた。勝手な女でしょう?」


「こうなった。あの可哀想な子を除いて、私の愚かさと貪欲のせいで。何もかも失った。私が愛したもののために、私を愛した者を死なせた――それどころか私と面識すらないこの死者たちまで。まるで金印のためにイエスを売ったユダのようです。」


 彼女は俯いて地面を踏みつけ、足元の石を全て砕きたいかのようだった。私はその手を掴んだ。


「閣下! 軽率ですよ、まるでギリシャ人のように……」ハイデはそう言いつつも、振り払わなかった。


「落ち着いてください。一つだけ聞かせてください。もしあの宝物が見つかったら、この厭世的な考えを捨てていただけますか?」


 クレータは首を振り、ハイデの背中をそっと押さえた。


「姉さん。どうか」


 彼女は水鏡のような目を上げ、また伏せた。


「ありもしないことで慰めないでください。」


「あの宝物を最後に見たのはいつですか?」


「わかりません……いいえ、もしかしたらストーリアの国境で、あの人と結婚した時かもしれない。神父の祝聖がなかったから、帝国を象徴する証に向かって誓ったのです。」


「山賊に盗まれたということは?」


 睫毛に銀の光を帯び、ハイデの赤い唇が弧を描いた。視線の先に仰ぐ、欠けた月のように。嗚咽を含んだ声には、言い表し難い安堵感があった。


「あなたはルイージをわかっていない。落ちぶれた公女の安全すら守ろうとした人が、どうしてちっぽけな山賊に、この神聖な財産を侵させるでしょう。」


「閣下、姉さんを少し休ませてあげてください。」クレータが泣き笑いのハイデを心配そうに見つめ、哀願するように私を見た。


「わかりました。ですがハイデ殿下――お約束します。この宝物がまだストーリアの国内にある限り、必ずお手元にお届けします。」


 ハイデは長い沈黙の後、ようやく軽く声を出した。


「それは誰が、何の目的でなさる約束ですか?」


「ストーリアの騎士が、兄弟姉妹を笑顔にするためになす約束です。」


 ハイデが吹き出した。クレータだけが複雑な表情で私を見ていた。


「あなたは教会にも来ないくせに、正教会の正義の使者を気取らないでください。でもありがとう――兄弟姉妹という言葉を、クレータ以外のあの神父や貴族ではなく、あなたから聞けると、本当に少し救われます。」


 私はクレータと目を合わせた。信徒の目に映る兄弟姉妹には教友も含まれる、という視線を互いに交わした。


「はぁ、一つの幻の約束が、あなたの心に占める時間は、これから始まることほどでもないでしょうね。」ハイデの視線が私の肩越しに教会の方を見た。


「来なさい!」軽快な足音が私の背後で止まり、水星が大地を貫くような声が背中に突き刺さった。驚いて跳ね上がった。


「殿下が民の請願を受けています。あなたは記録係でしょう!」


 振り向くとティルーンの高い鼻が私の顔に触れそうだった。後ろに跳んだが、危うくビザンツ帝国の公女たちの腕の中に倒れるところだった。


「なぜ下がるのです! 早く!」


 ティルーンは今にも気が触れそうだった。彼女に引きずられて教会に戻った。教会の外には住民の長蛇の列ができ、その声は狩場の森にまで届きそうだった。


 ぼろぼろの衣を着た若者が涙ながらに訴えた。「高貴なる君主さま! 私の家族は城北の村に住んでおりましたが、蛮族に皆殺しにされました。どうかお裁きをお願いいたします!」


 聞きながら、この男はわざとではないかと疑った。我が国とモンゴルがようやく和平に至ったところで、意図的に難癖をつけに来たのだろう。だが後ろの民は号泣しており、殿下は適切な答えを返さぬわけにいかない。私とともに書記席に座るティルーンが筆を置き、わずかに首を傾けてこの光景を見つめていた。


 殿下は温かい眼差しで若者を見つめ、悲しい表情を見せて問いかけた。「ローマの法は外邦の蛮族を罰することはできませんが、私はあなたのために仇を討ちましょう。どうか亡くなられた親族の名前を教えてください。」


 この男に一瞬の躊躇が見えたことがますます疑わしかったが、十数人の名前を一気に挙げた。私とティルーンが目を合わせた。その名前は全て、先日処刑された食糧を横領した無頼漢のものだった。殿下はまるで気づかない様子でうなずき、胸のポケットから数枚の紙を取り出して目を通し、若者を見上げた。


「なんと気の毒なご一家でしょう! ですがご安心ください。この方々を殺害した疑いのある犯人は、すでに我が勇士たちの手で地獄に送られております。城の東十五里の乱葬場と、城北の林のあたりに、それぞれ犯人の死体がございます。鬱憤を晴らしたいのであれば、そちらで存分に鞭打ってやりなさい。」


 男がすかさず問い返した。「どうしてご存じなのですか?」


 殿下がわずかに首を傾け、私を見た。私はよそに見た。


「我が騎士は危急の際、天国の門まであと一歩というところで、大天使(アークアンジェルス)に送り返されました。帰り際に、殺された民の魂と語らい、仇の名を一人ひとり記したのです。」


 難癖をつけにきた無頼漢はこうあっさり追い払われることに甘んじず、泣くのもやめて問い詰めてきた。「君主さま! そのお言葉は奇跡のようですが、どうすれば間違いないと確認できるのでしょうか?」


「こやつが殿下を疑うのか。」ティルーンが歯を噛んで呟いた。今や問題は復讐の是非ではなく、難癖つけでもなく、君主の権威を疑う者がいるということだ。殿下が穏やかな笑みを見せ、衛兵に前へ出るよう促した。


「簡単なことです。あなたも自分で確かめに行けばよいのです。」


 無頼漢は顔面蒼白になり逃げ出そうとしたが、衛兵が左右から腕を掴んだ。弁明する暇もなく、殿下がまず声を張り上げ、後方の民にも聞こえるようにした。


「私を馬鹿だと思いましたか? あなたが挙げた名前は、全て私の財物を騙し取った無頼漢の名前です。間違っていなければ、あなたの家族は城外になどおらず、唯一の被害者はあなたのその仲間の屑どもでしょう?」


 無頼漢がまだ言い逃れようとしたが、殿下が直接、列の脇で見物しているバトゥに目を向けた。スブタイが前に進み出て、穏やかな顔に殺気が一筋走った。


「神の裁きの機会を与えましょう。長剣を一本与えますから、カン様の腹心と決闘しなさい。」


 民の心にある戦争がそうであるように、月の下、教会の前で決闘を行えば、その結果は天意に等しい。だが無頼漢はスブタイの面構えを見ただけで、天意にも救われまいと悟った。今度は泣いて命乞いを始めた。


「汝の隣人を自分のように愛せ、と。目の前で騒いだだけで極刑を用いるつもりはありません。ティルーン、明日からこの者に三日間の晒しの刑を科しなさい。」


 ティルーンが冷笑し、軽く一礼した。衛兵が罪人を引き下げた。この真夏の晒し刑は、死罪に等しい苛烈さだ。


 ヴェローナがいつの間にか長椅子の端にそっと座り、半ば私にもたれかかるようにして、小声で聞いた。「にぃさん。これは厳しすぎませんか?」


「ヴェローナは昨夜徹夜で祈祷していたでしょう。今日も長い間歌っていたし、先に寝なさい。」


 殿下の機知と公正は、私が評価すべきものではなく、民の感嘆と議論が証明してくれる。ヴェローナはふらふらと、私の言葉が耳に入っていないようだった。肩を少し持ち上げて、ヴェローナが横向きに枕にして眠れるようにした。


 聡明で可愛いヴェローナの枕になれるとは、羨望の眼差しが集まった。


「ああ、誰かあの虚弱な騎士に挑戦してくれ。そしたらヴェローナ様を私の膝枕にできるのに。」


「冒涜……」ヴェローナの半ば眠った声とティルーンの冷笑が混じった。ティルーンのほうを見ると、真っ直ぐな冷たい視線に射すくめられた。ティルーンが冒涜と言ったのは……私のことだったのか。


 殿下のさきほどの即決裁判で、やる気満々だった暇人の多くが自ずから退散した。残ったのは、生活苦を訴える素朴な農民や、商売上の訴訟を抱えた商人が殿下の裁定を求めるものぐらいだった。ティルーンの傍には数冊の古い法典が置かれ、殿下でも速やかに調停しきれない稀な紛争に遭遇すると、ティルーンが自ら繰って素早く殿下に報告した。法典の助けもあって、わずか二時間足らずで数瓶の墨を書き尽くし、数百銀貨分の紙を費やし、その百倍の罰金と訴訟費用を徴収して、百人ぐらいの税を免除した。そうこうするうちに、行列の長蛇はほぼ影も形もなくなった。


 その時、広場の外側に二人の主人と二人の従者という奇妙な一行が立っているのが目に入った。主人の二人はそれぞれ黒と深紫の長衣を着て、胸に銀白色の十字架をかけ、厳粛な面持ちで大聖堂の鐘楼を仰いでいる。若く見えるほうは両手を胸の前に合わせ、年長に見えるほうは右手を伸ばして建物を指さしながら、何かを解説しているようだった。二人の従者は長い髪と長い髭をたくわえ、髪は乱れて、ちょうど兜を脱いだばかりのようだった。黒衣に白い十字が描かれ、闇の中ではまるで十字だけが裸で走り回っているように目立つ。もう一人の従者――いや、マルコだ。甲冑を着て兜をかぶらず、息を切らして駆けてきた。


「おい、お前たち、何をやっている! 俺は城壁の上でずっと待っていたのに、お前たちはここで何をいちゃついているんだ!」


 記録の手を止めず、三人が声を揃えて呟いた。「冒涜……」


「何を言ってるんだ。冒涜しているのはお前たちだろう。ああ、俺も金髪の侍女と可愛い修道女と一緒に筆記したいよ……」


「用があるのですかい(・)っ(・)た(・)い(・)。」ティルーンの白い手が夜空を切り裂き、マルコの鼻先を指した。


「だ、大事なことがある!」マルコは息も絶え絶えだった。「ああ、殿下の前にちょうど人がいなくなった。早く、殿下に言ってくれ!」


「何ですか、マルコ閣(・)下(・)?」半ば眠っていたヴェローナがようやく欠伸(あくび)をした。最後に帰りかけていたお爺さんたちが口々にやって来て裁判文書を受け取り、にこにことヴェローナに祝福を求めた。ヴェローナは微笑んで、甘い声で長々と祈りの言葉を述べ、老人たちは敬虔に片膝をついて「アーメン」と唱えた。ヴェローナが小さく手を振って農民の老人たちと別れた。彼女の視線があの奇妙な一行に及ぶと、全身が固まった。


「閣……げほっ……閣下、教皇の枢機卿が来訪されました。しかも二人です。」マルコが咳き込みながらようやく言い終えた頃、殿下も歩み寄ってきた。


「殿下、あちらに……」


 ヴェローナがおずおずと遠くの枢機卿一行を指さした。殿下が目を細め、体を後ろの踵に預け、腕を胸の前で組んだ。


「ローマの主教ですか? ははは……」殿下の愉快な笑い声と平静な目は、まるで別人のようだった。ヴェローナのおずおずとした視線が殿下に向いた。


「もう遅いですから。私が先に挨拶してきます。三川は侍女を数人呼んで、城内の客室を整えてください。明朝十時に、ヴェローナ、三川、マルコはそれぞれ身を清めて謁見の間に来なさい。――護衛は不要です。心配することはありません。」


 殿下はティルーンと衛兵を手で制し、自ら赤黒い前髪を軽く整えてから、ローマからの貴人たちのもとへ向かった。私は興奮冷めやらぬマルコを見やった。


「いやいや、閣下、すごいですよ! 教皇猊下の枢機卿ですよ、しかも二人も! きっと我々に大いなるお褒めの品をお持ちくださったのでしょう!」


 私は思案に暮れたが、水を差す間もなく、ティルーンが片手で衛兵に教会前の片付けを指示しながら、冷淡にマルコに反論した。


「ローマからここまで最速でも三日かかることをご存じですか?」


 マルコの声は浸水した戦船のように急降下した。


「ティルーンお姉さん、そんなに興醒めなことを言わないで。マルコは三川にぃさんと同じで、たまには馬鹿の幸せも必要なんです。」


「おい三川。こいつはお前を馬鹿だと言ってるぞ。」マルコはティルーンとの攻防を諦めたらしく、両手を広げてから下に押す仕草で、私に突っ込みを促した。


「妹がそう言うなら、馬鹿でも構わないさ。」私は笑って、ヴェローナに近づき、軽く肩をぶつけた。


 マルコが疑わしげに私たちを見た。「おい、あなた今日はどうしたんだ? 一言も反論しないのか?」


「私も聞きたいですね。」ティルーンがマルコの横に来て、鼻先を指した。「ところで反論と言えば、あなた今、ご自分で認めましたね。――自分が馬鹿だと。」


 マルコは口ごもり、頭を掻いた。「そうだったか?」


 その時、衛兵が教会の倉庫の扉が開かないと言い、ヴェローナが慌てて駆けて行った。ティルーンもそれを見て、マルコへの追撃の意欲すら消え、長椅子を引きずりながら倉庫に向かった。


「お前ら二人、なぜそこに突っ立っている?」殿下が枢機卿との挨拶を終え、こちらへ歩いてきた。


「あの方たちは船で黒海から来たそうだから、城内の宿は不要です。三川、あとで氷をたっぷり届けてやりなさい。他の者は解散して休ませてよい。――戦後なのだから、自分をあまり追い詰めないことです。」


 マルコはほっとした顔で大きく息をついた。「ああ、ようやく城壁の上に立たなくて済む。天に感謝、ストーリアとローマに感謝。ああ、願わくは光栄が……」


 私は殿下のこの処遇に驚いた。城内の地下室の氷は金塊同然の貴重品で、七月八月の間しか城内の食堂や副官室などごく限られた場所でしか使わない。待ち望んだ七月はもうすぐ目前だが、この配慮はやはり破格の礼遇だった。


 しかし考えている暇はなく、それぞれ別れて、ティルーンと二人で氷の桶を二つずつ持って城の北側、川沿いの船着場へ向かった。二人の騎士はそれを見て十字を切り、口々に殿下の慷慨を讃えた。二人の枢機卿も船から降り、年長のほうがレオーネ(Leone)・ブランカ(Branca)レオーネ(leone)と名乗り、若いほうはセーニの(di Segni)ジョヴァンニ(Giovanni)・コンティ(dei conti)と名乗った。祝福を求めるティルーンに対して、二人はうなずき、私たちに片膝をつくよう促し、右手を天に掲げて十字を描きながら唱えた。


「全能の神があなたがたを祝福したもうように。

父と子と聖霊の御名によりて。」


 先ほどヴェローナに祝福を受けていたお爺さんたちの姿を思い出し、機械的に真似て答えた。「アーメン。」


 ティルーンの声は私よりもずっと朗々としていた。祝福の後、しばらく言葉を交わしてから城に帰る道すがら、ティルーンの顔にめったに見られない幸福な微笑みが浮かんでいるのに気づいた。

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