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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
9/61

特別放送『述べるコメンタリー 第1回』

ノリで書きました、本編と無関係です。読む必要はありません。飛ばしても何の問題もありません。

 

「みなさんこんにちは!唐突になんの脈絡も始まりましたノベルコメンタリー!このコメンタリーでは小説【死んでていいから生きててほしい】を掘り下げ、読者の方々がより、この作品の世界観に引き込まれるようにをモットーに始まった番組です!パーソナリティーは私ーー辰波彩音が勤めさせていただきます!そして!今回私と一緒にコメンタリーを盛り上げてくれるゲストは【死んでていいから生きててほしい】には欠かせないこのお方ーー音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音の動画を投稿した美鈴早苗(みすずさなえ)さんでーす‼︎」

「どうも、美鈴早苗です‼︎」

「いや違ああぁう‼︎」

「うわっ、あゆっち⁉︎」

「うわっ、二階堂歩夢さん」

「違うだろ!どう考えても欠かせないお方で出てくるキーパーソンは俺だろ‼︎」

「えっ!そんなことないよ‼︎本編であゆっちだって美鈴早苗さんのおかげで美空さんに勝てたわけでしょ?」

「まぁ…それはそうだが…」

「ほらね!キーパーソンは美鈴早苗さんじゃん!」

「うぐっ……それを言われるとたしかにそんな気もする…けどいくらなんでもキーパーソンにしては出番が少なすぎるだろ‼︎」

「うぇーん、うぇーん、美鈴早苗、悲しい、高校中退して動画投稿を始めて10年ーーやっと5桁の大台に乗った動画が評価されてお仕事が舞い込んできたと思ったのに、こんな扱いされて美鈴早苗悲しい…うぇーん、うぇーん」

「ほら!美鈴早苗さん泣いてるよ!あゆっち、謝って‼︎」

「うぐっ……ちっ、わかったよ…美鈴早苗さん…キーパーソンじゃない扱いしちゃって、悪かったな…」

「美鈴早苗さん、どう?」

「美鈴早苗的に、誠意が足りないと思います」

「はぁ⁉︎」

「ほら!美鈴早苗さんが誠意足りないって!謝って‼︎」

「……一応言っておくけどな、俺はこの番組のディレクターに『今日はキーパーソン役で出演なんで、そこんとこ、よろしくお願いします』って言われてここにきてるんだぞ⁉︎」

「えっ、そうなの?」

「台本をよく見てみろ、そこには俺の名前が書かれてるはずなんだ」

「ん〜……あっ!本当だ!これ私が【二階堂歩夢】って書いてある部分に二重線を引いて、何故か【音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音の動画を投稿した美鈴早苗さん】にしちゃってる⁉︎やっちゃった!私寝ぼけてた!」

「やっちゃった!じゃねぇわ!どうやったら【二階堂歩夢】を寝ぼけて【音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音を動画投稿した美鈴早苗さん】に出来るんだよ⁉︎」

「仕方ないじゃん!なっちゃったんだから!結構間違いやすいんだよこれ‼︎」

「間違いやすい⁉︎二階堂歩夢と音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音を動画投稿した美鈴早苗さんが⁉︎」

「そうだよ‼︎二階堂歩夢と音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音を動画投稿した美鈴早苗さんはすんごい間違いやすいよ‼︎けっこう頻繁に起こるよ‼︎この前も近所のおばさん5人ぐらいが間違えてたもん‼︎」

「そんな頻繁に起こるのか⁉︎……まぁいい…とりあえずコメンタリーを始めよう。10,000文字以内に収めろ、ってディレクターに言われてるだ」

「へぇー、さっすが主人公、ディレクターの犬ですか、まぁそうですよねぇ、いっぱい出番もらってまよもんねー」

「あぁ⁉︎俺が犬だと⁉︎主人公であるこの俺が、そんな小さな動機で動くわけないだろ!」

「ふーん、じゃあ宮鷹由莉奈のグッズか」

「……よし!コメンタリーはじめてくぞー‼︎」

「……犬め…」



 5月1日、現在の天気は雨、俺――二階堂歩夢の人生は、どうやら17歳という若さでその生涯を終えるらしい。

「……ごふっ!」

 倒れている俺の背中にまた包丁が突き立てられ、俺の口から血が溢れ出す。

 あーあ…なんか、まだやりたい事とかあったんだけどなぁ…まさかコンビニの帰り道でいきなり刺されるとは…通り魔が出るなら出るって教えてくれよ…対策のしようがねぇぜ……まぁもう、いいか……なんか、刺された場所の…痛みが…無くなって…眠く……って…き………



「カットはしたが、まぁこんな感じだよな、プロローグの俺が通り魔に刺されて殺されたシーンだ。いつ見てもこのシーンは心にくるな…刺された背中が痛むぜ…」

「あゆっち…かわいそうに…私が見てないところでこんな目に遭っていたなんて…ていうかあゆっち死んでたんだね」

「あぁそうだよな、まずそっからか。俺は妹に頼まれて宮鷹由莉奈の限定缶バッジをコンビニに買いに行った帰りに、背後から通り魔に滅多刺しにされて死んだんだ」

「宮鷹由莉奈ちゃんが好きなのはわかるんだけど、それが原因で死ぬっていうのは最高にダサいよね…」

「は?好きなものが原因で死ねるなら本望だろ。まぁ、俺はそんなに宮鷹由莉奈ファンってわけでもないけどな、あれが好きなのは俺の妹だ」

「はぁ…さいですか…」

「なんだよその目は。まぁいい、とりあえず次いくぞ」

「はいはいドルオタさん」



「ねぇ、起きてってば!お兄ちゃん!」

 ドゴッ!と頭部を誰かに強く殴られる。

「いってぇ〜‼︎」

 ぐわんぐわん、と頭は衝撃で多少揺れてはいるが、俺――二階堂歩夢は強制的に意識を覚醒させられた。

「起こす時はもっと優しくしてくれよ!」

 くそっ、なんなんだよ人が気持ち良く眠っていたというのに…。

「も〜お兄ちゃんが起きないのが悪いんでしょ、こんなところで寝て…風邪ひくよ!」

 俺はヒリヒリと痛む頭部を抑えながら声の主――3つ歳下の妹である二階堂文那を見る。ぴょこん、と横に可愛らしく結んだ三つ編みと、綺麗に切り揃えられた前髪が特徴の、勉強ができる俺の自慢の妹だ。



「おー、あゆっちの妹ーー文那ちゃんの初登場シーンだね。話には聞いてたけど、確かにあゆっちの言うように可愛い子だねぇ」

「ははっ、そうだろ!作中にも書かれているように、俺の自慢の妹さ」

「うんうん、この可愛さならあゆっちがシスターコンプレックスーーシスコンになるのもわかるよ」

「は?俺は別にシスコンじゃないが…」

「え…そこ否定するんだ…」

「そりゃそうだろ、俺と文那は何処にでもいる一般的な兄妹だ。シスコンと言われるような行動はしていない」

「でも、この前文那ちゃんに彼氏が出来たかもしれない、ってすごい悩んでたよね」

「そりゃ悩むだろ。俺の弟になるかもしれない存在なんだぞ?それが品性ファッキン野郎だったら誰だって嫌だろ?」

「まぁそれはそうだけど……」

「それに仮にファッキン野郎と文那が付き合っていた場合だぞ……いや、ちょっと待ってくれ、そんな奴といるところを想像したら胃がイラついてきた!反吐出すわ!」

「ま、待って‼︎収録中に吐かないで‼︎」

「いや無理、おげっーー」

「はい!回想スタート‼︎」



「二階堂、三分の遅刻だぞ」

 教室の前につくと、白いカチューチャが特徴的なクラス委員長の天王寺弓流(てんのうじゆみる)がキッと俺を睨みつけながら、教室の前で仁王立ちして教室への侵入を阻んでいた。

「たった三分だろ、そんぐらい大目に見てくれないかな」

「されど三分だ、私はその時間があれば単語をーー」



「おぇぇぇっーー」

「えっ⁉︎もう終わり⁉︎はやく!はやく次の回想‼︎」



「おーい天王寺、その辺にして早く二階堂を入れてやれ、授業始めんぞ〜」

 教室から出てきたウチのクラス2年B組の担任――星空月(ほしぞらるな)先生が俺に助け舟を出してくれた。二年連続担任をしてくれてるだけあって、俺と天王寺の関係性を知っているので何かと助けてくれて、とても気がきく、本当に″大人″だと俺に感じさせる女性だ。

 ちなみに、名前で呼ぶと凄い怒る。良い名前だと思うんだけど、星空先生曰く「30にもなってルナは辛いよ…」との事らしい。星空は辛くないのかな、という疑問は持っては負けだと思っている。



「ふぅ…悪かったな彩音、だがおかげでスッキリしたよ」

「はぁ…さいですか…まったく…ホント大変だったよ…」

「まさか俺もあそこまでムカつくとは思ってなくてな。次からは文那の彼氏の事は考えずに収録に臨むよ」

「うん…そうして…」

「それで?反吐を出しててわからなかったんだが、どこまで進んだんだ?」

「私の大親友のユミちゃんと、ルナちゃん先生の初登場シーンだね」

「おー、委員長と星空先生ーーどっちも少し棘のある二人だな」

「ユミちゃんはたしかに少し棘はあるけど、ルナちゃん先生はそんなに棘あるかな?」

「いや、逆に星空先生の方が多いレベルだ。元暴走族の総長だったから怒らせたら超怖いぜ?」

「え⁉︎ルナちゃん先生って暴走族だったの⁉︎」

「あぁ、壽汰亞堕壽斗(すたあだすと)って組で夜を喰らいし者(ルナ)として恐れられてたらしいぜ」

「ルナちゃん先生の意外な過去だね…」

「あぁ、そうだな。だからお前も星空先生が機嫌悪い時にはルナちゃん先生って呼ぶのは気をつけろよ」

「うん、そうするよ。私もスターダストにはなりたくないしね…」

「まぁ星空先生の紹介はこれぐらいにして、委員長の紹介に移るか。委員長については彩音の方が詳しいだろうし、お前に頼むよ」

「うん!ユミちゃんはねぇ、一言で表すなら“不器用”だね。本当は可愛らしいぬいぐるみとかお人形が大好きなのに、親がいない小さな弟達のために“自分が母の代わりをして強くならなきゃ‼︎”って頑張ってお姉さんを演じきってきたばかりに()()()()()()()()()()()()()()性格に育っちゃったんだよねぇ…これさえなければ、恋愛ももっとスムーズにいくんだろうけど……」

「ははっ、そんなに委員長の事を熱く語るなんて、さっきお前は俺のことをシスコンと笑っていたが、お前はレズコンだな」

「だから?」

「…え?」

「レズって何が悪いの?」

「あ…いや、別に悪いかどうかと言われれば何も悪いところは無いだろうが」

「そうだよね?レズはなーんも悪くないよね?じゃああゆっちの今の発言ってレズビアンの方に対して配慮が足りてなかったんじゃない?」

「いや…別に俺はそんなつもりで発言したわけじゃーー」

「“そんなつもりはなかった”そんな言葉で何人の人が苦しめられてきたと思うの?あゆっちそれでも主人公?今の発言で絶対に全国の女性ファン敵に回したよ?」

「…そ、そうだよな…今の発言は俺が悪かったよ…謝罪する」

「はぁ…主人公なんだから次のシーンからはホント発言には気をつけてよね。それじゃいくよ」



「ねぇ!歩夢!」

 放課後、クラス――いや、学年一可愛いと評判の男・子・生・徒・――西園寺優宇さいおんじ ゆうがスマホ片手に、席を立とうとする俺に話しかけてくる。

 優宇は父親が日本人で誰もが一度は耳にしたことあるIT会社の取締役、母親はロシアの資産家の娘らしい。

 極々普通のサラリーマンと主婦だった俺の両親とは縁もゆかりもない。

 何故こんな坊ちゃんが俺と仲良くしてくれているのかがよくわからないが、可愛いから深く考えていない。それに鼻にかからない超良い奴だしな。あと、何よりも可愛い、ロシアハーフは伊達じゃない。夕日に当たって綺麗な金髪が煌めいてやがるぜ。



「この西園寺くんを紹介してる時のあゆっち、なんか怪しくない?」

「怪しい、とは」

「なんていうか男子同士なのに西園寺くんの事可愛い可愛い言いすぎじゃない?」

「あー彩音、今お前全国の男性ファン敵に回したわ。いいじゃん別に男子が男子の事可愛いって言っても。男性ファン減るよ?謝った方がいいんじゃねぇの?」

「はい?なんで私が男子のために謝らなきゃいけないの?別に私男性ファンになんて言われようがどーでもいいんですけど!だって私男性ファンなんていらないし‼︎男性奴隷なら欲しいですけど‼︎そうやって下手くそな煽りやめてよね‼︎これだから男子は猿と同列に扱われるんだよ‼︎」

「すいません、でした…」



「まぁ気にすんなって!あんたはみかんの恩人だ、変態だろうが何だろうが全部私は受け止めてやるよ!」

 女性はバシバシと俺の背中を叩きながら高らかに笑い励ましてくれた。

「いやそれがさぁ私弟と妹がいんだけどさ、あいつらどーも私とは舌の構造が根本から違うらしくて辛いの食えねぇんだよ。だからりんごとかみかんとか色々果物加えてやんないと食ってくれなくてねぇ…いやほんとありがとな!おかげで今日の晩飯を守ることができたよ……えーと、あんた名前なんだ?」

「二階堂 歩夢です」

「二階堂 歩夢かぁ…うん!カッケェ名前だな。ありがとな、感謝してる。私は作道美空つくりみち みそらってんだ。気軽に美空って呼んでくれ。あと、敬語じゃなくていい」

 言って美空は片手を俺の方に差し伸べてきた。俺はそれを受け取り軽く手を交える。美空は「よろしく」と言ってニヤリと笑った。



「うっわ〜、美空さんおっぱいでっか!制服の上からでもよくわかるよ」

「まぁデカイだろうな…Fカップらしいし」

「え……なんで、あゆっち知ってるの?」

「ん?あ、あぁそれはだなぁ…美空の弟が教えてくれたんだ」

「嘘だ!」

「本当だって、一緒に風呂に入ってたら急に喋り出したんだって‼︎」

「あーあ、そんな嘘までついちゃってさ、世の中に姉のブラのカップを見ず知らずの人に喋る弟なんかいるわけないじゃん」

「いや!ほんとにいるんだって!」

「往生際が悪いなぁ…そんな嘘ばっかついてると読者の女性層からは人気なくなるからね」

「ふんっ、大丈夫だよ。読者は俺と詩道の会話を知ってるんだから」

「美鈴早苗は、ファンやめます」

「うぉ⁉︎美鈴早苗さんいたのか‼︎というか俺のファンだったのか!」

「ほーら着実にファン減ってるよー、謝った方がいいんじゃないかなぁ?」

「……はいはいわかったよ悪かったよ‼︎これでいいだろ…くそ…本当のことなのに謝らないといけないなんて……」

「ははっ、今あゆっち“落ちコン”でるでしよ」

「うるせぇ…別にそんな上手くないからな」

「ガチャ、失礼しまーす、ラーメン島村でーす‼︎出前届けにきやした‼︎」

「おっきたきた!私でーす!」

「ヘイお待ち!醤油ラーメン油少なめ麺柔らかめトッピングに煮卵8個になるっす!ダンッ」

「わーい!やったー!あっ、お会計は入口の所にいたディレクターによろしくお願いします!」

「らじゃっす、またのご利用お待ちしてるっす、バタン」

「うっわー!ホント超美味しそうー、湯気がホクホクして麺も手打ちの太麺で、よだれが自然と垂れちゃうねぇ〜。流石私の師匠が作ったラーメン‼︎」

「おい!ちょっと待て‼︎」

「なぁに?……あっ!もしかしてあゆっちも欲しかった?」

「違う違う!なに収録中に出前頼んでんだよ!てかなんだ今の店員、自分でドアの擬音とか発してたぞ」

「も〜、それはしょうがないじゃん。カギカッコしか使えないんだから」

「そうなのか?」

「そうだよ、ノベルコメンタリーってそういう制約があるの!だから口で表現するしかないんだよ」

「そ、そうか…それは初耳だったな」

「いつもみたいに心の中で喋ってみなよ」

「あぁ、わかった、やってみるよ。そう言って俺は目を閉じると、心の中で思考をし、自分の声を響かせたーーうっわ⁉︎まじだ、なんか喋ってしまう!」

「でっしょ〜?」

「これは何とも不便だな…彩音の事を迂闊に考えられないじゃないか…」

「えーー歩夢、心の中で私の事そんなに考えてくれてたんだ」

「当たり前だろ…大切な、友達なんだから」

「あーそーですかー、友達ですかー、もういいでーす、続けまーす」

「何怒ってるんだ?」

「なんでもありませんけどぉ?ラーメン食べたいだけでーす。あゆっちが死にかけるとこまで飛ばしまーす」



「夢がないなら、死んだって後悔はないだろ?はぐっ、ずるっ、ずるっ」

 街灯に照らされて見えた美空の顔は、不敵に笑っていた。

「ごふっ…⁉︎一体…な、にを…」

 死ぬ時の痛みは一瞬だと何処かで訊いたが、どうやらそんなものは嘘だったらしい。痛い――痛い――痛い

 まるで体の中心に炎をぶちこまれたようだ。焼けるうに痛い――裂けるように痛い――

「み…そら…」

 俺は震える両腕で美空の腕を掴み、引き抜こうとする。

「あぁ――このスープちょっと熱いな…はむっ、むしゃむしゃ、はいはいずっずっ言わなくても抜いてやるよ、ごくごく」

 ズボッと俺の体から美空の手が引き抜かれる。

 栓の無くなった俺の体からは、大量の鮮血が溢れ出た。

「うわあああぁぁぁ‼︎」

「なんだよ、これめちゃくちゃ美味しい〜‼︎ごくっ、そんなビビんな。男だろ?じゅるるるるるるるる」

「あぁ…ぅあ…」

 足元がふらつき、俺は地面へと背中から倒れ転んだ。すると地面にぶつかった衝撃で鮮血がまた勢いよく傷穴から溢れ出る。



「彩音ぇっ‼︎」

「うっわ!なによあゆっち、急に叫ばないでくれるかな、びっくりするじゃん」

「お前麺食う音デカすぎなんだよ!文章に割り込んじゃってるじゃねぇか!」

「え?そうだった?」

「そうだよ!お前のせいで美空が始終ラーメン食いながら話す奴みたいになっちゃったじゃねぇか‼︎」

「はははっ!なにそれ面白い!」

「面白くなんかない!これじゃいくらなんでも美空が浮かばれなさすぎだろ!」

「も〜、わかったようるさいなぁ…じゃあすぐ食べ終わるから」

「頼むぞ…」



「なぁ歩夢…じゅるる私をズッあいはぐっの自慢のズッじゅるじゅるむしゃむしゃじゅるっじゅる姉でいごくっ、ごくっ、カランカラン、ぷっはー!美味しかったー‼︎」



「彩音ぇっっっ‼︎」

「わっ⁉︎また⁉︎なに?」

「なんで食べ終わってから流さないんだよ‼︎感動のラストがラーメンすする音で終わっちゃったじゃないか‼︎」

「えー…別にもういいじゃんラーメンエンドで」

「はぁ⁉︎なんだよラーメンエンドって!聞いたことないわ!」

「はいはい、まぁもういいから次行こう次、お腹いっぱいになったらなんか眠くなってきちゃった…」

「なんてーー勝手な奴だ…」



 ドアノブに手を掛けようとしたところで、カンカンカンと、おたまで鍋を叩く音と共に家の中から女の子の声が聞こえてきた。

「コラー!二人とも早く起きなさーい‼︎もー!詩道‼︎起きてるからって朝からゲームやろうとしないの!ていうか奏熾は早く起きるっ‼︎」

「う…うわぁ随分と気の強い女の子がいるお家だねぇ」

 中の惨状を訊いて優宇はあわあわとした声を出す。

 だが俺は、思わずこの光景に笑みが溢れた。

「あぁ、そうだな。あの音は初代ラーメンチャンピオンーー作道美空がいくつもの麺を茹でてきた鍋と、愛用のおたまを叩きあわせた時に生じる音。この家にいるのは、未来のラーメンチャンピオンだ」

「えぇ〜!なんで歩夢がそんな事知ってるの?」

「ははっ、内緒だ。ほれ、遠回りしたら遅刻ギリギリになっちまったし急ぐぞ!優宇!」

「え、えぇぇ⁉︎ちょ――待ってよ歩夢ぅ〜なんでこっち通ったのさ〜」

「美空、お前のスープはーーちゃんと受け継がれていたぞ」



「ああぁやぁぁぁねぇぇぇ‼︎」

「うっわー、もう!なにあゆっち⁉︎そんなに私の名前が好きなの?」

「んなわけあるかぁ‼︎お前が今勝手に改変した文章に対して怒ってんだよ‼︎」

「え〜…だってあゆっちがラーメンエンド知らないっていうからアフレコしてあげたんじゃん」

「ラーメンエンドのくだりに引っ張られるな‼︎あの話はもう終わっただろ⁉︎」

「終わってたんだろうねーー歩夢の中ではね‼︎」

「はあぁ…お前と話してると本当疲れるわ…」

「ま、何はともあれこれで今回の収録は終わりで〜す!」

「はぁ…本当に疲れた…特に後半…まさかお前がこんなに面倒くさい奴だったとわ…」

「も〜ひどいなあゆっち……あっ!待ってあゆっち!音響の人がなんか言ってる」

「ん?あぁホントだ。なんか言ってるな」

「まかせて、私の特技読唇術で読み取ってあげる」

「あぁ、あったなそんな特技。じゃあ頼むよ」

「収録、お疲れ様、ってことで、記念に、あゆっちに、プレゼントだって」

「俺に、プレゼント?」

「実はーー全く気づかなかっただろうけど収録開始からあゆっちの目の前に置かれていたその箱の中にプレゼントが入っています!」

「うわっ⁉︎本当に箱がある。こんな目の前にあったはずなのに何故か全く気づかなかった!」

「さっさっ!早く開けてみて!」

「あぁ、そうさせてもらうよ!なんだろうなぁ、宮鷹由莉奈のグッズかな…えいっ!パカっ」

「パンパカパーン!醤油ラーメンです‼︎」

「ラーメンエンドかよ‼︎」

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