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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
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目覚めの時

「これが、この世界の真実だ――」


 全てを語った三日月はそう言うと、目を閉じた。


「状況を整理させてくれ……」


 俺は混乱する頭の中で、まずはそう呟いた。


 三日月の話は理解が出来ないとかそんな生易しいモノでは無かった。

『この真実は、キミの思想や言動――そして人としての在り方の原理を根底から覆す可能性のあるものだ』と三日月は言っていた。

 その通りだった。三日月の話を信じるのなら、その言葉は紛う事なき真実で、俺という存在そのものを覆す物だった。


「三日月……お前の言う事が全て真実なのだと仮定するなら、俺が彩音や優宇達と過ごしたあの世界も、高校生の玲美や戸塚達と過ごしたこの世界も……三日月が創り出した夢の世界だって、そう言うのか?」


 三日月はその言葉にゆっくりと頷き、肯定した。


「それで俺は――神楽崎真直っていう奴を模範に三日月に創り出された創造物で、現実には存在してないってお前はそう言うのか?」


 三日月は再びゆっくりと頷くと、口を開いた。


「そうだ。『二階堂歩夢』という人物は、委員長であり、クラスから人気の高い『三日月弓流』という少女を愛する理想の存在として私が創り出した()()()()()()だ。現実の世界にキミは存在しない」


「はっ、はは…………なんだよそれ。馬鹿言うなよ、流石にここまで飛躍してると一周回って面白いわ」


「…………」


 自虐的に笑う俺に対して、三日月は目を伏せたまま何も答えてはくれなかった。


「なぁ三日月!否定してくれよ!全部嘘だったって言うなら今が1番の盛り上がりだぜ⁉︎」


「…………」


 だが三日月はその言葉にも何も返してはくれなかった。

 ただ目を閉じ、黙っていた。

 その沈黙こそが、三日月の肯定だというのは間違いなかった。


「本当……なのかよ……」


 俺は力無くそう呟いた。

 “絶望”という二文字は、今の俺の心境を表すために生まれたのではないかと、そんな風に思えてしまうほどだった。


 ()という存在は現実にはいない。性格も、言動も全て三日月が創り上げた架空の存在――それが真実。

『どんな理由があろうと、私を愛してくれる理想の王子様』――三日月は俺をそういうキャラクターとして創造したと言っていた。

 その事について一つ、思った事があった。


 あの夜――文那が死に、荒れていた俺を三日月が慰めてくれたあの日。

 俺は三日月の優しさに触れ、初めて心の底から彼女を信用するようになった。それこそ俺は彼女のことを()()()()()


「じゃああの日、俺が三日月の事を好きになったのも――全部決まってた事で、俺の気持ちじゃないって言うのかよッッ⁉︎」


 俺は叫んだ。それはもはや絶叫に近い叫びだったと言ってもいい。

 それぐらいに俺は三日月への怒りの感情があったし、それ以上に自分の意思で動いていたと思っていた事全てが三日月の創造した作り物の感情だった事に虚しさを感じていた。

 だからその虚しさを掻き消すための叫びだった。


「神倉や優宇を助けようと思ったこの気持ちも、お前と仲の良い彩音と俺が仲が良かったのも――全部お前が作った通りに俺が動いただけで、俺の意思なんて何も無かったのかよッッ!」


 俺は感情に任せ彼女の肩を強く握った。

 華奢な三日月の体は俺よりもずっと小さく、本気を出せば壊せてしまうのではないかと思えた。

 だがそんな状況にも関わらず、三日月はいつもと変わらない表情で静かに目を閉じていた。


「なぁ、三日月ッッ!答えてくれよッッ!」


 そう俺が叫んだ時だった。



「キミはどう思う?二階堂」



 と三日月は静かに一言言い放った。


「どう、って…………」


 拍子抜けなその言葉に俺は一歩後退り、自虐的に口角を釣り上げた。


「そんなの知るかよ!俺がどう思ったってそれは全部お前が作り出した感情だ!お前が俺にどう思って欲しいか考えれば、それが答えなんだろ⁉︎俺の意思なんて関係無いッッ!」


「それは違うぞ、二階堂」


 再び三日月は静かに言うと、切長の双眸を揺らし俺を真っ直ぐに見据えた。


「もうキミは私から与えられた役割を演じるだけの創造物である“二階堂歩夢”ではない」


「え……?」


「今、この目の前に存在しているキミはこの現実の世界を模範した夢の世界で“神楽崎真直”としての人生を1年間歩んだ。今のキミは二階堂歩夢であるが、それ以上に神楽崎真直でもある。つまり――」


 三日月は深く息を吸うと、俺を指差した。


「キミは二階堂歩夢と神楽崎真直の両面の属性を持った、全く新しい一つの“人間”だ」


「全く新しい一つの人間――」


 三日月のその言葉に戸惑い、俺は言葉を反復した。


「どう言う事だよ……?俺が二階堂歩夢で、それ以上に神楽崎真直?俺は二階堂歩夢ってお前の創った架空の存在じゃないのか?」


「元よりキミという存在は、私が神楽崎真直という存在を元に創り上げた存在だ。それは紛う事なき真実だ」


「しかし――」と三日月は続ける。


「だからだろう。何の因果かは分からないが、この現実を元にした夢世界に存在していた神楽崎真直とキミとが引かれ合い、一つの新しい存在となった」


 と言って、三日月はさっき俺に肩を掴まれた時にズレたカチューシャを戻す。


「だからキミはもはやただの私の創造物などでは無い。その証拠にキミはこの世界で私ではなく別の人間に好意を抱いたのではないか?」


「――――!」


 好意を抱いた人――その言葉を聞いてすぐに脳裏に浮かび上がった人物がいた。


 その人物はもう一つの世界では小学生で、真面目ないい子で――けれどこっちの世界だとそんな記憶とは無関係な人物で、同い年だし、お世辞にも性格も良い奴だとは言えない存在だ。


「あぁ、そうだ――」


 真っ暗だった心に、光が差した気がした。

 もし俺が三日月の作った創造物で、三日月に対してだけ好意を持つよう創られた存在であると言うのなら、きっとこんな感情は彼女に対して生まれない。


「そうだよ三日月――俺、三日月以外に好きな人がいる」


 いつの間にか俺は、三日月にそんな言葉を恥ずかしげも無く話していた。


「全く……創造主である私をフッて初めてそんな簡単な事に気付くとはな。遅すぎるぞ二階堂」


 三日月はそう言いながらも、口調はどこか嬉しそうだった。


「ありがとう三日月。おかげでなんとか意識は保てそうだ」


「フッ、それは良かった」と三日月は鼻を鳴らす。


 俺が創造物であり、現実の世界にいないという真実は変わらない――

 けれど俺の心情は明るかった。


「なぁ二階堂」


 とおもむろに口を開いた。


「記憶を取り戻したキミに提案があるんだが、一つ頼まれてはくれないか?」


「提案?」


「あぁ。今のキミと私であれば確実に叶う事がある」


 そう言って三日月は得意げに笑うと、口を開いた。



「魔女をぶっ倒そう。二階堂」



「え…………」と俺は三日月のその突拍子も無い発言に一瞬固まった。


「倒せるのか?魔女って……?」


 と俺は疑問をぶつける。

 確かに今までの話を聞く限り、この世界で俺が苦しめられている根本的原因は魔女であるのに間違いない。

 だがそんな簡単にいくものかと純粋に疑問に思った。

 だってそうだろう?それが叶うなら、とっくの昔に三日月が解決していたはずだ。


「普通に無理だな」


 そしてその疑問の通り、三日月は簡単にそれを否定した。


「魔女は私からあの夢世界の支配権を奪い、今やあのもう一つの夢世界の支配者だ。力量の差でまず負ける。そしてここは夢世界だ。奴がこの世界を夢だと知覚している以上、何度でも蘇るだろうし倒すのは不可能だ」


「が、一つだけ方法がある――」


 と三日月は低い声で言った。


「方法……?」


 首を傾げ俺は三日月の次の言葉を待った。


「あぁ、夢の中の存在である魔女を倒す唯一の方法――」


 三日月は逆ピースの形で、自分の左目を覆う。


「それは――奴の精神の核(ジャッジメント・コア)を破壊する事だ」


 そう言うと三日月は、満月をバックになんかカッコいい感じのポーズをとった。


「ジャッジ……なんだって?」


 突如として現れた世界観に似合わない横文字に俺は思わず聞き返した。

 そういえばさっきもヴァニタスとかいう聞き慣れない横文字が出てきていたが、もしかして三日月は厨二病なのだろうか。


「ジャッジメンズ・コアだ。精神の核と書いてジャッジメンズ・コアと読む。私が命名した。かっこいいだろう?」


「…………」


 話が逸れるのも面倒なので、俺は黙った。

 沈黙こそが、俺なりの答えだ。


「まぁいい――」と言って三日月は咳払いをすると再び話し始める。


「人はたとえ夢の中であろうと、精神が『自分は死んだ』と理解してしまえば死んでしまう。実際に外世界でもそういう事例はいくつもあるのはキミも知っているだろう?」


「夢で死ぬと現実でも死ぬ……確かに聞いたことはあるな」


 と俺はいつかテレビで見たオカルト特集みたいな番組の事を思い出しながら頷いた。


「何故死んでしまうのか――その理由こそがジャッジメンズ・コアだ。これは精神の核であり、脳の深層意識を凝縮させた、いわば“夢世界での心臓”だ。それが壊れてしまう事で現実でも人は死んでしまうんだ」


「夢世界での心臓……それがジャッジメンズ・コア……」


「キミが殺されても死なないのは、キミが私の創り出した夢世界の創造物であり、ジャッジメンズ・コアが存在していなかったからだ。だからキミは夢世界で死に、そして何度も蘇る事が出来た」


「そう言う事だったのか――」


 自分が創造物であり、精神の核が元々現実に存在しないから俺は死なない。

 その三日月の説明を聞いてなんとなく腑に落ちるものがあった。


「まぁ今のキミは、この世界にいた神楽崎真直と繋がった事でジャッジメンズコアを持ってしまったから、殺されれば死んでしまうんだがな。いやはや、あと一歩遅かったらアヤちゃんにジャッジメンズ・コアを破壊されていたよ。危なかった危なかった」


「ふぅ〜」と三日月は安心したように息をついた。

 思った以上にギリギリで自分の命が繋がっていた事に、安堵を俺は感じた。


「さて、話が逸れたが――ようするに魔女を倒すためには、魔女のジャッジメンズ・コアを破壊すれば良い。ただそれだけだ」


「待ってくれ三日月」


「ん……?どうした二階堂?腹が減ったか?洋食でも和食でも何でも用意できるぞ。幸いな事に、こちらの夢世界は魔女に支配されていないからな」


 そう言って三日月が指を鳴らすと、熱々の鉄板に置かれたハンバーグ、豪華な天麩羅の盛り合わせ、滅茶苦茶真っ赤で辛そうな麻婆豆腐などあらゆる料理がどこからともなく現れ、テーブルの上に置かれた。


「いやいや違う違う!腹が減って声をかけたわけじゃ無い!」


「なんだ、そうだったのか。食べ盛りの時期だし食べ物だとばかり思ったよ」


 としょんぼりした様子で三日月は言うと、再び指を鳴らし、料理の数々を消した。


「で、聞きたかった事なんだが――さっきから三日月は魔女と続木がそのジャッジメンズ・コアっていうのを持っているのを前提に話しているけど、アイツらは本当に現実に存在する存在なのか?アイツだって俺と同じで、現実には存在しない可能性だってあるだろ?」


「いや、彼等は間違い無く現実に存在する存在だ。それは間違いない」


 と三日月はハッキリそう言い切った。


「私はあの夢世界の創造主だ。だからあの夢世界に存在している架空の存在(キャラクター)いずれ死にゆく者(ヴァニタス)との区別が出来る。そしてあの夢世界に、元々魔女と続木というキャラクターは存在しなかった。だから奴等が現実世界より迷い込んだヴァニタスであり、弱点であるジャッジメンズ・コアを持つのは明らかなんだ」


「なるほど、そう言うことか――」


 ようやく三日月の横文字の羅列にも頭が追いついてきて、言っている事が理解できるようになってきたおかげで心の底からそう言って納得する事ができた。


「だがそれとは別に、一つ厄介な事がある」


 三日月が細長い指を顎に当て深刻そうに地面を見た。


「奴等のジャッジメンズ・コアは、魔女と続木の中には存在していないんだ。あの魔女と続木の姿は仮の姿で、本来の姿をした奴等は夢世界に存在する存在であり、自分達のジャッジメンズ・コアをその人物達に隠している」


「それが何か問題あるのか?」


「大アリだ。奴等の中に弱点であるジャッジメンズ・コアが無いということは、奴等を倒せたとしても、奴等は再び生き返るという事だ」


「何だよそれ……じゃあどうやって倒すんだ?」


「あの世界に存在するヴァニタスを片っ端に観察し、魔女と続木と関係のある存在か一人ずつ見極めていくしか無いな」


「一人ずつ……そんなの無理だろ。ヴァニタスって言うのは、危篤状態になって三日月の夢世界に迷い込んでしまった人達の事だろ?意識不明の奴等なんて世界中にごまんといるだろ……その中から迷い込んだ奴を探すなんて絶対無理だ」


 結局振り出しに戻るのか……と俺はため息をつく。

 だが三日月は違うようだった。


「いや、そうでも無い。解決策自体はある」


「え……?そうなのか……?」


 と俺は小首を傾げる。


「二階堂、もう忘れたか?この私の夢世界に迷い込むヴァニタス達は、この“霞ヶ浦第三病院』にいる者達だけだ。この病院にいる者の意識と、私の夢世界のみが繋がるんだ」


「そうか。じゃあ三日月は分かるのか?魔女と続木の正体が」


「あぁ」と三日月は頷く。


「この霞ヶ浦第三病院で現在意識不明の重体となっている人間は6名だ。そしてその中に、魔女と続木のジャッジメンズ・コアを持った者がいる」


 三日月は静かに目を伏せた後、ゆっくりとその6人の名前を告げた。


「その6人とは――夏川彩音、神倉拓也、西園寺優宇、作道玲美、作道詩道、そして――」


「神楽崎真直――つまりキミだ」


 と言って三日月は最後に俺の心臓を人差し指で指し示した。


「この6名が、ジャッジメンズ・コアを持った現実世界からの異邦の住人――ヴァニタスであり、魔女と続木のジャッジメンズ・コアを持っている正真正銘の黒幕だ」


「この6人の中に……魔女と続木が……」


「厳密に言えば私も夢を見ていてジャッジメンズ・コアを持つわけだし、魔女候補な訳ではあるのだが……まぁ私は魔女ではない。何故なら私は魔女である理由がないからだ。QED証明終了」


「まぁ()魔女ではあるんだがな。はっはっは!」とよく分からないボケに一人笑う三日月。

 さっきから薄々感じていたが、もしかしたら三日月は結構馬鹿なのかもしれない……。

 だがまぁ三日月の言うように、多分コイツは魔女では無いんだろう。なんかそんな気がする……馬鹿だし……。


「…………」


 俺は顎に手を当てて思考する。

 三日月の事は置いておいて、今の話はあまりにも衝撃的な事だった。

 まさか魔女と続木の正体が、そんな身近な人物の中にいるなんて意外だ。


 優宇は自殺を図ってこの世界に迷い込んでいるのだろうと予想はつく。彩音の理由もさっき三日月から聞いた。

 そして神倉も、そういえば入院している看護師がいつの日か噂していたのを覚えている。


 そして……玲美と詩道は……………………え?


「な……⁉︎どうして玲美と詩道がそんな事になってるんだよ⁉︎」 


 二人が現実の世界で意識を失っている事に気づき、俺は思わず声をあげた。


「反応が遅すぎるぞ二階堂……。あまりに遅いから私から驚こうと思っていたところだ」


「いや、お前が驚いたら訳がわからないだろ!」


「ふむ、それもそうか」と三日月はやけに納得した様子で「ふむふむ」と首を縦に振っていた。

 やはり何処か抜けている……。


「というかそんなのどうでもいい!どうして玲美と詩道がそんな状態になってるんだよ⁉︎あの二人はこの世界で幸せそうに過ごしていたぞ⁉︎」


「そんなの私に聞かれても知らん。あくまで私が知っている情報は、作道玲美という高校生と、作道詩道という中学生がこの病院に運ばれてきて、意識不明の重体という事だけだ」


「くそ……何だよそれ……」


 その絶望的な状況に、俺は頭を抱えた。

 どうして玲美と詩道がそんな事態に……。こっちの俺が1年間過ごした世界が三日月の言う『現実に即した夢の世界』だというのなら、二人がそんな風になる理由がない。交通事故でもあったのか……?というか玲美と詩道だけ?奏熾はどうしたんだ?まさかアイツが二人を殺…………


「ダメだ……こんな空論ばかりを想像してもしょうがない。悪い想像はやめないと」


 俺は頭を振って悪い考えを取り消す。

 今は少なくとも、奏熾が無事な事を喜ばないと……。

 いや、待てよ。


「作道奏熾っていう奴は、ちゃんと現実にはいるのか?」


 俺はふと疑問に思い、そう三日月に問いかけた。

 俺が1年間過ごしたこの世界は、三日月の話からすれば“三日月が耳から聞こえる情報を頼りに創造した――現実に即した夢世界”だ。

 現実を模しているとはいえ、あくまで夢世界であり現実では無い。だとすれば作道奏熾という存在がいない可能性も考えられた。


「あぁいるぞ。玲美と詩道の病室の前で泣いている声が、今でも私の頭には響いているからな…………」


「そうなのか…………」


 俺はそれ以上何も聞かなかった。

 優しい奏熾の事だ。二人がそんな状態にあればどれだけ悲しんでいるだろうかという事は容易に想像できた。


「で、改めて目的は分かったか二階堂?」


 とおもむろに三日月が俺に問いかけた。


「あぁ、なんとなくだけど……」


 自分の頭で整理する意味でも、俺は三日月に答える。


「とりあえず俺を含めて霞ヶ浦第三病院で意識を失っている6人の誰かが魔女と続木のジャッジメンズ・コア――もとい夢世界の心臓を持っている張本人で、その誰かを見つけ出してジャッジメンズ・コアを破壊すれば倒せるって事なんだろ?」


「あぁ、そういう事だ。理解が早くて助かるぞ二階堂」


 と言って三日月は嬉しそうにブンブンと首を縦に振る。


「壊すって敢えて言葉を濁したけど……状況次第では俺は優宇や玲美を手にかけないといけないって事なんだよな……?」


「…………厳しいが、そういう事になるな」


 今までふざけていた三日月が、急に低い声でそう肯定した。


 ジャッジメンズ・コアは、この夢世界での心臓だ――要するにそれを破壊するということは現実世界でその人を殺してしまうという事だ。

 魔女を倒すというその目的の為に理解を避けていたが、やはり間違いはないようだった。


「まぁ気楽にいけ二階堂。最悪はそのジャッジメンズ・コアを持った奴に自死をお願いすればキミの手は汚れない。そしてこの世界は幸せに元通り。win-winだろう?」


「いや、全然win-winじゃないんだが……」


 何処をどう取ったらwin-winなのだろうか……結局人が死んでるんだけど……。


「そういえば三日月、一つ質問いいか?」


 疑問に思った事があり、俺は口を開いた。


「あぁいいぞ。なんなら三つほど来い」


「いや一つでいいんだけど……」


 と答えた後、俺は再び口を開く。


「どうして三日月はここまで魔女の正体に気付いていたのに、自分で解決しようとしなかったんだ?」


 俺は率直な疑問を述べた。

 だってそうじゃないか。三日月は魔女と続木の正体にここまで気付いていた。たとえ力が届かないにしたって、俺や彩音に助けを求めるとか工夫をすればどうにかなったんじゃないだろうか。


「それは――」


 難しそうに三日月が目を伏せる。

 俺はその重大そうな答えに覚悟を決めた。


「そんな事したら物語としてつまらんだろ……アホなのか?」


「え、なんかメタい⁉︎」


 俺は思わず驚き声を上げた。身構えていた数百倍どうでも良い理由だった。

 というかアホとかさっきまでポンコツ発言連発していた三日月には言われたくない……。


「というのは冗談だ」


「冗談かよ……焦っただろ……」


 俺は胸を撫で下ろす。

 心底そんなどうでも良い理由じゃなくて良かったと思う。


「正直な事を言えば、私もつい数刻前までこの世界の真実について忘れていたんだ」


 と三日月は真剣な趣で話した。


「そうなのか?創造主なのに?」


 コクリと三日月は首を縦に振る。


「魔女に支配されてしまったとはいえ、あれは元より私が私の幸せを求め創造した世界だ。その世界にいれば、自分が夢の中の存在などという事は忘れてしまうんだ」


 何処か懐かしく感傷に浸った様子で地面を見つめながら三日月は話す。


「あの後――キミと私の名前について話して別れた後、私は言い忘れた事があって、キミの元へ戻ったんだ」


「そして見た……キミが魔女に殺される(さま)を……」と三日月は辛そうに顔を顰めた。


「それでようやく思い出したんだ。自分が何者であるか、何をしなければいけないのかを――そして死んで消えてしまったキミを追って、ここへ来た」


 そう言うと、三日月は頭を下げた。


「だから私はキミに何もしてあげられなかった…………すまない」


「いや、謝る事じゃ無いよ。三日月が悪いわけじゃ無い。だから頭を上げてくれ」


 慌てて俺がそう言うと、三日月は頭を上げた。

 だがまだ苦しそうに顔を顰めていて、何も出来なかった自分を許せていないようだった。


「それにさ、悪いことばっかてわけじゃ無いよ」


 俺のその言葉に「え……?」と三日月がキョトンと表情を緩ませた。


「そりゃあ殺されて痛かったし、辛かったけど――それ以上に楽しかったよ。三日月や彩音、それに優宇や神倉、玲美と奏熾と詩道達――みんなと一緒に過ごしたあの世界は」


 これは心からの本心だ。

 三日月を励まそうとする意味ももちろんあったが、そんなの些細な理由だ。

 確かに辛い事はあった。けれどそれ以上に三日月や彩音達と過ごしたあの時間は掛け替えのないモノだったし、俺の宝物だ。

 たとえそれが現実に存在しない繋がりだとしても関係無い。


「そうか――」


 と三日月はやや呆気に取られた様子を見せた。だがすぐに、


「フッ……それは良かった。とても」


 そう言って三日月は本当に嬉しそうに、薄く笑みを浮かべた。




「では、そろそろ行くとしようか二階堂」


 ややあった後、おもむろに三日月は言うと指を鳴らした。


「……うぉ⁉︎」


 すると地響きと共に、何処からとも無くファンタジックな西洋風の巨大な扉が目の前に現れた。


「この扉をくぐればもう一つの夢世界――つまり魔女に支配された夢世界に戻る事となる。そうすればきっ奴はいつものようにキミを殺めにくるだろう。だが今、神楽崎真直のジャッジメンズ・コアを持ってしまったキミは、次殺されれば二度と生き返る事は無く本当に死ぬ事となる」


「怖いか……?二階堂?」


 煽る様子では無く、本当に心配した様子で三日月は俺にそう問いかけた。


「俺は――――」


 三日月にそう問いかけられ、俺は黙った。


 俺はきっとこの世界に残る事も出来るのだろう。

 二階堂歩夢としての自分を完全に捨て去れば、俺は魔女のいないこの世界で神楽崎真直として過ごす事が出来る。そうすれば仲の良い親友がいて、頼りになる副委員長がいて、弟のような奴等と毎日騒いで遊べる。

 そして何より――作道玲美の隣に俺はいる事ができる。


 けれど、そうなのだとしても――俺の答えは決まっていた。


「怖いよ。けど……魔女と続木が彩音や優宇達を苦しめている張本人だっていうのなら、俺はあの二人を止めるよ。親友を傷つけるアイツらを俺は絶対に許さない」


「そうか」と三日月。そして、


「流石、私の理想の王子様だ」


 と言って笑った。


「恥ずかしいんだけど、その呼ばれ方……」


「フッ、良いじゃないか。私はそれほどキミにゾッコンという事だよ。二階堂」


 明るい口調でそう言うと三日月は扉に手を掛け、一気に開け放った。


「行くぞ!二階堂!」


 扉の中から眩い光が放たれ、思わず顔を顰めた。

 だが俺はひるまない。

 目を開け、真っ直ぐに白い空間を見つめた。

 もう決して迷ったりはしない。


 三日月や彩音と過ごしたあの世界――

 玲美や戸塚と過ごしたこの世界――


 その二つの世界を歩んだ夢の記憶があるからこそ、俺はもう折れたりはしないと強く思えた。


「終わらせるんだ。全部――」


 俺はそう心に強く決意すると、ようやく夢世界での一歩を踏み出した。

目指せ、年内完結(夢は大きく持つタイプ)

Writing・・・2023/03/13

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