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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
【信仰都市】

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199/203

<開示、提示、選択肢>

「―――それで、俺達が地獄に落ちてからどれくらい時間が経ったんだ?」


 黒羽を地獄の底から雫とここには居ないもう一人の協力者によって救いだし、帰還したアカツキはクレアの膝の上に頭を預けながら、起き上がる事は出来なくとも事態の収拾に取り掛かるべく質問し、ガルナは周囲を気にしながら、どこか落ち着かない様子で説明する。


「三時間だ。お前と雫が地獄に向かい、黒羽を連れて戻ってくるまでおよそそれだけの時間が経過している」


「...三時間?」


 アカツキのその驚きは地獄と現実の時空間の差異によるものでもあったが、それ以上に確認しなければいけない矛盾にアカツキは戸惑いながら顔を強張らせていく。


「どうやって三時間も空間を維持したんだよ。―――まさか!!」


 当初、地獄内でアカツキが危惧していた通りガルナは空間を固定化させるにあたり魔力を使い切っている。精々空間を保てる時間は三十分がいいところでそれ以上空間を維持するには何かを代償に差し出さなくてはならなくなる。


 アカツキであれば神器からの無毒化されていない魔力の流入のように。

 そして、神器を持たない人間が出来る魔力の補給は周囲の人間からの譲渡、或いは命を代償とした―――。


「多少の無茶はしたが、命を削ってはいない。...だが、本当にこれで良かったのか俺にも計りかねるがな」


 地獄の主ネヴ・スルミルによる信仰都市への攻撃、各地の市街地を飲み込み、甚大な被害を与えた地獄の泥の消失が確認されてから3時間。その間ガルナが行ったと思われた空間の維持と、都市の外で待機していた重症のナナとその治療に専念していたクレア、そして二頭の狼と人の姿を得た神器アニマの転移。


 仮に万全であったとしてもそれだけの人数を運べば数日は時空間魔法の使用に制限が掛かるだろう行為を今の彼に出来るだけの余力はない。であるとすれば残る選択肢は一つ。


「―――こんにちわ、アカツキ君。今回も大変だったねぇ」


「...ウーラ」


 体を起こすことの出来ないアカツキを見下ろすように現れた片目を糸で縫った女性、今は力を行使するに辺り閉じられていた右目は開かれ、その金色の双眸を細めながら喜色を隠さない彼女が持つ力によってアカツキ達は帰還することができ、重症のナナ共々この場に運ぶことが出来たのだろう。


「クレア達を運び、空間の維持を俺の代わりに行ったのはそいつだ」


「にしたって、どうやって時空間魔法も無しに空間を維持できるんだよ」


「お姉さんが言ったことは大抵の事が本当になりますからね。魔法程度で行なえることであればお茶の子さいさいってやつです」


 教会の最高戦力にして、各都市の鎮圧を行うことに特化した都市壊滅部隊と対魔獣戦に秀でた人外だらけの討伐部隊、そして現存する唯一の再生魔法保持者アオバを要した名も無き医師団を設立した大司教の一人ウーラ、その実力の一端をガルナは何度か目撃しているがまさにその権能は教会より与えられし冠位である『自由』を象徴するもの。


 そんなガルナの無言の肯定を受け入れてアカツキはにわかには信じがたい彼女の言葉に偽りなど無い事を知り、驚きながらも感謝をした。


「ありがとな、今回も助けられちまったみたいだ」


 信仰都市に訪れる前の学院都市での一件では彼女とアオバ、そして魔獣討伐部隊のシーナ、ユグド、ワーティ―と言った彼女の庇護下に在る実力者の手を借りて事実上学院都市を掌握していたあの男を倒すことが叶っており、今回も同様に命を救われたとなればこれで二度目だ。


 それだけではなく、この都市での戦いを何とか乗り切る事が出来たのはアカツキに力の使い方を指南した師匠である都市壊滅部隊の副団長リリーナの稽古あってのものと言ってもいい。

そんな彼女もウーラの信念に在る、強き者の保護の下、命を救われており、ここにウーラが姿を現したという事は。


「まさか、雫達を―――」


「死刑ですよ。反論の余地も無く、弁明の機会も与えられません。神を貶めた二名と、地獄を統治していたネヴ・スルミルを殺すよう教会は既に全信徒に通達しています」


 この世界では突出した力は疎まれ、そんな者達の中でも教会と言う組織が人類に対しての脅威と見做した一部の人間は教会により弾圧され、排除される。

 そんな者達を救い、自由の庇護下に置くことで救ってきたウーラの功績を思い出したアカツキの期待がその後の続く言葉によって粉々に瓦解する。


「じゃあ...。殺しに来たのか?」


 無理にでも体を動かし、僅かに身を起き上がらせたアカツキが悲痛に染まった顔でウーラを見つめる。   


 事と次第によっては敵対せざるを得ない緊迫した状況に、周囲の視線が一か所に集まり、束の間の再開を喜ぶ暇も無くアマテラスが口を開いた。


「―――私の首をやれば、教会は満足するか?」


「アマテラス...!!」


 少女となったアマテラスを制止する雫の声が聞こえ、それでも意に介さない様子でウーラは言った。


「いいえ、教会が求めているのは三人の首だけで、仮に貴女が首を差し出しても屍が一つ増えるだけでしょう。結果は覆りません」


 仮にアマテラスがまだ神として在るのであれば幾らか話は違っただろうが、今の彼女の脅威度は二人に遠く及ばない。その程度の命で何かが変わるほど世界は甘くは無いのだ。


「二人が大人しく死ぬのであれば教会はこの都市に手を出さない筈です。疲弊しきった民に、戦力の大半を失ったウルペースと貴方達で教会の侵攻を止めることは不可能。選択肢は、一つしか無いかと」


 そのあまりに重たく佇む現実に重苦しい雰囲気が漂い始め、各々が命を天秤に比べるなか、刻一刻と時間は流れ、いまこうして悩んでいる間も教会の手勢は迫ってきている。

 覆しようのない事実を前に雫と黒羽は一度見つめ合った後、諦めたように視界を降ろし、


「分かり...」


「―――そんな馬鹿げた提案を受け入れる必要は無いわ」


 ―――信仰都市を襲っていたもう一つの滅亡、それを打ち破った剣神リア・アスバトロアの放つ剣気と殺気が諦観を切り裂き現れる。


「...随分と早い帰還でしたね。少なくとも数日は動けないものと踏んでいたのですが」


 教会も観測した滅びの具現、黒の獣と対峙し、迫りくる覆しようのない滅亡を防いだ信仰都市防衛の影の立役者と言ってもいいリアの殺気を含んだ登場にウーラが警戒を隠さないままに言葉を続ける。


「先刻の信仰都市を包んだ黒い霧と暴風は終末の獣、その原色の一つを担う黒の死に際の悪あがき程度のものでした。それだけであの規模の異常を起こせたんです。直接相対したのあれば、それ以上のものを受けたでしょうに」


「今は私の話をする必要は無いわ、ウーラ。貴方が仮に教会の使いとして訪れているのであれば聖人達に伝えなさい。この都市に手出ししようものなら私が敵になる、と」


 そんな、黒い災害を越えて尚疲弊を見せないリアの剣気を含んだ立ち姿にウーラは参りましたとでも言うように手を上げ、言った。


「―――分かりました。聖人のお歴々に説明する際はその事を伝えておきましょう」


「際は...って。もう二人の死刑は決定事項なんだろ?お前はその事を俺達に伝え、教会に事と結果を報告する為にこの都市に来たんじゃないのか?」


 どこか含みを持ったウーラの言葉に思ったままの疑問をぶつけたアカツキ、しかしリアは最初からその事を知っていたかのように剣を鞘に納め、今更試すような物言いをするウーラを咎めた。


「一度でもその女が教会の使いを名乗った?確かにその女は教会に属する身だけれど、ここに来たのはそれが理由ではないでしょう。数ある特権を持つ大司教たちの中でも『自由』を象徴する彼女は例外的な活動権を所持しているのだから。...全く、意地が悪い」


「―――はい!とまぁ、ここまでそれ(教会)らしいことを言っていましたがそれはそれ、これはこれ、です。教会の決定事項であるお二人の死刑は覆りませんが、それに信仰都市の人間が巻き込まれる必要は無い。今回、私がこの都市に訪れたのはこのお話をする為です」


 天間雫、黒羽勇也、ウルペースに信仰都市の民。そのどれもが生き残る道にして、ウーラが直接聖人達に直談判をしてまで手回しをしていた秘策も秘策。未曽有の災害を残した信仰都市、その全てとまではいかないがこれで多くの命が救われることになるだろう。


「第127代目祭司ダオの初孫であり、前任の巫女の血を継ぐ類まれなる生まれと才能を持った少年―――ネオ。貴方には第128代目祭司としてこの都市を治め、無辜の人々を導いていただきたいのです」



       ◀▶ ・ ◀▶ ・ ◀▶ ・ ◀▶ ・ ◀▶       



『───貴様、冗談と済ませるには度が過ぎているぞ』


 時刻は遡り、大聖堂のある教会へ英雄アシャの影法師が襲撃を行い、『救済者』キリスと『自由』のウーラにより撃退され、その報告を終えたキリスと入れ替わるようにして現れたウーラが新たに自身の庇護下に置きたいと提言した人物の姿に第三の聖人アダム・シェミチカザムは冷静に、されど隠しきれぬ僅かな怒りも含みながら度を超える彼女の狂言を非難する。


「その者は報告にあった祭司、ダオという男の孫にあたる少年だろう。信仰都市に巣くう背信者を束ねる者の血族を庇護下に置くとは何事か」


「えぇ、彼はあの病魔巣くう信仰都市の実質的な統治者ダオの孫に当たり、前任の巫女の血を引き継ぐ者。と、同時に。―――その被害者でもあります」


 恐らく、信仰都市のいざこざは教会による侵攻が完遂され、その地に住まう人間全ての粛清が為されるまで終わる事はない。


 教会で観測できているだけで三度に渡る巫女と地獄の主による神の冒涜に、此の世ならざる異界の賊神の顕現、黒の獣の断片の出現など、異常な報告は多岐に渡り、その他にも生命に干渉する莫大な力の漏出など、どれもこれもが明確に教会が禁じている類のものばかりが起こっており、どうあってもその咎を払拭する事など出来はしないのだから。


 今後数年かけて信仰都市への侵攻が行われ、恐らくウーラの持つ都市壊滅部隊も駆り出され大規模な掃討作戦を持ってこの問題は解決する。


 だが、そうなれば多くの命が失われることになるだろう。それは信仰都市の人間だけでは無く、教会の信徒、果てには強者ぞろいの壊滅部隊の中からも、だ。


 それだけは避けなくてはならない。アオバの運用には細心の注意と警戒を払う教会がこの問題に彼の介入を許さなかった場合、―――というよりもアダムの帰還によって今後長い間彼を誰も知らない場所へ匿っておかなくなってしまった以上、どうしても再生魔法の力を頼る事は出来なくなってしまうのだから必ず救えない命は発生する。


 故に、ウーラは打開策を模索し、より犠牲の少ない道を選び出した。

 それはあの少年を、祖父の遺恨により人生を狂わされた被害者として仕立て上げ、信仰都市を自身の管理下に置きながら当面の安全を教会に誇示する事だ。


「報告にもある通り、ダオは禁忌たる生命への干渉。生者と死者の入れ替えを画策していました。その際、ネオもまた直接ダオ本人より暴行を受け、その際片足を失っています」


「それは自身の孫であるネオを一度殺し、禁忌によって蘇らせるためであろう」


「えぇ、恐らくはそうでしょう。―――ですが、足を欠損する程痛めつける必要などあったのでしょうか?仮に親類であり、愛しい孫息子であるのなら、苦しませずに殺す筈。私にはどうしてもこう思えてならないのです」


「―――自身の望みを否定され、離反されたことによる当てつけだ、とでも?」


 やや落ち着きを取り戻していくアダムの勘の良さ、ウーラ程度の考えなど如何様にも予想がつくとでも言うような言葉の先取りに狂わされることなくウーラは言葉を続ける。


「仰る通りです。ですが、彼は生きていました。直前まで信仰都市に留まっていた者達からの報告にもある通り、彼はアカツキ等と共に行動していたのです」


 知っている。知っているのだ。

 ダオが実の娘のように育てた、拾い子である巫女が腹を痛めてまで生んだ子供、雫や黒羽と同等以上に愛していたネオを痛めつけて殺そうとしたのには理由がある。それが意味するものも、彼のその心情も痛い程理解できてしまう。


 自分の過ちを理解し、それでも尚捨てきれなかった愚かな老人の願望の為に彼等は被害者でなくてはいけなかった。血が繋がっていようといまいと、血と悔恨に濡れた過去を知る者以外、知って尚受け入れる人間が少ないと分かっていても彼は大切な何かを取り戻すために禁忌に手を染めた。


 理解できてしまうから、その事を忘れる様に努め、ウーラは結果残された純然たる事実を利用する。


「だとすれば、この少年は洗脳されていたのではないでしょうか?見たところまだ10になったばかりか、それにも満たない幼子です。ただ彼は祖父の言うがままに生きて、そして告げられたものが命を冒涜する愚行であり、そこで祖父が間違っていると気づき離反した。それであれば痛めつけられた上に、彼が生きていた理由にも説明がつきます」


「生きていても、死んでいても構わなかった。元より、計画の邪魔になった時点で蘇らせるつもりは無かった...か」


 教会の持つカードはあくまでも報告されたもののみだ。何故ならば信仰都市に潜入させていた信徒が何かを隠すことも虚言を弄する必要もない。元より、一つの神を崇拝し、絶対の信仰を持つ従順な信徒の集まりがこの組織の狂気的な連帯感と使命感を底上げしており、それに違反する者は例外なく裁かれてきた。


 先行して信仰都市に向かい、何らかの情報を手に入れたネクサルもまたその例外では無いだろう。神器メモリアという他者の記憶を操作する力を持ってすれば、何を伝え、何を秘するかは彼の想いのまま。


 そんな彼でさえ教会にはその()()を除いて、包み隠さず報告しているのだから。


「―――それだけではありません。彼を私の庇護下に置くことで我等教会が実質的に信仰都市を管理、管轄下に置くことで得られるメリットが二つ、存在します」


「...申してみよ」


「一つは今後起きるであろう大規模な侵攻作戦、それによって失われる我らが信徒の命を守る事が出来ます。恐らく疲弊しきった信仰都市を堕とすにあたり、一割、いえ仮に巫女やそれに準ずる者が協力した場合二割ほどの信徒が死に、最悪の場合投下した大司教からも多少の被害は出る事になります」


「―――そうはならんよ、自由の寵児。何故ならば天間雫、黒羽勇也、ネヴ・スルミル三名の死刑は既に決まっている。最早眼前に迫った出来事では無く、これは決定事項だ。それに当たり我等は全ての大司教を信仰都市に向かわせ、ごく少数での短期制圧を行う事にした」


「.........。」


 唐突に告げられたその事実を前に一瞬、ウーラの思考が乱雑な情報の整理で溢れかえる。自身の知らないところで決定された二人の子供の死刑に、歴史上片手に数えられる程の教会の取れる切り札の一つたる大司教の一斉投入、それによって無残に横たわる無数の死体と崩壊した都市の姿。


 そうなればアダムの言うように短期制圧という傍から見れば無謀な作戦も可能になり、仮に神格を有する天間雫であっても全ての大司教を相手取るとなれば成すすべなく敗北する。そも、全員では無くともウーラの知る彼女の実力では二人相手どるのがやっとの...。


 ―――瞬間、混ざるようにして現れた光景がウーラの思考を支配する。


 崩壊していく都市の残骸、かつてその都市を治めていたであろう大貴族が住まう屋敷が焼け崩れ、その前で呆然と立ち尽くす少女の姿、その血と涙に濡れた双眸が、こちらを眺める様を。


「―――剣神。剣神リア・アスバトロアが敵となった場合、間違いなく大司教の中から数名死人が出ます」


 あの時、あの瞬間にこの世で最も正義を体現する存在と成った彼女に与えられた二つ名を使い、ウーラは突如として芽生えた希望の糸を手繰るように考えながら言葉を続ける。


「仮に勝利したとしてもキリスも言っていたように教会の権威が揺るぐような事態になれば都市間の均衡が危ぶまれます。それは何としても避けなくてはいけない最悪の終末論でしょう」


 その言葉に初めてアダム・シェミチカザムは沈黙を見せ、変わるように第八の席に座る老婆と思わしき声が発せられる。


「そこは貴公の都市壊滅部隊を動かせば何とかなるのではないか?リリーナとあの少女が居れば如何に剣神と言えど数刻の猶予が出来よう。その間に大司教総勢7名による殲滅を行えば最悪、二名の死者だけで事は済む」


「リリーナはともかくあの子に戦わせれば最悪剣神の方へ寝返る事態になりかねません。そうなればシヴァでは止められない。そも、実戦での運用ができないからあの子には本部での永久待機を命じているのです。その取り決めは聖人の皆様とも話し合い、約定を結んだ上で手の付けられない純粋無垢な子供に私達は枷を付けたのでしょう」


「道理だな。シヴァは動かせん。使ったところで長期的な作戦にしか使用できず、最悪の場合壊滅的な被害をこちらに生むことになろう。そも、彼等の運用は殆ど彼女に一任している筈だ、リアトリス卿」


 8人目の聖人の発言に対して12番目の席に座る老人の声が糾弾するように挟まれ、それに呼応するように9と6、二つの議席から声が上がる。


「ですが、必要になれば戦力として運用する取り決めであのような怪物共を...!!」


「―――リアトリス」


 どこまでも冷静を保った厳格なアダムの声がそれ以上の無礼を許さぬと言うように第八の聖人を宥め、殺意を隠さないウーラの瞳がそれ以上の言葉を余儀なく中断させる。


「すまんな、ウーラよ。彼女の失言を許してくれ」


「...いえ、出過ぎた真似をしました」


 アダムの静止もあって踏みとどまったウーラに対し、考えを纏め終えたのかアダムは次いで質問を投げかけた。


「ウーラよ、お主の発言を受け入れよう。確かに剣神の脅威が我等に向いた場合、教会は多大な損益を被り、諸都市は黙っていないだろう。だが、それでも必要になればそうせざるを得ない事を理解はしている筈だ。故に、もう一つの利点を我等に教えよ、彼の者らをダオの妄執より解き放ち、従えることでどう教会の権威が保たれるのかを」


 信仰都市と言う教会にとっては背信行為を数百年に渡り行ってきた都市を存続させるに足る程の理由、その一つとして彼女は健在する脅威による反撃があった場合の教会の損失を避けられることを提示した。だが、もう一つある筈なのだ。彼女が賭けるに足る、教会が得ることの出来る確かな利益が。


「―――それは、(ひとえ)に我等が神の寛大さと慈悲を世界に示すことが出来る、というものです。長きに渡り妄執に囚われた者達に救いの手を伸ばし、改心させることに成功したと伝えれば信徒は感涙に咽び泣き、民は長い安寧を確信し、我等の信仰はより尊いものとなる。これこそが、彼の都市を救う上で得られる最大の利点にして、我等が信仰の境地。これに勝るものは無いと、存じ上げますが」


 そう言って仰々しく聖人の座す席を見上げたウーラにアダムはフっと笑い、これ以上の話し合いは不要だと判断し、大聖堂の秘奥に隠された聖地に響き渡る程の声でもって決定を告げる。


「これより、我等が教会は背信者たる天間雫、黒羽勇也、ネヴ・スルミルの三名に死刑を宣告し、旧信仰都市に住まう者達を彼の妄執より解き放つことで本当の信仰とは何たるかを世界に示してみせよう!!―――さあ!祈りをここに、救いを彼方に!!」


 第三の聖人アダム・シェミチカザムの決定を持ってして、聖地に介した全ての信徒が膝をつき、その中心にて輝ける神像に変わらぬ信仰を祈り―――最悪の未来は覆る。

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