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私、バトルを開始する


 控え室を出ると、目の前に広がったのは青い空。まるで我が国が誇るアニメーション製作会社が描いたような、抜けるくらいに青い空だった。

 そこにこんもりと膨らんだ、白い雲が浮かんでいる。

 いつの時も、人類が生まれる前からそこにあり、人類が滅びようとも変わることなく存在する、永遠に変わることなき空である。

 しかし目をおろして見れば、コロシアムの広々としたグランドと、客席を埋め尽くす人また人。全身で浴びる大歓声は、疑似空間の作り物とは考えにくいものだった。

「さあ! 張り切っていきましょう!」

 犬耳の娘が、ピンと尻尾を立てた。が、得物を手にしていない。おデコのお姫さまは槍、目つきの鋭いベルキラは手斧、ホロホロも短剣を持っているのに。

「ボクの武器ですか? これですよ?」

 小さな握り拳を二つ、私に差し出した。指なしの赤い革手袋をはめている。

 彼女の頭の上には、「アキラ、拳闘士」と書かれていた。

「重たい武器や鎧兜なんかより、この方がいいんですよ!」

「そういうものなのかね?」

 まあ、私をふくめた全員が、鎧兜など装備していないのだが。

「じゃあ前衛は私とアキラになるかしら?」

 デコ姫さま………コリンと名前が振られていたが、私からすればデコリンだ………が槍を構える。

「お二人とも、私の後について来てください」

 前髪で顔の半分が隠れたベルキラが、落ち着いた口調で私とホロホロに言う。

「みなさ~~ん、怪我をしたら、言ってくださいねぇ~~♪」

 ピンクのメイド服を着たピンク髪という、目に悪いヒーラーのモモが手を振る。

「敵も戦意旺盛みたいね♪ 頑張りましょう!」

 敵陣営からも、鬨の声があがっていた。

 試合開始の銅鑼が鳴る。

 みんな一斉に駆け出した。

「マミヤさん、魔法の準備を」

 ホロホロの声だ。

 走りながら杖を立て、くるくると三回回す。杖の先端に、青い炎が宿るのを感じることができた。

 光る矢が走った。

 ホロホロの弓魔法だ。見事敵のドワーフに命中。わずかに足を止める。

 これは私も負けてはいられない。

 距離が充分に詰まってから、杖を振りおろした。

 火の玉が弧を描き、少し遅れて駆けてくるドワーフに………命中! ドワーフは、またも仲間たちから遅れをとった。

 ファースト・コンタクトは、こちらに有利だ。

 前衛のアキラとコリンが、敵の前衛と衝突。交戦状態に入る。

 そこへ敵の魔法も飛んできた。しかしハズレ。

「マミヤさん、コリンを手伝ってあげて!」

 手伝ってあげてとは、コリンの相手の邪魔をしろ、ということだ。

 敵の背後に回り込み、「とりゃ!」と弱攻撃。敵は一瞬動きを止めて、攻防はコリンの優勢に傾く。

「はぁい♪」

 いつの間にやら、ホロホロがいた。コリンの手伝いに加わる。

 アキラはどうした?

 既にアタッカーを一人倒して、ベルキラとともに、敵タンクと一戦交えている。

 ということは?

 タンク一名、スナイパー一名がフリーになっている、ということか。

 魔法はまだ回復していない。

 が、コリンの敵をいつまでもかまっていられない。

「まかせたぞ」

「いってらっしゃい」

 その場を離れる。

 アキラもすでに次の獲物へと走っていた。

 タンク、すなわちもう一人のドワーフが迫っていた。私とホロホロで足止めした相手だ。

 さて、アキラはどう出るのか?

 ドワーフが斧を振りおろしてくるところを、頭を振って軽い足取りでかわす。

 ボクシングか、武器ありの戦闘で?

 しかしその不利は無さそうだ。ドワーフの一撃は威力はありそうだが、連打に欠ける。

 アキラは易々と懐に入り込み、弱攻撃………つまりジャブでドワーフの動きを止めている。

 ならば私も………。

「背後から弱攻撃、とおっ!」

 アキラが足止めを効かせているところなので、ド素人の私でも弱攻撃ならば簡単に入れられる。

 ペチリと打っては逃げ、またペチリと打っては逃げる。

 そうこうするうちに、魔法の充填が完了したようだ。

 そうなると男子としては、飛び道具の火の玉を放ってみたくなる。

 敵の魔法使いは、まだフリーだったろうか?

 ドワーフから離れて、周囲を確認する。

 敵のドワーフ一号は、ベルキラとコリンが相手をしている。ドワーフ二号は私とアキラで足止め中。

 ちなみに敵の前衛二人は、すでに撤退。先にやられた方が、復活したところだった。

 数の上では六対五で我々が有利だが、コリンなどは回復を受けなければ撤退させられるほどに傷ついている。

「モモ、コリンに回復を!」

「はぁい♪ モモさぁん、いきますよぉ♪」

 こっちは必死に闘っているのに、あの女、なぜ一人だけ楽しそうなんだ?

 アイドルのグラビア写真のようなポーズをとって、またとって、さらにとって。ようやく回復魔法が発動。

 コリンはグッと回復した。

 が、すぐに削られた。

 青い火の玉が命中、コリンの体力を削り落とした。

 スナイパーの仕事だ。

 どこにいる?

「あーーっ!」

 コリンの声だ。

 ドワーフの一撃を食らったのか、撤退させられてしまった。

 それにしても、敵スナイパーの姿が見当たらない。

「きゃっ!」

 ホロホロの声。

 目をやると、スナイパーに「殴りかかられ」ていた。

 短剣と杖。やはり長い得物に利があるようだ。ホロホロの体力を奪ってゆく。

 だが、そんなことは許さない。こちらは魔法の充填完了なのだ。

 ねらってねらって、杖を振った。

 私の火の玉は、またも命中。スナイパーの体力がガクリと落ちた。

 が。

 ブンブンブウゥゥン。

 三度のバイブが走った。さらにバイブが走る。

 何が起こったのか?

 アキラの手を逃れたドワーフが、私に襲いかかってきたのだ。

 うん、これは危険な状態だな。まったく体が動かない。

 デコリン撤退。ホロホロも危ない。私に至っては、体力が風前の灯である。

 しかも悪いことに、ヒーラーの回復魔法はデコリンに使ってしまった。しばらくは誰も、回復させることができない。

 現在ポイントは二対一なのだが、これは逆転の範疇だ。

 ………どうする?

「さがるわよ! みんな、さがって!」

 ホロホロの指示だ。

「コリンが復活する場所で、立て直しするわよ!」

 敵スナイパーにとどめを刺して、ホロホロが指示を出す。

 しかしホロホロ、そろそろ私も限界のようだ。

 グラリと体がかたむく。

 バイブの連発が止まないまま、視界が暗転していった。

御来場ありがとうございました。毎朝八時更新を目指しております。

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