私、初陣のメンバーと逢う
六人制闘技控え室のドアを開くと、ただの真っ暗闇であった。
振り向けばあの美人の受付嬢がいるはずなのに、やはり真っ暗闇。
当然のように右を見ても左を向いても、真っ暗闇ではありませんか。
お断りしておくが、私の生家は健在であり荒れてなどいない。まして私の人生に、傷などついていない。
と、愚にもつかないことを並べてみたが、視界に唯一、輝いて見えるものがあった。
ロード中の文字だ。
そして前例にあった通り、まぶたを開くように光が差し込んでくる。
視界が戻った。
そこには五人の珍妙なる方々………もとい、ファンタジーな姿の方々がいらっしゃった。
黒髪、それはよかろう。しかし何故君は堅気とは思えない雰囲気を出しているのかな?
金髪、可憐なのは構わない。しかし何故君は真っ白なドレスで、頭に王冠を乗せているのかな?
緑髪………評価は控えよう。しかし君は耳が尖っているねぇ? こんなことを言うと差別になるのだろうか? 教えてくれなくて結構です。気にしないことにしますから。
それからそこの青髪。何故君は犬のような耳を頭に生やしているんだ。人間の耳があるだろう。何故それを活かさんか? あぁそうだとも、ホットパンツの尻から伸びた尻尾には目をつぶってやる。つぶってやるから私の常識を崩壊させないでくれ!
そしてピンク髪! 論外だ、出直して来いっ!
………失礼した。私ともあろう者が、目の前に現れた常軌逸脱な面々に、少しばかり心が乱れてしまった。
ここはゲームの世界。
姿かたちが珍妙なのは仕方のないことなのだ。
ここはド素人の私が折れるべきであろう。
「なによコレ? 人間が私一人しかいないじゃない!」
折れようとした途端に、金髪のお姫さまが口を開いた。
「それはドワーフの私に対する当てつけかな?」
黒髪が金髪を睨んだ。
「こらこら、ベルキラ。威嚇しちゃダメだよ?」
緑髪が見上げるようにして、黒髪のベルキラを諌める。どうやら二人は知り合いのようだ。
「まあまあ、せっかくお会いできたんですから、一緒に頑張りましょう!」
犬が尻尾を振る。
「そうですねぇ、みんなで力を合わせて、勝利を目指しましょう! おーーっ♪」
ピンクが気合の抜ける声で、力なく拳を突き上げた。
この顔合わせは、ブリーフィングの時間らしい。
「じゃあ魔族さん………いや、マミヤさんですね」
小柄な長髪の緑髪が、私に近づいてきた。その傍らにはウィンドウが開かれている。つまり彼女が私のプロフィールを知っているのも、私の傍らにウィンドウが開かれているからだ。
「えっと………ニンフのホロホロさん、で良いのかな?」
「オッケーオッケー♪ 構わないわ! で、マミヤさん?」
「なんでしょうか?」
「この表を見てもらえますか?」
中空に、オーダー表のようなものが浮かんでいた。
その中に私の「マミヤ」という名前もある。
私とベルキラ、それからホロホロは同じカラー、緑色の枠に入れられている。
「私たちは緑陣営、敵は赤陣営。これはわかりますよね?」
「それとなくは」
「で、マミヤさんのデータは?」
読み上げてみろと言うのか?
「マミヤ、魔族、魔法使い。………スナイパー?」
魔族や魔法使いはわかる。それは自分で選んだ種族であり、職種である。
しかしスナイパー?
何故に私がハードボイルドな狙撃手の冠をかぶっているのだ?
「で? 私のプロフィールは?」
「ホロホロ、ニンフ、盗賊………スナイパー?」
なんということか。
私がハードボイルドなスナイパーに選出されているのなら、彼女もまた狙撃手の冠をかぶっていたのだ。
「はい! よくできました!」
「いやホロホロさん、スナイパーとは何のことでしょうか?」
知らないことは訊くに限る。その上でミスをしたとしても、それは仕方のないことなのだから。
「スナイパーっていうのは、離れた場所から敵にダメージを与えられる人の総称なの。………マミヤさん、魔法で火の玉を飛ばせますよね? 私も弓の魔法が使えるんです」
そうか、それがスナイパーの条件か。
「ということでマミヤさん、最初の魔法で、彼をねらってみません?」
小柄なホロホロさんは、背伸びして表を指差した。
ゴリ、ドワーフ、戦士、タンクとある。
私の第六感が、こいつにゃ手を出すなよ、痛い目を見るぜとささやいていた。
「どうする? やる? やらない?」
必要以上に、ホロホロが詰め寄ってくる。
「ファースト・コンタクトでゴリさんをねらうのはわかった。だがそれに何の意味があるのかね?」
「メイン・ファイターの足止めかな? 敵のメンバーを見て? 特に役割の欄ね?」
いつの間にか彼女は、指示口調である。
だが私は初心者。
言われた通りにした。
タンク二名、アタッカー二名。スナイパー一名にヒーラー一名。
「タンクがパワーとタフネスを備えた戦車、今回はベルキラね。アタッカーが浸食してくる歩兵。つまりウチではワンコ耳の娘と、金髪デコ………じゃなくて、金髪お姫さまの娘。ヒーラーは回復役でのんびりピンクさんね。敵は戦車が二人、肩を並べて迫ってくるだろうから、片方に足止めをかけるのよ」
「なるほど、一斉に襲いかかられるのではなく、各個撃破をねらうのか」
「その通り!」
チュートリアルの戦闘訓練で、叩かれても痛くないことはわかっている。しかし打たれるとバイブが走り、一瞬動きが止まるのだ。
これを利用すれば、ねらった相手を足止めできるし、弱攻撃でも連発すれば相手を棒立ちにもできる。
「私たちのお仕事は敵の陣形を崩すのと、敵の背後にまわってペチペチ叩くこと、っていう感じで」
「まあ、ジャイアント・キルは見込めそうにないからな、私などは」
そう、魔法の杖は魔法の杖であって、剣や槍ではないのだ。
それにしても………メンバーを見渡してみるのだが。
「何故に私をのぞく全員が、女の子なのかね?」
ゲームというものに知識は無い。
しかし戦闘、格闘に女性が向いているとは考えにくい。
とはいえこの緑髪のホロホロ。戦闘計画を練るのに慣れているようだ。もしかしたら信用できるかもしれない。
そして、私の初陣。
開幕の銅鑼がせまるが、どのようなことになるやら。
ブリーフィング・タイムの終了を告げる、鐘が鳴った。
これより、戦闘開始だ。
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