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幕間 キアラン、公園で思う

キアランは公園で状況を整理していた。


ベンチ。

木陰。

穏やかな午後。

子供が走り回り、

犬が吠え、

老人が新聞を読んでいる。

平和。

非常に平和。


――油断しきった環境だ。

「……いいな」

小さく呟く。

皮肉ではない。

本心でもない。

ただの評価だ。

少し長めの髪。

ロングボブとでもいう長さ。

長身。

背もたれに体重を預けながら、

彼は周囲を観察していた。

視線は動かない。

だが。

全部見ている。

出入口。

死角。

高所。

遮蔽物。

退避経路。

襲撃経路。

爆発半径。

「三十秒」

小さく言う。

「全員退避可能」

一拍。

「ただし老人は無理だな」

冷静な結論だった。

王国軍第一師団。

所属。

任務の大半は国からのもの。


潜入。

護衛。

制圧。

排除。

そして――

事後処理。


今回、彼はブリギットからの依頼で

怜の故郷である日本へやってきた。

名目は支援。

実態は観察。

そして――

抑止力。

「俺が来てる時点で抑止になってるなら楽なんだが」

小さく吐き捨てる。

口が悪い。

だが声は静か。

ふと。

ポケットに手を入れる。

取り出す。

紙。

メモ。

そこには書かれていた。

テレサへの土産

丸文字。

読みやすい。

だが圧がある。


テレサ。

アーケイン・レジストリ受付。

同期。

昔からよく知った仲。

真面目。

厳格。

そして。

執念深い。

以前。

一度。

土産を忘れた。

その結果。

書類が三倍になった。

「偶然です」

と彼女は言った。

笑顔で。


キアランは空を見上げた。

雲。

流れ。

風。


「……買うか」


小さく呟く。

義務感だ。

立ち上がる。

歩き出す。

無駄のない動き。

観光客の歩き方ではない。

警戒態勢の歩き方でもない。

もっと厄介な。

常に備えている歩き方だった。

商店街。


人。

音。

匂い。

呼び込み。

笑い声。

雑踏。


キアランは立ち止まる。

周囲を見る。

一周。

二周。

三周。

「……逃げ場が多すぎるな」

評価。

完全に戦術。


店。

土産物屋。

入る。

棚。

菓子。

人形。

雑貨。

食品。

装飾。

色。

音楽。

「うるせぇな」

小声。

だが店員に聞こえた。

店員が笑顔で言う。

「何かお探しですか?」

キアランは即答した。


「爆発しない物」


沈黙。

店員の笑顔が止まった。

キアランは気づかない。

真顔。

完全に通常会話。

「輸送距離が長い」

続ける。

「温度変化がある」

「湿度も高い」

「誤作動の可能性は排除したい」


店員。

完全に固まる。

数秒。

キアランはため息をついた。

小さく。

「……冗談だ」

一拍。

「半分」

店員は笑った。

引きつった笑顔で。


キアランは棚を見る。

箱。

菓子。

包装。

緩衝材。

密閉。

手に取る。

振る。

耳元。

音。

「静かだな」

評価。

別の箱。

振る。

カラカラ。

「これはダメだ」

即断。

店員が聞いた。

「な、何がですか?」

キアランは答えた。

「崩れてる」

正解だった。

店員が慌てて箱を確認する。

本当に一つ割れていた。

沈黙。

店員が言った。

「……すごいですね」

キアランは首を振った。

「普通だ」


そのとき。

視線が止まった。

棚。

小さなぬいぐるみ。

猫。

丸い。

柔らかい。

無害。

沈黙。

手に取る。

持ち上げる。

軽い。

押す。


ぷに。


もう一度。


ぷに。


沈黙。


「……」


数秒。

「これは」

一拍。

「武器にならないな」

当然の評価。

しかし。

次の瞬間。

彼は言った。

「だが」

「テレサは喜びそうだ」

非常に冷静な判断。


レジへ向かう。

その途中。

子供が走ってきた。

全力。

一直線。

転びそう。

キアランの体が動いた。

一歩。

半歩。

手が伸びる。

子供を支える。

完全に無音。

母親が駆け寄る。

「すみません!」

キアランは首を振る。

「気にするな」

そして。

小さく付け加える。

「次は右に倒れる」

母親が固まる。

「……え?」

キアランは子供を見る。

冷静に。

「重心が右に寄ってる」

事実。

子供が再び走る。

三歩。

転ぶ。

右に。

沈黙。

母親がキアランを見る。

キアランは肩をすくめた。

「ほらな」

悪びれない。


レジ。

会計。

袋を受け取る。

外へ出る。

公園へ戻る。

ベンチ。

座る。

袋を膝に置く。

風。

葉。

音。

静か。

キアランは袋を開ける。

ぬいぐるみ。

取り出す。

見つめる。

沈黙。

「……」

小さく呟く。

「これで機嫌が直るなら」

一拍。

「安いもんだ」

さらに一拍。

「直らなかったら」

少し考える。

そして。


「次は二個買うか」


いつも通りの判断だった。

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