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幕間 ドナル、妖精の長となる

 ある平和な一日だった。


 マーラに弟子入りしたチンピラの二人、

 錦織吾郎と冴島彰。

 彼らは二人でルームシェアをして生活していた。

 そこに。

 ドナルが厄介になることになった。

 狭い。

 とにかく狭い。

 もともと手狭な間取りに、

 岩のような体格の大男が一人増えたことで、

 部屋の空気密度が明らかに上がっていた。

 六畳。

 ふとん二つ。

 テーブル一つ。

 そして。

 ドナル。

「……壁が近いな」

 ドナルが真顔で言った。

「……せまいっスね」

 吾郎が答えた。

「昨日より1メートルは近い」

 彰も真顔で言った。

 ドナルは腕を組んだ。

 真剣にうなずいた。

「鍛錬には適した環境だ」

 二人は何も言わなかった。


 そのとき。

 ドナルの視線が止まった。

 テレビだった。

 その下には黒い箱状の機械。

「これは何だ」

「ゲーム機です」

「戦闘訓練用か」

「遊ぶためのものです」

 ドナルは少し考えた。

 そして。

「なるほど」

 深くうなずいた。

「精神修養か」

「たぶん違います」

 テレビの電源が入る。

 画面に映ったのは。

 筋肉芸人だった。

「パワー!!」

 全身の筋肉を震わせながら叫ぶ。

 ドナル。

 静止。

 数秒。

 ゆっくり。

 深く。

「……見事だ」

 腕を組む。

「非常に合理的な筋肉の使い方をしている」

「芸です」

 吾郎が言った。

 ドナルは小さくうなずいた。

 そして。

 小さな声で。

「……パワー」

 妙に似ていた。


 その日。

 ドナルは街へ繰り出した。

 どうやら。

 DVDという円盤があれば、

 映像作品が見られるらしい。

 それは非常に興味深かった。

「知識として確認しておく必要がある」

 誰も聞いていないが、

 ドナルは自分に説明した。


 ドナルは腕を組み、

 街の中で立ち止まった。

 入手先を二人に聞いておけばよかった。

 だが。

 何も知らずに散策するのも。

 一興だろう。

 歩く。

 堂々と。

 そのとき。

 前方に。

 男がいた。

 よく鍛えられた体。

 太い腕。

 厚い胸。

 引き締まった背中。

 ドナルの目が細くなる。

「良い肉体だ」

 男が振り返った。

 少し驚いた顔。

「え?」

 ドナルはポスターを指差した。

「この円盤はどこで手に入る」

 男は一瞬黙り。

 そして笑った。

「映画ですか?」

 ドナルはうなずいた。

「まだ見たことはない」

 男は腕を組んだ。

 考える。

 そして。

 少し真剣な顔になった。

「じゃあ」

 言った。

「最初に見るなら」

 少し間を置いて。

「これがいい」

 数分後。

 ドナルの手には二枚の円盤があった。

 ターミ◯ーター

 ドラゴン◯ール劇場版

 ドナルはそれを見つめた。

 重みを確かめるように。

「……安いな」

 男が笑う。

「中古なので」

 ドナルは深くうなずいた。

「理解した」

 そのとき。

 男が少し躊躇いながら言った。

「すみません」

 ドナルが振り向く。

「あなた」

 男はドナルの腕を見た。

 肩を見た。

 背中を見た。

 そして。

 確信したように言った。

「かなり鍛えていますよね」

 ドナルは答えた。

「日課だ」

 男は息を吸った。

 そして。

「もしよければ」

 少し緊張した声。

「トレーニングの指導をお願いできませんか」

 沈黙。

 ドナルは。

 数秒。

 真剣に考えた。

 そして。

 静かにうなずいた。

「任せろ」

 低く。

 力強い声だった。



 数十分後。

 二人はある場所にいた。

 トレーニングジム

 ドナルは中を見渡した。

 目が輝いていた。

 鉄。

 重り。

 機材。

 ケーブル。

「素晴らしい」

 本気で感心していた。

「この設備なら」

 ゆっくり言う。

「人は限界を超えられる」

 そのとき。

 ドナルは感じた。

 多数の視線。

 見られていた。

 完全に。

 ざわ。

「でかい……」

「何あの背中……」

「壁?」

 ドナルは一歩前に出た。

 胸を張る。

 そして。

 大きな声で言った。

「指導を依頼された」

 ジムが静まり返る。

「よって」

 一拍。

「これより」

 さらに一拍。

「鍛錬を開始する」


 沈黙。


 次の瞬間。

 人々が集まり始めた。

 一人。

 二人。

 三人。

 筋肉。

 筋肉。

 筋肉。

 ドナルは思った。

 彼らは。

 筋肉の妖精

 この世界では。

 トレーニー

 という種族らしい。

 一人の男が言った。

「先生」

 ドナルが見る。

 真剣な目。

「まず」

 息を飲む。

「ポーズを見せてください」

 沈黙。

 ドナルは少し考えた。

 そして。

 うなずいた。

「いいだろう」

 一歩前に出る。

 体が動いた。

 自然に。

 本能のままに。

 肩を開く。

 背中を締める。

 腕を上げる。

 広背筋が広がる。

 上腕二頭筋が隆起する。

 三角筋が盛り上がる。

 完璧だった。

 それは。

 バック・ダブルバイセップス

 沈黙。

 完全な沈黙。

 次の瞬間。


「うおおおおおおおお!!」


 歓声。

 拍手。

 震動。

 誰かが叫んだ。

「本物だ……!」

 別の誰か。

「理想形だ……!」

 さらに誰か。

 震える声で。

 言った。

「……長だ」

 静寂。

 そして。

 誰かがつぶやいた。

「筋肉の」

 間。

「妖精の長だ」

 ドナルは。

 意味を理解していなかった。

 だが。

 静かに。

 ゆっくり。

 頷いた。

 そして。

 低い声で言った。

「努力は」

 一拍。

「裏切らない」

「パワー!!」

 その日。

 ドナルは。

 妖精の長となった。

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