第三話
茶会は和やかに終わり、第八は夕方には自分の部屋に帰ってきた。
美味しくてついアップルパイをおかわりしてしまったので、お腹いっぱいだ。
侍女と部屋着に着替え、のんびりしていると、ジンツァイの先触れがやってきた。
第八は今日のことを母に話そうと、喜んで出迎えの準備をする。
「母上、ご機嫌麗しゅう。さあ、こちらに来てわたくしの話を聞いてくださいませ。」
やってきたジンツァイを、ご機嫌に迎えてお茶に誘う第八。
ジンツァイは柔らかく微笑んで、勧められるまま席に着く。
「ありがとう存じます。そのご様子だと、お茶会は大いに楽しめたのですね。」
「ええ。姉様たちはみんなお優しかったし、美味しいお菓子も頂いたの。すごく刺激的でしたわ。」
上機嫌で、侍女が淹れてくれた茶に口を付ける第八。ジンツァイも茶を一口すすり、柔らかい目で第八を見る。
「シャオジェ、どのようなお話をしたのか、教えてくださいませ。」
「もちろん。イー姉様は、わたくしたちは皆、同じ家の姉妹だと言って下さったわ。」
「第一シャオジェ……ラン様のお子様ね。」
ジンツァイの相槌に少し不思議そうな顔をした第八だが、自分の知ってる人物を関連付けてるのだろうなくらいで流し、興奮した様子で話し続ける。
ランは現在、皇位継承兼第一位である、皇昧だ。
「アル姉様は美しい装飾品がお好きなのですって、今度何か贈り物を考えてみようかしら。」
「ムーダン様のお子様は、美しいものがお好きなのね。その時は、ぜひ母にも一緒に選ばせてくださいな。」
ジンツァイが思い浮かべるのは、皇位継承兼第二位の皇昧。
「サン姉様は植物がお好きなの。今度押し花の作り方を教えていただくのよ。スー姉様は盤上遊戯がお好きだそうだから、ルールを覚えないと!」
「フォンロン様のお子様たちね。そう、楽しみがあるのは良いことだわ。」
フォンロンは女兄弟が多い中、唯一の皇帝の弟だ。たまに男同士、気の置けない話をしているという。皇位継承権は第三位。
「ウー姉様は、本がお好きなのですって。読書会をしましょうと、誘われているの。ウー姉様に読んでもらうばかりでは申し訳ないから、わたくしも早く文字を覚えなくては。」
「お勉強をする気になるのは良いことですね。そう、チャーファ様のお子様は社交的なのね。」
チャーファは皇帝の兄弟では末っ子で、継承権第四位の皇昧である。
「リォウ姉様は、わたくしが少し失敗してしまった時、真っ先に手を差し伸べてくださいました。チー姉様は物静かで、まだよくわかりません。」
「第一妃のお子様は利発な方でらっしゃるのね。第二妃のお子様が物静か……少し想像しにくいですね。」
第六と第七の父は、第八と同じ皇帝陛下だが、母がそれぞれ違う。
長い間子が出来なかったため第三妃まで増やしたが、皇帝は半ば諦めて第一シャオジェへの英才教育に力を入れていた。
『一族が絶えなければ、それでいい。』
懐妊する前、悩みながらそう言っていた皇帝陛下の横顔を、ジンツァイは昨日のことのように思い出せる。
ホワンロン家としては、一族が絶えなければお役目は果たせる。
だが一族を想えばこそ、子が出来ないことに苦悩する。
そんな姿だった。
現時点で、第一シャオジェが皇位継承兼第五位、以下シャオジェの番号順に皇位継承権が割り振られている。
そして皇帝の親や配偶者より、皇位継承者の方が立場は上だ。それぞれの立場におけるそれなりの配慮は受けるが、皇室での序列はあくまで皇帝、皇位継承者、それ以外となる。
ジンツァイがずっと控えた言葉遣いなのは、彼女の性格によるものというより、立場として当たり前のことをしているのだ。
話しきって少し落ち着いた第八は、居心地悪そうにジンツァイを見る。
「あの……ごめんなさい、皆様の前で転んでしまったの……。姉様たちは優しくしてくれたけど……大丈夫かしら……?」
しゅんと肩を落とす第八に、ジンツァイは微笑む。
「シャオジェがたくさんお稽古をしていらしたのは知っています。わたくしも出来る限りのことを教えさせていただきました。けれど、何事にも予期せぬ出来事というものはあるのです。」
失礼いたしますと断り、第八の頭を撫でる。
「第八シャオジェとしての立場をわきまえ、出しゃばらず、素直にお過ごしあそばせ。そうすれば、きっと皆様に可愛がっていただけますよ。」
頭を撫でられて、嬉しそうに笑う第八。
ジンツァイは側付きの侍女に聞いて、第八がパイの餡について言及したことを知っているが、第八はそれが出しゃばったと思っていない様子だ。
これからどう導いたものか、とジンツァイは内心溜め息をついた。




