07
いかにも怪しい魔法使いっぽいおばあちゃんの露店でミリアのプレゼントとして買った首飾り。
早速ミリアは首飾りを付けてみた。
「これは…私に似合っているでしょうか?」
(いや、そっちかよっ! 似合っているけれども! 何か呪われてる系かもとか思ってビックリしたわ!)
「も、勿論、似合っているさ! じゃあ、戻ろうか」
ミリアのプレゼントを買うと言う目的を達成したので屋敷に戻る事にした。
数日後。
ここ数日トウコは例によってギルド依頼のモンスター討伐や、依頼が無い時は適当に強そうなモンスターを狩ってお金稼ぎをしていた。
そんなある日、ミリアから話があると言われた。
それはギルドの指名依頼で、ここから10日ほどかかる街の近辺に出没するモンスター討伐で1カ月近く屋敷を離れるとの事だった。
「なっ、何ぃーっ!!」
(何か心配だ…俺もついていくしかないな)
「俺も一緒に行くっ! 異論は認めない!」
「お姉様! 宜しいのですか!」
本当はミリアもトウコと一緒に行きたかったが気を使って一人で行こうとしていた。
トウコが頷くとミリアは非常に喜び、トウコを抱きしめた。
ミリアの胸にトウコの顔が埋まっている。
「ちょ、や、柔らかい。何これっ!」
トウコはしばしの間ミリアの胸の柔らかさを堪能したのだった。
その後、準備を済ませ、街に行き馬車に乗って目的の街に向かった。
例によってタクシー的な馬車を利用して近道を通過しているので道中は結構な頻度でモンスターが出没した。
しかしそれはトウコにとっては願っても無い事で資金稼ぎには好都合だった。
数日後、目的の街に到着。
モンスター討伐は明日にして今日はゆっくりと休む事にした。
次の日、ギルドでモンスターの情報を聞き、早速モンスターが出没する場所へ向かった。
討伐対象のモンスターは稀に発生する魔力持ちの大型モンスター。
魔法に対する抵抗力が高く、並みの魔法少女では数人がかりでもダメージを与える事が困難。
これはミリアの案件だ。
数時間後、現場に到着。
「お~、アレだな~、えっ?何あれ?デカいカンガルー? つーか、誰か戦っとるしっ!」
モンスターと魔法少女が戦っていた。
「あれはっ!」
ミリアは戦っている魔法少女に心当たりがあるようだった。
「えっ、誰?知り合い?じゃあ、あいつに…」
「お姉様っ! あの者を殺してきます!」
言うや否や、ミリアは戦っている魔法少女に向かって行った。
「おい、ダメだって! ちょっと…モンスターどうすんだよー」
ミリアにトウコの声は届かなかった。
「アレはツバキじゃな」
ポン太は戦っている魔法少女の名前を言い出した。
「何だお前突然、つーかお前いたんだな。すっかり忘れてたわ」
「ずっとおるじゃろっ! まあよい。あやつはツバキ。もう1人の最強と言われている魔法少女じゃ」
最強と言われている魔法少女は2人存在する。
1人はミリア。身体強化系の魔法を得意とし、肉弾戦闘を行う武闘派魔法少女。
加護はマジックシールド。殆どの攻撃魔法を無効化する。
戦う姿から闘神のミリアとも呼ばれている。
もう一人はツバキ。雷魔法を得意とする王道の攻撃魔法型の魔法少女。
加護はフィジカルシールド。殆どの物理攻撃を無効化する。
雷魔法を使う姿から雷神のツバキとも呼ばれている。
この2人は得意魔法と相手の加護との相性が最悪でお互いの攻撃がほぼ通用しない。
過去に何度か戦った事はあるが決着はついていないのである。
「いやそれ、今回も決着付かんだろ…何でミリアは行っちゃったのかな…」
「うーむ…モンスターをガン無視して戦いをおっぱじめたけど、やっぱ勝負付かんなこれ」
「なあ、ミリアは魔法食らってもピンピンしてるけど、何かアレ見てると俺が食らっても平気に思えるんだが?」
「貴様が食らったら即死じゃ」
この世界でトウコは魔法少女として認識されてはいるが、この世界の神に選ばれた魔法少女では無い。
魔法少女は神によって身体強化、魔力アップ、魔法抵抗など様々な恩恵を受けているがトウコにはそれが無い。
「じゃあ、俺は奴等に関わらない様にして、あの放置されてるモンスターでも討伐しとくとするか」
トウコはモンスターに近づいた。
「ほう、近くで見るとデカくて堅そうだな」
モンスターはいきなり尻尾でトウコに攻撃をしてきた。
しかし、トウコはそれを間一髪でかわした。
「うわっ、危ねぇー! アレまともに食らったらヤバかったな」
モンスターは更に右、左とパンチを繰り出してから尻尾でも攻撃をしてきた。
「うわっうわっうわっ、早ええーっ! 何だこいつ!」
これもトウコは何とか、かわす事に成功した。
今まで資金稼ぎの為に討伐してきたモンスターより別格に強い敵だった。
(見えてはいるが、流石に体が追い付かんな、しゃーなしか…)
トウコはこのままでは流石に勝てないと思い、身に付けていた腕輪を外した。
トウコが付けていた腕輪は以前に道具屋で購入した身体に負荷をかける腕輪。
これを身に付けると全身に重りを付けたように体が重くなる魔道具で日ごろの鍛錬用に常に身に付けていたのだった。
「まさかモンスター如きでこれを外す事になるとは…俺もまだまだだな…」
トウコは負荷が無くなった体を慣らすため軽く運動を始めた。
トウコが運動をしてる最中にモンスターは先程の連続攻撃を仕掛けて来た。
モンスターが繰り出す左右のパンチを掌打で弾き尻尾攻撃が来る前に懐に入り強烈な掌打をモンスターに叩き込んだ。
モンスターは悲鳴に似たような鳴き声を発しながら苦しんでるように見える。
「デカいだけあって流石にタフだな。んじゃ本気で倒すとするか」
トウコはすかさずモンスターに接近しモンスターの胸部に手を当てて力を発した。
「はっ!」
トウコはモンスターから離れた。
「終わりだ」
トウコはモンスターの内臓を破壊した。
モンスターは鳴き声を出す事も無くその場に倒れた。
モンスターをボックスに格納しミリア達の様子を見る事にした。
「貴様、本当に生身の人間か? あのモンスターは魔法少女数人がかりでも倒せん強敵じゃぞ」
「生身だから死んで転生したんだろがっ! そんな事よりいい加減あいつら止めないと。しかし、俺が魔法を食らったら死ぬし…」
「マジックレジストを使えばいいじゃろ」
ポン太はこの期に及んで魔法を使えば良いと言い出した。
「はあ?マジックレジストってサポートキャラの魔法だよな? えっ、お前…まさか…」
「うむ」
ゲームのサポートキャラには3つまで魔法を持たせる事が出来た。
サポートキャラ用の魔法は数十種類存在し好きな時に魔法を入れ替え可能。
「うむじゃねーよっ!! 何で俺が魔法使えないのにオプションのお前が使えんだよ! つーか使えるならもっと先に言えっ!」
「今まで魔法を使う場面は無かったじゃろ」
「山ほどあったわっ!!!」
(しかし、サポートキャラの魔法が使えるなら状況は一変する。とりあえずは今適切な魔法をポン太にセットして…)
「おい、どうやって魔法をセットするのよ?」
「そんな事は出来ぬ。使えるのは既にセットされている魔法だけじゃ」
「嘘だろ、おい…」
魔法の入れ替えが出来ない事はショックだったトウコだが今は2人を止める事を優先する事にした。
「おい、マジックレジストは普通に使えるんだよな? 普通にだぞっ!」
マジックレジストはトウコに降りかかる全ての魔法を1分間無効にするサポートキャラ専用の魔法。
攻撃、状態異常は勿論の事、味方の補助や回復魔法までも無効にしてしまう為、使い所を選ぶ魔法である。
サポートキャラの魔法には全てインターバルが存在し、一度魔法を使うと一定時間経たなければ再度使用する事は出来ない。
そしてマジックレジストのインターバルは5分。
「無論じゃ」
(観察してて分かったが、あのツバキとか言う奴の動作で雷魔法の発動タイミングは見切った。問題は物理攻撃が無効な相手をどうやって止めるかだが…最悪、多少痛い思いをさせる事になるかもしれんな)
トウコは決心し、2人が対峙している間に立った。
「お、お姉様!」
ミリアはトウコが間に入って来たので驚いてる様子。
「お姉様だと?」
ツバキはミリアがトウコにお姉様と言った事を不思議に思っている。
自分と互角に戦う相手に姉がいるとは思ってもいなかったからである。
「2人共、もう止めないか? 勝負つかないし引け訳って事で」
「お姉様! 納得出来ません!」
ミリアは納得していない様子だ。
以前トウコがミリアのモンスターを横取りした時もトウコは命を狙われていた。
「ミリア、ここまでだ。用事も済んだし帰るぞ。あんたも今日は引いてくれ。俺達もう帰るし」
ミリアは渋々返事をしたがツバキは納得しなかった。
「私は戦いを挑まれたから受けただけの事。しかしミリアが姉と呼ぶあなたに興味がわきました」
「えっ…何となく分かるけど、興味って?」
「ミリアの姉って事はミリアより強いって事ですよね? ミリアとは加護の相性で決着がつきませんが、あなたならどうですか?」
ツバキは加護で魔法が無効化されない相手なら勝つ自信がある様子。
ミリアとは互角でもミリアより強い姉に勝てば有利になる。そうツバキは判断した。
「やっぱりかっ!」