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トウコはエリーザの鬱憤晴らしの為にサイクロプスと戦う羽目となった。
「ミ、ミリア殿、いくら姉上様でも流石にアレを1人で相手をするのは…我々も加勢した方が…」
ツバキは巨大なサイクロプスを見てトウコが勝てるか心配になっていた。
「お姉様なら心配には及びませんわ。私は一度お姉様と戦った事がありますが、私の攻撃は一切通じず一方的に殺されかけましたから!」
何故か自分の敗北を誇らしげに語るミリアだった。
そして現在、トウコはサイクロプスと対峙している。
「何故俺だけ特技を披露せねばならんのだ…しかもサイクロプスって…無茶苦茶だろ…」
「サイクロプスは今まで貴様が戦ってきたどのモンスターよりも強いじゃろ。安心して死ぬが良い」
「いやいや、俺が死んだらお前も消滅するからなっ!」
「ワシは元々無かった存在じゃ、消滅した所で問題は無い」
(何だこいつ、えらく淡白だな…)
しかし、トウコは若干ワクワクしている気持ちもあった。それはここ最近、全力で戦う機会が無かったからだ。
お金稼ぎの為に討伐していたモンスターは小物ばかり。
魔法少女に絡まれた時もトウコが戦う前にミリアとツバキが勝手に暴れまくってトウコの出番が無かったからである。
(しかし…こいつ、一向にかかってくる気配が無いな。しゃーない、まずは一発入れてみるか)
トウコは再度身構え攻撃しようとした時に声が聞こえてきた。
「オレ、オマエ、コロシタクナイ」
サイクロプスは突然しゃべりだした。
「いや、俺も殺されたくねーよっ! ってお前しゃべれるのかよっ!」
(くっ、こいつ…俺より強い事前提かよ。それはそれでちょっとムカツクな)
「オマエ、ニゲロ」
サイクロプスはトウコを殺したくない為、トウコに逃げる様に言い出した。
しかし今はコンテストの真っ最中な上、結界が張られているので逃げる事は不可能。
「そうしたいのは山々だが、決着が着かないと結界が解除されないんだよなあ…」
「ならばサイクロプスに負けた演技をさせれば良いじゃろ」
「いやいや、サイクロプスだよ?モンスターだよ?馬鹿なの?モンスターに演技とか出来る訳ないだろっ!」
(とは言え、このままじゃアレだし、ダメ元で聞くだけ聞いてみるか…)
「えーっと、サイクロプス君。俺が攻撃するフリをするから、倒れてやられたフリとか…出来る?」
「ワカッタ」
「いや、分かったのかよ! 負けた演技とか出来るのかよっ!」
(本当に出来るのかなあ…)
トウコはモンスターが演技をする事に不安はあったが行動を開始する事にした。
トウコはサイクロプスに作戦開始の合図を送るとサイクロプスに近づきジャンプをしてボディーにパンチを打ったフリをした。
すると、サイクロプスは軽く悲鳴に似た声を発しその場に倒れたのだった。
「うまっ! 演技うまっ!」
トウコは予想以上のサイクロプスの演技に驚いた。
一方その頃、エリーザはステージが見える部屋でトウコを見ていた。
「ええええええっ!!!」
エリーザはトウコがサイクロプスを一撃で倒した事に相当驚いている。
「ま、まさかサイクロプスを一撃で倒してしまうとは…こ、これはミリア殿と互角かそれ以上かもしれませぬぞ…」
委員長も相当驚いていた。
「ぐぬぬぬぬぅ…至急Aランク以上の魔法少女を集めて頂戴! こうなったらコンテスト終了後に始末しますわっ!」
エリーザは本格的にトウコを亡き者にしようと行動を開始したのだった。
そして、トウコがサイクロプスを一撃で倒したと観客の目には映っていた。
観客全員が驚きの余り静まり返っている。
「何か観客が皆、引いてるな」
「それはそうじゃろ。サイクロプスを一撃で倒したのを目の当たりにした正常な反応じゃ」
サイクロプスを倒した事で結界は解除され、やられたフリをして倒れているサイクロプスを魔法少女数人で何処かへ連れて行った。
(何かサイクロプスが可哀相だな…)
そうこうしている内に出場者全員の紹介が終了した。
暫くして投票結果の集計が終了し出場者全員がステージに並んだ。
(結局、特技的なアレを披露したのは俺だけかよっ!)
「それでは皆さん、お待たせ致しました! 今回の優勝者は…」
(ふふっ。今年の優勝も私で決まりですわっ!)
エリーザは圧倒的な支持を得て過去3回連続優勝している。それだけに自信満々だった。
「初出場のトウコさんに決定いたしました!」
(なっ、ななななんですってーっ!!! 許さない…絶対に許さないっ!)
エリーザのトウコに対する殺意は極限にまで達した。
トウコが優勝となるきっかけはサイクロプスを倒した事。
その姿を見て多くの観客が心を奪われ票を獲得したのである。
エリーザの策略は裏目に出てトウコの優勝の手助けをした形になったのだった。
数時間後、トウコの賞金授与式やインタビュー等が終了しミリアとツバキの3人で帰ろうとした時、何者かに呼び止められた。
その者曰く、ある貴族がパーティーを開催するので出席して欲しいとの事だった。
トウコは断ったが、しつこく食い下がってきたので渋々行く事にした。
案内された所は広々とした何も無い地下室で、パーティーと呼ぶには程遠い場所だった。
「ふっふっふ。よく来たわね。さあ、この者達の皆殺しパーティーの開催よっ!」
トウコ達を呼び出したエリーザは笑いながら言い放った。
すると20人以上の魔法少女がゾロゾロと現れた。
それに対しトウコは呆れていた。
(何なんだ、こいつ…)
「はーっはっはっは。この空間では魔法は使えない。つまり! 魔法少女の貴方達は無力! 大人しく殺されなさい!」
エリーザは高笑いをしながら、とんでもない事を言い出した。
(いや、お前等も魔法少女だろ…)
トウコは元々魔法が使えない。
ミリアは戦闘スタイルが肉弾戦闘系。
そしてツバキは加護で殆どの物理攻撃を無効化できる。
魔法が使えないと言うこの状況は逆に相手の方が不利なのではとトウコは思っていた。
「さあ、皆さん、パーティーの開始です!」
エリーザが皆殺しパーティー開催の宣言を行ったら、殆どの魔法少女が武器を取り出した。
(成程…こいつら全員物理攻撃系だから魔法を封印したのか、まあ、こいつら弱そうだけど久しぶりに…)
ここ最近は戦う状況になってもミリアとツバキがトウコよりも先に暴れてしまうのでトウコはもっぱらフォロー役になっていた。
しかし、今回は相手が大人数なので久しぶりにトウコは出番があると思っていた矢先、例によってミリアとツバキが先に暴れていた。
(こいつら、手を出すの早すぎだろ…)
今回もトウコの出番は無く、高みの見物をしていたエリーザ以外、敵は全滅していた。
「なっ、ななななな、なんですってーっ!!!」
予定外の事にエリーザは相当驚いている。
「こ、この卑怯者! 私と正々堂々一対一で勝負しなさいっ!」
(よく言うな、こいつ…)
「いいでしょう。一撃で終わらせてあげます」
エリーザのタイマン勝負にミリアが名乗りを上げた。
「い、いえ、貴方達ではなく…そこの奥で震えているトウコ! 貴方と勝負よ!」
エリーザはミリアに対して弱気だが、トウコに対しては強気な態度を取っている。
「あ、貴方如きが私のお姉様と?」
ミリアは怒りを堪えてる様子だ。
「えっ!? お姉様? えっ? えっ?」
エリーザはトウコがミリアの姉と聞かされ混乱している。
更にトウコがサイクロプスを倒したのは魔法を使用せずに素手で殴り飛ばしたので魔法を封印しても無駄だとミリアは言った。
(まあ、実際には倒してないけど、それくらいのハッタリをかました方がいいか…)
エリーザは暫しの沈黙後、震えながら口を開いた。
「も、申し訳ありませんでしたー」
エリーザは深々と土下座をした。
そして、聞いてもいないのにサイクロプスの一件についてもペラペラとしゃべり出し謝罪をした。
(こいつは…)
「お姉様、この者を即刻処刑すべきです!」
「姉上様、私もミリア殿に賛成で御座います」
(うーむ…はっ! サイクロプス…)
トウコは2人を宥め(なだめ)、気になっていたサイクロプスの所までエリーザに案内させた。
「よっ、サイクロプス君。さっきぶりだな」
「オマエ、オレヲツカマエタ、マホウショウジョノ、ナカマカ」
「えっ、いや、違う違う。助けに来たんだ」
トウコはサイクロプスに事情を説明し、元居た場所に帰す事を約束した。
そしてエリーザには丁重に送り届ける様に命令したのだった。
「お前、次に何か問題を起こしたら即座に処刑な」
トウコはエリーザに釘を刺しその場を後にした。
それから数日後、賞金も入りトウコは毎日鍛錬に明け暮れていた。
トウコとミリアとツバキが食事をしていた時、メイドが慌てて部屋に入って来た。
「た、大変で御座います! ま、街で、と、トウコ様の…」
「なにーっ! 俺がどうしたんだーっ!」