連邦への道
七か国による地域共同体が発足してから、一年が過ぎた。
共同市場は順調に拡大していた。関税は下がり、国境での手続きも簡略化された。企業は国境を越えて活動し、人も仕事や勉強のために自由に移動するようになった。道路、港、電力、通信も共同で整備され、七つの国は少しずつ一つの地域として動き始めていた。
だが、規模が大きくなるにつれて、新しい問題も出てきた。
「各国の制度が違いすぎます」
会議室で、エリアスが報告する。
「経済政策だけではありません。エネルギー、金融、インフラ、災害対応。重要な問題を、それぞれの国が別々に判断しています」
ヴィクターは資料を見る。
「共同で決めた方がいいものが増えている」
「はい」
「なら、仕組みを変える」
七か国の代表が集まった。
ヴィクターは、静かに口を開いた。
「我々は、もう単なる貿易相手ではありません。同じ市場で働き、同じ道路を使い、同じ電力網につながっている。人も企業も国境を越えて動いている」
「それなのに、重要な問題だけは国ごとに別々に決めている。このままでは限界があります」
一人の代表が聞いた。
「では、どうする?」
「連邦を検討します」
会議室が静かになった。
「国をなくすわけではありません。各国の政府も、議会も、文化も残します。ただし、全員に関係する問題については共同で決める」
共同市場。外交。安全保障。広域インフラ。エネルギー。そして、域内の人の移動。
「一つの国になるのではない。国が残ったまま、一つの国力を持つ」
反対する代表もいた。
「主権を失うことにならないか?」
「各国の意思が無視されるのでは?」
ヴィクターは首を横に振った。
「だから、共同で決める範囲を最初に決めます。教育、文化、地域行政、国内の法律まで一つにする必要はない。一緒にやった方が強いものだけを、一緒にやる」
時間をかけて協議が続いた。
そして数か月後。
七か国は、連邦化に向けた基本合意を発表した。
まだ正式な連邦ではない。それぞれの国で議会の承認も必要になる。
それでも、方向は決まった。
世界は大きく反応した。
『七か国、連邦化へ』
『新たな巨大勢力誕生の可能性』
『アメリカ、中国に続く第三勢力か』
アメリカ政府も、中国政府も、この動きを慎重に見始めた。
ヴィクターはニュースを見ながら、静かに言った。
「まだ始まったばかりだ」
盟友が聞く。
「連邦になったら?」
「その先がある」
「何をする?」
「まず、普通に暮らせる地域を作る。戦争をしない。人が仕事を選べる。企業が自由に活動できる。学生が国境を越えて学べる」
ヴィクターは地図を見る。
「それができてから、この地域を世界の中で一つの力にする」
その頃、日本では黒崎がいつもの庭にいた。
美咲が新聞を持ってくる。
「連邦になるかもしれないって」
「そうか」
「かなり大きな話だよ」
黒崎は新聞を見る。
「市場が大きくなるな」
「それだけ?」
「ああ」
黒崎は土をならしながら答えた。
「国が一つになることより、人と金が自由に動く方が企業には重要だ」
美咲は少し笑った。
「本当に政治には興味ないんだね」
「ない」
黒崎は庭を見る。
「企業が動けば、それでいい」
その言葉の裏で、黒崎の資本はすでにこの地域にも入り始めていた。
東方カンパニーの関連企業。インフラ。エネルギー。通信。物流。金融。
黒崎自身は、そのすべてを把握していない。
それでも、資本は静かに地域へ広がっていた。
ヴィクターは、人をつないでいた。
黒崎は、資本をつないでいた。
一人は国と国をつなぎ、もう一人は企業と企業をつないでいく。
その二つの流れが、やがて同じ地域を大きく変えていくことになる。
そして。
七つの国は。
もう一つの国のように動き始めていた。




