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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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見えない資本

東方カンパニー。


 社名が変わってから。


 会社の動きは。


 さらに速くなった。


 新しい工場。


 新しい研究所。


 新しい投資。


 世界各地で。


 次々と計画が進んでいく。


 だが。


 東方カンパニーだけが。


 動いているわけではなかった。


 日本。


 東京。


 ある金融機関の会議室。


「この会社です」


 担当者が。


 一枚の資料を置いた。


 そこには。


 複数の企業名が並んでいる。


「半導体」


「AI」


「宇宙」


「防衛」


「素材」


「物流」


 どれも。


 これから成長すると。


 見込まれている企業だった。


「共通点は?」


 上司が聞く。


 担当者は。


 次のページを開いた。


「株主です」


「誰だ?」


「投資会社『黒崎』です」


 部屋が。


 少し静かになった。


「東方カンパニーも?」


「筆頭株主です」


「他には?」


「かなりあります」


 担当者は。


 資料をめくる。


「海外企業も含めると。


 さらに増えます」


「土地は?」


「それも取得しています」


「どのくらい?」


「全体の規模では。


 まだ巨大というほどではありません」


「なら。


 問題ないだろう」


「ただ……」


 担当者が。


 言葉を止める。


「何だ?」


「取得している場所が。


 少し特殊です」


「どういう意味だ?」


「港の周辺。


 将来の工業団地候補地。


 資源開発予定地域。


 新しい交通網の予定地」


「つまり?」


「今は。


 それほど価値がない土地です」


 担当者は。


 地図を指した。


「でも。


 十年後には。


 価値が変わる可能性があります」


 上司が。


 資料を見つめる。


「……先回りしているのか」


「そう考えるのが。


 一番近いと思います」


 誰も。


 すぐには答えなかった。


 投資会社「黒崎」。


 企業を買う。


 土地を買う。


 技術へ投資する。


 それだけなら。


 珍しくない。


 だが。


 同じ場所に。


 複数の投資が重なっている。


 企業。


 土地。


 インフラ。


 技術。


 その一つ一つは。


 小さく見える。


 しかし。


 地図の上で重ねると。


 一つの形が。


 見えてくる。


「誰が。


 この投資判断をしている?」


「黒崎恒一です」


「本人が?」


「最終判断には。


 関わっているようです」


「……そうか」


 上司は。


 資料を閉じた。


「しばらく。


 動きを見ておけ」


「はい」


 同じ頃。


 日本の別の場所では。


 黒崎が。


 いつものように。


 資料を見ていた。


 美咲が。


 向かいに座っている。


「また土地?」


「ああ」


「今度は?」


「港の近く」


「何に使うの?」


「まだ分からない」


 美咲が。


 資料を見る。


「まだ分からないのに買うの?」


「必要になるかもしれない」


「それ。


 あなたのいつものやつね」


 黒崎は。


 少し笑った。


「使う人間が。


 あとから現れる」


「それを先に買っておく」


「ああ」


 美咲は。


 ため息をついた。


「本当に。


 気が長い投資だね」


「急ぐ必要がないからな」


 黒崎は。


 資料を閉じた。


 その日の午後。


 ヴィクターの国。


 東方カンパニーのプラントでは。


 新しい施設の建設が始まっていた。


「ここには何ができる?」


 ヴィクターが。


 担当者に聞く。


「研究施設です」


「何の研究だ?」


「エネルギー関連が中心ですが。


 半導体。


 AI。


 素材技術も扱います」


 ヴィクターは。


 少し驚いた。


「エネルギー会社じゃなかったのか?」


 担当者が。


 笑う。


「社名が変わった理由が。


 そこにあります」


「なるほど」


 ヴィクターは。


 建設現場を見る。


 若い技術者が。


 図面を持って歩いている。


 外国から来た研究者もいる。


 現地の技術者もいる。


 国境を越えて。


 人間が集まっていた。


 戦争中。


 この国に集まっていたのは。


 兵士だった。


 今。


 集まっているのは。


 技術者だった。


「変わったな」


 ヴィクターが。


 呟く。


 盟友が。


 隣に立つ。


「ああ」


「昔は。


 武器が必要だった」


「今は?」


 ヴィクターは。


 研究施設を見る。


「知識だな」


 その言葉を。


 盟友は。


 静かに聞いていた。


 その夜。


 政府の会議。


「東方カンパニーから。


 新しい投資計画が届いています」


 担当者が。


 資料を配る。


「研究施設。


 新しい発電設備。


 道路の拡張。


 物流拠点」


 ヴィクターは。


 資料を見る。


「全部。


 民間投資なのか?」


「はい」


「政府が。


 金を出すわけではない?」


「一部の公共事業を除けば。


 企業側の投資です」


 ヴィクターは。


 しばらく黙った。


「それなら。


 我々がやるべきことは?」


 担当者が。


 答える。


「制度を整えることです」


「企業が投資しやすい環境を作る」


「同時に。


 国として。


 依存しすぎないようにする」


 ヴィクターは。


 頷いた。


「その通りだ」


 民間企業に。


 国を任せるわけにはいかない。


 だが。


 民間の力を。


 利用しない理由もない。


「国が道を作る」


「企業が産業を作る」


「人が。


 その中で働く」


 ヴィクターは。


 資料を閉じた。


「それでいい」


 その頃。


 日本。


 黒崎の自宅。


 夜になっても。


 黒崎は。


 まだ資料を見ていた。


 美咲が。


 コーヒーを置く。


「まだやってるの?」


「もう少し」


「何を見てるの?」


「世界地図」


「また?」


 黒崎は。


 画面を見た。


 日本。


 アジア。


 ヨーロッパ。


 中東。


 アメリカ。


 そして。


 その他の地域。


 いくつもの場所に。


 小さな印がある。


 土地。


 企業。


 研究施設。


 港。


 資源。


「少しずつだな」


「何が?」


「繋がってきた」


 美咲は。


 画面を見る。


 だが。


 黒崎ほどには。


 その全体像を。


 見ていなかった。


 黒崎自身も。


 まだ。


 それを一つの計画だとは。


 考えていない。


 ただ。


 将来必要になるものを。


 一つずつ。


 買っているだけだった。


 それでも。


 結果として。


 世界各地に。


 黒崎の資本が。


 入り始めていた。


 企業。


 土地。


 技術。


 インフラ。


 その一つ一つが。


 小さな点だった。


 そして。


 点は。


 少しずつ。


 増えていた。


 まだ。


 誰も。


 それを。


 一つの巨大な力とは。


 呼ばなかった。


 しかし。


 世界の一部では。


 すでに。


 黒崎の名前を。


 注意深く見る人間が。


 現れ始めていた。


 黒崎自身は。


 そのことを。


 まだ知らない。


 ただ。


 次の投資先を。


 探していた。

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