隣人
最初の取引から。
さらに。
一か月が過ぎた。
国境を越える車は。
少しずつ。
増えていた。
食料。
医薬品。
機械部品。
そして。
エネルギー関連の資材。
まだ。
大きな貿易ではない。
それでも。
以前とは。
明らかに違っていた。
「今月の取引量です」
エリアスが。
資料を差し出す。
ヴィクターは。
目を通す。
「増えてるな」
「はい」
「相手側も?」
「増えています」
盟友が。
資料を覗き込む。
「戦争をしていた国同士とは。
思えないな」
ヴィクターは。
少し笑った。
「まだ。
そう言うには早い」
「そうか?」
「国境の向こうには。
まだ戦争を覚えている人間がいる」
盟友は。
黙った。
「だから。
急がない」
ヴィクターは。
資料を閉じた。
そんな中。
一つの報告が入った。
「(周辺国)から。
使者が来ています」
「何の用だ?」
「貿易について。
話したいそうです」
ヴィクターは。
エリアスを見る。
「どう思う?」
「悪くありません」
エリアスが。
答える。
「ただし。
相手は。
こちらを試している可能性があります」
「試す?」
「革命後の国が。
これから何をするのか」
「軍事的に動くのか。
経済を開くのか。
それを見ているのでしょう」
ヴィクターは。
少し考えた。
「会おう」
翌日。
政府庁舎。
ヴィクターたちは。
(周辺国)の使者を迎えた。
「お会いできて光栄です」
「こちらこそ」
握手を交わす。
今度の相手は。
戦争をした国ではない。
それでも。
警戒は感じられた。
「貴国が。
経済を開こうとしていると。
聞いています」
「はい」
「我々とも。
取引を?」
「必要なものがあるなら」
ヴィクターは。
答えた。
「こちらも。
必要なものがあります」
「何でしょう?」
「安定です」
使者が。
少し黙る。
「我々は。
戦争を広げるつもりはありません」
ヴィクターが。
続ける。
「国境を守る」
「国内を安定させる」
「その上で。
貿易を増やしたい」
使者が。
ヴィクターを見る。
「軍事力については?」
盟友が。
わずかに身を乗り出す。
だが。
ヴィクターは。
落ち着いて答えた。
「必要なだけ持ちます」
「攻めるためでは?」
「守るためです」
短い答えだった。
使者は。
しばらくヴィクターを見つめた。
「……なるほど」
エリアスが。
資料を開く。
「こちらからも。
一つ提案があります」
「何でしょう?」
「まず。
貿易協定を結びませんか」
「軍事協定ではなく?」
「はい」
「食料。
工業製品。
医薬品。
エネルギー。
必要なものから始める」
使者は。
資料を見る。
「小さく始める?」
「そうです」
エリアスが。
答える。
「最初から。
大きな約束をする必要はありません」
ヴィクターも。
頷いた。
「信頼は。
書類だけでは作れない」
「実際に。
取引をして。
約束を守る」
「その繰り返しです」
使者は。
しばらく考えた。
そして。
資料を閉じた。
「分かりました」
「我々も。
その方がいいと思います」
会談が。
終わった。
その日の夜。
三人は。
政府庁舎の会議室に残っていた。
「また。
一つ増えたな」
盟友が言う。
「ああ」
ヴィクターが。
答える。
「でも。
まだ小さい」
エリアスが。
資料を整理する。
「小さいから。
いいんです」
「最初から。
大きくしようとすると。
相手も警戒します」
ヴィクターは。
地図を見る。
自分たちの国。
隣国。
そして。
その周りの国々。
一つの国と。
関係を作る。
また一つ。
別の国とも。
関係を作る。
それが。
少しずつ。
線になっていく。
「……隣人か」
ヴィクターが。
呟いた。
「何です?」
エリアスが。
聞く。
「今まで。
俺たちは。
国境の向こうを。
敵か味方かでしか。
見てなかった」
ヴィクターは。
地図を見る。
「でも。
本当は。
隣に住んでるだけなんだ」
盟友が。
笑った。
「簡単な話じゃないな」
「だから。
時間がかかる」
ヴィクターが。
答える。
その頃。
別の場所では。
最初の取引を終えた輸送車が。
帰路についていた。
荷台は。
空になっている。
代わりに。
向こうの国で作られた商品を。
積んでいる。
運転手は。
何も知らない。
ただ。
仕事をしているだけだった。
だが。
その一台が。
国境を越えるたびに。
両国の関係は。
少しずつ。
変わっていく。
ヴィクターは。
地図を畳んだ。
「次も。
同じようにやろう」
エリアスが。
頷く。
「はい」
盟友も。
立ち上がる。
「行こう」
三人は。
会議室を出た。
まだ。
大きな変化ではない。
まだ。
誰も。
歴史が動いているとは。
思っていない。
それでも。
小さな取引と。
小さな約束が。
少しずつ。
国の周りに。
新しい関係を作り始めていた。




