選択
朝。
B.A.が目を覚ますと、焚き火はすでに消えていた。
昨夜、周囲にいた少年たちの姿もない。
B.A.は身体を起こし、あたりを見渡した。
「……腹減った」
いつものことだった。
水を飲み、残っていたパンを少しだけ口に入れる。
そのときだった。
「B.A.!」
声がした。
振り返る。
昨日の少年だった。
「呼んでるぞ」
「誰が?」
「隊長」
B.A.は立ち上がった。
部隊の中央に、何人かの兵士が集まっていた。
テーブルの上には古い地図が広げられている。
「今日、町へ行く」
指揮官が言った。
「食料庫を確保する」
周囲から小さなどよめきが起こった。
食料。
B.A.は地図を見る。
町には大きな食料庫がある。
成功すれば、しばらく食料に困らない。
失敗すれば、部隊はさらに厳しくなる。
「正面から入る」
指揮官が地図を指差した。
B.A.は黙って地図を見ていた。
町の周囲。
道路。
建物。
そして裏側にある細い道。
「……こっち」
B.A.が指差した。
「何だ?」
「裏から行った方がいい」
指揮官がB.A.を見る。
「理由は?」
「正面は見張りが多い」
「裏は?」
「少ない」
「どうして分かる?」
B.A.は少し考えた。
「昨日、町から来た人を見た」
「それが?」
「みんな正面から来た」
指揮官が黙る。
「裏から出入りする人を見たことがない」
B.A.は続けた。
「だから、裏は見てないかもしれない」
周囲がざわつく。
指揮官は首を横に振った。
「お前はまだ15歳だ」
「分かってる」
「戦場を何度も経験したわけでもない」
「うん」
「作戦を決めるのは俺だ」
「分かった」
B.A.はそれ以上何も言わなかった。
部隊は正面から町へ向かう準備を始めた。
B.A.は自分の銃を持った。
そして歩き出す。
「B.A.」
声がした。
振り返る。
昨日の少年だった。
「どこ行くの?」
「裏」
「隊長の命令は?」
「正面」
「じゃあ、どうするの?」
B.A.は少し考えた。
「俺は裏から行く」
少年は迷わなかった。
「俺も行く」
「怖いぞ」
「知ってる」
「死ぬかもしれない」
少年は黙った。
そして頷いた。
「それでも行く」
その後ろから、もう一人。
「俺も」
さらに一人。
「俺も行く」
B.A.は三人を見る。
「……分かった」
それだけ言って歩き出した。
町の裏側。
B.A.たちは慎重に進んだ。
予想通り、人影は少ない。
見張りもいない。
食料庫の裏手まで来た。
B.A.は建物を見る。
鍵のかかった扉。
小さな窓。
周囲に人はいない。
「入れる」
少年が言った。
B.A.は頷いた。
しばらくして。
食料庫の扉が開いた。
中には大量の食料があった。
袋。
缶詰。
穀物。
そして、肉。
少年たちが目を輝かせる。
B.A.はその光景を見て、初めて笑った。
「これだけあれば……」
少年が聞く。
「何?」
「しばらく食える」
三人が笑った。
その頃、正面では銃声が響いていた。
部隊は敵と交戦していた。
指揮官は苦戦していた。
「裏はどうなっている!」
誰も答えられない。
その数十分後。
突然、敵の背後から銃声が響いた。
B.A.たちだった。
敵が混乱する。
部隊が一気に押し込む。
やがて銃声が止んだ。
夕方。
部隊は食料を積んで帰ってきた。
兵士たちは驚いていた。
「全部取ったのか?」
「ほとんどな」
B.A.が答える。
「お前が考えたのか?」
「うん」
兵士が笑う。
「15歳に負けたな」
指揮官は何も言わなかった。
ただ、B.A.を見る目だけが変わっていた。
夜。
食料が配られた。
B.A.は自分の皿を受け取った。
肉がある。
いつもより多い。
B.A.はしばらくそれを眺めた。
そして、年下の少年たちに声をかける。
「先に食え」
「B.A.は?」
「俺は後でいい」
「でも……」
「いいから」
少年たちは食べ始めた。
B.A.は少し離れたところに座った。
その姿を、指揮官が見ていた。
「……あいつは、兵士じゃないな」
隣の兵士が聞いた。
「じゃあ何だ?」
指揮官は答えなかった。
ただ、焚き火の向こうを見る。
B.A.の周りには、いつの間にか少年たちが集まっていた。
誰も命令されていない。
誰も呼ばれていない。
ただ、そこにいた。
夜。
焚き火が揺れている。
B.A.は眠っている。
その周囲に、三人の少年が座っていた。
誰もB.A.を起こさない。
ただ、彼のそばにいる。
少し離れた場所では、大人たちが食事をしている。
一人の兵士が、眠っている少年を見た。
「……B.A.」
黒い髪。
焚き火に照らされた蒼い瞳は、今は閉じられている。
その男は小さく笑った。
「変な名前だ」
誰にも名前を知られていなかった少年は、
その夜初めて、
誰かに必要とされていた。
一区切りつきました




