第2話:ノイズ越しの俺が、あり得ないことを言う
部屋に戻っても、銀色の装置は気味が悪かった。
テーブルの上に置いてあるだけなのに、視線を引き寄せてくる。
「……何なんだよ、これ」
ボタンも表示もない。
あるのは、側面の小さなダイヤルだけ。
意味は分からない。
数字なのか、ただの模様なのかも曖昧だ。
「ラジオ……じゃないよな」
翔は、深く考えずにダイヤルを回した。
理由は単純だ。
「……さっきのが幻じゃないなら、また何か起きるだろ」
カチリ。
――ザザッ。
「……っ!」
耳鳴りが走り、視界の端が歪む。
半透明のスクリーンが、空間に浮かび上がった。
「またかよ……」
映像はノイズ混じりだが、さっきより安定している。
そこに映っていたのは――
「……俺?」
画面の向こうの男は、競馬新聞を広げていた。
日付は、半月前。
『……あ?』
向こうの翔が、怪訝そうに眉をひそめる。
『何だよ、これ……』
「……それ、今日の新聞か?」
『当たり前だろ。
もうすぐ締め切りだぞ』
翔の喉が鳴る。
「……何レースだ?」
『第◯レース』
心臓が、嫌な音を立てる。
「……やめとけ」
『は?』
「今日、外す」
『縁起でもねぇこと言うな』
「いいから聞け」
翔は、新聞の紙面を思い出すように目を閉じた。
「◎番。
馬名は――◯◯◯◯」
『……?』
「そいつが来る。
他は切れ」
向こうの翔が、新聞を見直す。
『人気、全然ねぇぞ』
「だからだ」
『根拠は?』
「分からん。
でも……俺は見てる」
ノイズが、一瞬だけ強くなる。
『……全部?』
「……ああ」
一拍置いて、翔は言った。
「全部、そいつに突っ込め」
長い沈黙。
画面の向こうの翔が、深く息を吐いた。
『……外れたら、恨むからな』
「いいよ。それで」
――ザザッ。
ノイズが弾け、映像が乱れる。
『ちょ、待――』
声を残して、スクリーンは消えた。
部屋には、何事もなかったかのような静けさ。
翔は、その場に立ち尽くしていた。
「……俺、何してんだ」
胸の奥が、ざわつく。
期待と不安が、区別できない。
だが一つだけ確かなのは、
もう戻れない所まで、足を踏み入れたという感覚だった。




