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パラノイズ〜人生の選択〜  作者: ムーンキャット


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第一話 拾ってはいけないものを、拾った

現代日本が舞台のSF作品です。

ちょっと不穏で、少しコミカル。

「選択」が未来をどう変えるのか――そんな物語になります。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

北海道の朝は、静かすぎる。

 波の音と、遠くで鳴くカモメの声だけが、防波堤に残る。

 渋谷翔、二十八歳。

 職業はコンビニ店員。フリーター。

 釣りは、数少ない趣味であり、現実から少し距離を置くための逃げ場だった。

 平日の午前。

 誰もいない海に向かって、翔は黙って竿を振る。

「……今日も何も起きねぇな」

 そう呟いた直後だった。

 竿先が、わずかに沈む。

 魚の引きにしては軽く、しかし不自然だった。

「根掛かりか……?」

 リールを巻く。

 水面から引き上げられたのは、魚ではない。

 銀色の、古びたトランシーバーのような装置。

 アンテナは折れ、表面には見たことのない文字が刻まれている。

「……誰だよ、こんなの」

 拾い上げた瞬間。

 ――ザザッ。

 耳鳴りのようなノイズが走り、視界が一瞬だけ歪んだ。

「……え?」

 目の前に、現実に貼り付いたような半透明のスクリーンが浮かび上がる。

 テレビでもスマホでもない。

 それが自分にしか見えていないと、翔はなぜか確信した。

 スクリーンの中には、人影。

 激しいノイズで輪郭が揺れている。

 だが――その顔を見た瞬間、背中に冷たいものが走った。

「……俺?」

 映っているのは、自分だった。

 声も、表情も、間違いない。

『……聞こえるか?』

 ノイズ混じりの、少し疲れた声。

 翔自身の声。

「な、何だよこれ……」

 問いかけようとした、その時。

『それ……使うな』

 画面の中の“自分”が、低い声で言った。

『いいか……軽く考えるな……』

 言葉の途中で、ノイズが強まる。

『時間が……ズレる……』

「時間……?」

 聞き返す間もなく、

 ――ザザザッ。

 激しいノイズとともに、スクリーンは掻き消えた。

 防波堤には、元の静けさだけが戻る。

 まるで、何事もなかったかのように。

 翔は、しばらくその場から動けなかった。

 幻覚か。

 疲れか。

 それとも、見てはいけない何かだったのか。

 だが、手の中には確かに、銀色の装置が残っている。

 側面を見ると、小さなダイヤルが一つ。

 数字のような目盛りが刻まれていた。

「……時間?」

 その意味を考える前に、翔はふと気づく。

 胸の奥に、理由の分からない焦燥感が残っていることに。

 まるで――

 何かを、もう選んでしまった後のような感覚だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次回から、装置を使った影響が少しずつ見え始めます。

果たしてこれは「得」なのか、それとも……。

続きも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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