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一番近くにいるキミは  作者: 陽ノ下 咲


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14/21

第十四話 ずっと隣にいる理由(佐藤優真視点)

※優真視点の話です。


主な登場人物紹介


田中(たなか)彩乃あやの

二十四歳。主人公。庶務部。優しくてお人好し。過去のトラウマから恋愛には奥手。


鈴木(すずき)颯太(そうた)

二十四歳。彩乃の同期で営業部所属。仕事の出来るイケメン。彩乃の隣の部屋に住んでいる。彼女の浮気が原因で別れているところを彩乃に目撃される。


佐藤(さとう)優真(ゆうま)

二十四歳。綾乃の高校からの親友。なんでも話せて、頼りにしている存在。穏やかで誰に対しても優しい。職場は別。


山本(やまもと)莉子りこ

二十ニ歳。イケメン好きな彩乃の後輩社員。庶務部。小柄で美人。


 彩乃と初めてちゃんとした会話をしたのは、高二の校外学習の時だった。


 同じ班になって、隣を歩いて、何気ない会話をした。


 彼女の隣は不思議と居心地がよくて、もっと一緒にはなしていたくて、帰りのバスではさも偶然かを装って、隣の席に座って帰った。



 それが、始まりだった。



 気づけば彩乃のことを目で追っていた。


 彼女は、いつも自然体で、無理に誰かに合わせたりしない子だった。

 何かしたいことがあれば、周りの目を過剰に気にすることなく、さらりと行動に移してしまう。


 けれどそれは、別に他人を遠ざけているというわけではない。

 一人でいることもあれば、穏やかで静かな感じの女子とも、逆にクラスの中心にいる様な明るい女子とも、分け隔てなく仲良く話している。


 自分の軸をしっかり持っていて、誰とでも程よい距離で付き合ってる。そんなところが、とても印象的な子だった。


 別にクラスの中で特別目立つわけでも、中心にいるわけでもない。


 それなのに、俺はなぜか彼女のことが気になって、気がつけばいつも彼女のことを目で追ってしまっていた。


 けれど、そんな彼女の魅力に気づいているのは、俺だけじゃなかった。


 俺が彩乃に出会った時にはもう、既に彼氏がいた。


 それが小林直樹だった。


 小林は、一年の頃から彩乃と付き合っていた。

 クラスでも目立つ方で、正直、彩乃とはちょっとタイプの違う奴だと思った。

 だけど小林と話す彩乃が、いつもとても幸せそうだったから、最初は、「いい友達になれたらいいな」くらいに思っていた。



 そのはずだったのに。



 気づけば、彩乃の表情一つで一日が左右されるようになっていた。

 少し元気がなさそうだと理由を探して、笑っていると、それだけで安心して。



 ああ、俺、彩乃のことが好きなんだ。



 そう気づくのにそこまで時間はかからなかった。



 けれど、気づいたって、どうしようも無かった。

 だって、言えるはずがない。


 彩乃には彼氏がいて、俺は「親友」だったから。



 それでも、隣にいられるならいい。

 そうやって、自分に言い聞かせていた。


 


 大学に進学しても、関係は変わらなかった。


 登下校の時間が合えば一緒に駅まで歩いて、昼休みには学食でご飯を食べて。

 彩乃は相変わらず優しくて、少し抜けていて、たまに無防備で。



 ーーどうしようもなく、可愛いな。



 そう思うたび、胸の奥がざわついた。



 そして、あの日。


 彩乃が大学に来なかった。

 普段なら講義を無断欠席なんてする様な子じゃ無いのに、連絡しても返信すら返ってこない。


 嫌な予感を振り払えず、俺は講義を終えると、そのまま彩乃の様子を見に、彼女の家に向かった。


 玄関先に出てきた彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしていて。


 体調悪いのか聞くと、そうじゃ無いと首を横に降ったから、彩乃の様子を伺いつつ、「ちょっと歩かない?」と誘うと、小さな声で「うん」と頷いてくれて、そのことにほっとして、近くの静かな公園まで移動した。


 公園のベンチに並んで腰掛けて、何があったのかを尋ねる。

 けれど彼女は口を閉ざしたまま、答えをためらっていた。

 それでも、彼女をこんなにまでさせる理由をどうしても知りたくて、もう一度問いかけた。すると、やがて彼女は力無く口を開いた。


 小林の浮気現場を目撃してその場で別れたと、震える声で、ぽつぽつと話す、その姿に、小林への怒りよりも先に、胸がギュッと締めつけられた。



 あんなに小林のことを大事に想ってたのに。

 こんなにも優しい子なのに。



 それから俺は、悲しみに暮れる彩乃の隣にできる限り、寄り添う様にした。

 それが、俺にできる精一杯だった。


 彩乃が泣きたい時は黙って一緒にいて、話したい時は、いくらでも話を聞いた。



 その時間は、とても残酷で。

 そして同時に、途方もなく幸せな時間でもあった。



 正直、今のこの傷ついた彩乃に付け入って告白すれば、自分の方を向いてくれるかもしれないという気持ちも過った。

 けれど、小林を一途に想って泣く彼女を前に、今告げれば困らせるだけだと分かっていた。


 「ごめん、今はそんなこと考えられない」ーーその言葉がはっきり浮かび、告白する勇気は持てなかった。



 このまま、ずっと一番近くにいられたらいい。



 そんな卑怯な願いを抱えながら、俺は隣に居続けることを選んだ。



 社会人になってからも、俺たちの関係は変わらなかった。


 いや、正確には「俺だけ」が変われなかった。


 彩乃は前に進もうとしていた。

 恋愛に臆病になりながらも、ちゃんと前を向いて、働いて、笑って。


 なのに俺は、「親友」という居心地のいい場所にしがみついたまま。


 そんな時、彩乃から、彼女のマンションの隣部屋に、会社の同僚が住んでいたことを知ったという話を聞かされた。


 彩乃の隣の部屋に住んでいて、同じ会社で、仕事ができて、優しくて、距離の取り方もうまくて……。



 ああ、最悪だ。


 内心ではそう思いながら、二人でラーメンを食べに行った話を、外面だけは必死に平静を装いながら聞いていた。



「……ふーん。そんなことあるんだね」



 本心では、そいつへの嫉妬で、どうにかなりそうなのに。


 彩乃が、他の男と並んで歩いて、笑って、同じものを食べている、それだけで、こんなにも胸が苦しくて仕方ないのに。



「彩乃、今度、俺ともそこのラーメン食べに行こうね」



 そいつへの対抗意識から、気がつけばそう言っていた。

 彼女の頭を撫でながら、いつもの距離を装って。


 彩乃は普通にラーメンが気になってると思っている様で、「うん、もちろん」と可愛く頷いてくれた。


 その無防備さが堪らなく愛しくて、そしてとても切なかった。


 

 *



 同窓会の日。


 正直、嫌な予感はしていた。

 小林が来ることも分かっていたし、彩乃が無防備なまま行くのも心配だった。


 そして、それは案の定起こった。


 外に出た彩乃を追って、声が荒くなるのを抑えながら割って入った。



「すごく不愉快だから、いい加減やめてくれない?」



 その時言ったあの言葉は、小林に対しての言葉だけじゃ無かった。


 彩乃を守りたい。

 それも本心。でも本当は。


 彩乃を誰にも奪われたくない。

 彩乃を独り占めしてしまいたい。

 

 この日、これまでずっと隠して続けてきた、彼女に向けたドロドロとした感情が、俺の身体中を一気に支配した。

 

  

 聞きたくなんてなかった。

 それなのに、彼女の声だけはどうしても耳が拾ってしまって。


 聞こえてしまった、隣に住んでる同僚との、デートの話。


 ーーすごく不愉快だから、いい加減やめてくれない?


 自分の中に、こんなにもドロドロとした感情があることを、俺はこの時初めて知った。

 けれど、気付いてしまえば、高校の時からずっと、俺はこの感情を引き摺り続けてきていた様にも思った。


 怖かった。

 自分が、こんなにも欲深いことが。このままこの感情を燻らせ続けることも。


 だったらもう、いっそ吐き出してしまおうと、この時、やっと思うことが出来た。


 


 そして、金曜日の夜。

 彼女を迎えに行って、イタリアンに連れていった。



「今日は酔うつもり無いから、いいんだ」



 酔った勢いで告白なんて、絶対死んでもごめんだから。



「俺、彩乃のこと、ずっと恋愛感情で好きだった」



 そう彼女に伝えた時、声が震えなかったのは奇跡だったと思う。

 

 やっと伝える決心がついた俺の気持ちに、彩乃はきちんと向き合おうとしてくれて、それだけで、心が救われた気がした。


 だけど、同時に、それだけじゃ足りないとも思った。



「これから考えてみてくれないかな。彩乃の答えが出るまで、ちゃんと待つから」



 待つ。待てる。

 だって俺は、これまでもずっと、そうしてきた。


 

 帰り道、彼女を送る車内で、窓の外を見つめる彩乃を目の端に捉えながら思う。



 お前の同僚がどうであろうと。

 お前の過去がどうであろうと。  


 きっと、お前のことを一番好きなのは俺だよ。



 だからどうか、俺を選んで。




本作を見つけてくださり、お読みいただき、ありがとうございました!


本作は毎週水曜と土曜日に一話ずつ投稿していきます。

次の投稿は、2月21日(土)7:00です。


引き続き、お読みいただけますと嬉しいです。

どうぞ応援のほどよろしくお願いいたします。



陽ノ下 咲


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― 新着の感想 ―
優真〜〜〜! 。:゜(;´∩`;)゜:。 私は優真くん推しになりました! (≧Д≦)
彩乃と優真の両視点から丁寧に描いているのが好感です。優真君の想いの強さも少年期にありそうな深さ。ともすれば想いの強さは、あらぬ方向に行ったりしますが、迷いながら自制心を発揮する優真君、大人。彩乃さんが…
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