043 剣術訓練③
「あと残ってるのは……」
サラスは大斧を振り回して敵を薙ぎ払っている。
アウェンも流石に強い。この場において単純な物理戦闘でアウェンに勝てる人間はいなそうだ。
そして……。
「ふんっ!」
ギーク。
貴族というのは剣にこだわりを持っていると聞いたが、例にもれずギークも両手剣を巧みに使い人形とやり合う。
サラスやアウェンのような豪快さはないが、堅実だ。
そして最後の一人。
「はっ! はぁぁあああ!」
リリス。
普段気怠げにギークの取り巻きをしているときからは想像もつかないほどの気迫だ。
「さてと……せっかくならアウェンとどっちが残れるか競ってみようかな」
自己強化は定期的にかけなおせる。
体力勝負ならアウェンにも負ける気はしなかった。
◇
「んー、実に素晴らしい。素晴らしいじゃあないか、リルトといったかね?」
結局授業時間内では決着がつくことがなかった。
ギークが限界を迎えそうになったところでチェブ中尉からストップがかかり、なぜか俺だけ前に呼ばれていた。
「ずば抜けていたよ。君は一見強そうに見えないというのに、風のように舞い、その実威力はもはやドラゴンすら彷彿とさせた」
ご自慢のひげをいじりながら上機嫌にそう言う。
なんだ……?
ギルン少将の忠告を含め、このチェブ中尉は警戒気味に接していた。そして向こうも貴族ではない俺たちを下に見る言動がちらほら見受けられていたし、実際そういった思考をするということは今日までの調査でもわかっていた。
狙いが読めず曖昧な返事だけしていると、ついに核心に迫る発言がなされた。
「これだけ素晴らしければ、ケルン戦線での活躍に期待しちゃうねえ」
「ケルン戦線⁉」
はじめに反応したのはメリリアだった。
「おやメリリア殿下。ご存知で」
「当たり前です。南方戦線最悪の戦場……新兵に向かわせるべき戦場ではありません」
ケルン。
俺たちが向かう南方戦線において、劣勢とされる地域はいくつかある。
その中でも最悪の状況にあるのがこのケルン戦線だった。
セレスティア共和国はパーム公国との同盟後、まずこのケルンの土地を奪還するために兵力を割いたと聞く。
もともと勝手のわからない敵地において、籠城できる優位はあるものの思うように戦えておらず、もはや周囲の山々に散ってのゲリラ戦と、決死の特攻によってこちらが一の被害を出す間に向こうに二の被害をもたらそうという悪魔のような戦略で動く惨状だと聞く。
「ですがいまや帝国はどこも人手不足。大丈夫です。これほどまでに優秀なんだ。きっと活躍してくれるにちがいない」
ニタっと口元を歪ませたチェブ中尉は俺ではなく、なぜかギークを見て笑っていた。
訓練校編そろそろ終わり!