13話 お姉ちゃんが来た
「この携帯は低スペックで動画無理だけど、毎月千円でお買い得だよ」
「へぇー、回線速度ってそんなに重要なんだ。安物には見えないけどなぁ」
一緒に下校する流れになり、適当に雑談をしていたら、花祭さんが持っていた携帯について教わる流れになった。今は普通に話せているけど、明日以降はどうなるのかな? 慣れてないから女の子との距離感が分からない。
「安物でいいから携帯欲しかったんだ。両親に無理言って買ってもらったから、おかげでお小遣いが減っちゃったよ」
「それは残念だけど仕方ないよ。お金の話はデリケートだからね」
有っても無くてもお金は大切にすべきで、しかも自分の為に親が大金を出す場面になるとついつい緊張してしまう。たとえ気にするなって言われても気になる性分はどうしようもないから、我が家では母さんが出題した約束をやり遂げたら欲しい物を買うってルールが採用されている。母さん曰く「何かを手に入れる為に努力するのは教育に良い!」だそうだ。これに不満はないんだけど、僕の頑張りをしたり顔で見守る母さんがウザいんだよなぁ。
「石神君、ちょっといい?」
「なに?」
急に花祭さんが真剣な表情で身を寄せてくる。
また距離が近い。今度は何だ?
「校門を出た時から、尾行されてる」
「えっ、本当に?」
振り向こうとしたら即座に花祭さんが両手を伸ばしてきて、僕の両頬を掴んできた。
「振り向いちゃ駄目、気付かれる」
つい条件反射で首が動いてしまった。僕は状況が分からないから従うしかないんだけど、顔が固定されているせいで強制的に花祭さんと見つめ合う状態になっちゃっている。今は恥ずかしがっている場合じゃないのに視線が外せない。どうにか平静を装いながら頷いて手を離してもらったけど、尾行者の警戒をする為に密着しながら進む事になってしまった。
「それで、どんな人がストーカーしてるの?」
小声で聞いてみると、花祭さんが手鏡を取り出して上手い具合に後方のストーカーを映し出してきた。
「あの物陰にいる制服の人だよ。見た感じ高校生かな? それに綺麗な人だね」
「…………………………」
「危険な感じはないっぽいけど、何でこっち見てくるかな?」
「…………………………何してんだ? タツ姉」
「えっ、あれって石神君のお姉さんなの?」
もう一度鏡を覗き込んでみたけど、長い黒髪に黒レースのリボン、高めな身長、昨日見せてもらった高校の制服、僕が知っているタツ姉と完全に一致している。
「高村樹美って名前で、実の姉弟じゃないよ。同じアパートのご近所さんで、小学校で知り合った関係。先月に中学を卒業したから一応先輩だよ」
「へー、いいなぁそういう関係。優しそうなお姉さんだね」
「そう? 集団登校が一緒でいつの間にか仲良くなっただけで、それにタツ姉はお節介で頑固だよ。まぁ……、色々教えてくれて優しい所もあるけど」
それに最近は勉強を教わってばっかりだ。
タツ姉曰く中学校からのテストは重要らしい。
「へぇ~、そうなんだ~、世話焼きなお姉さんがいて羨ましいなぁ~」
「……何でにやけ顔なのさ」
「べっつに~」
くっ、タツ姉について話すと何で皆こういう反応してくるかな。
確かに見た目は悪くないし、昔より大人しくなったとは思うけどさ。
「それにしても、何で隠れてるんだろう?」
声を掛けに行った方がいいのかな? だけど僕に気付いている筈で、その上で尾行している事になる。タツ姉はこういう遊びはしない性格だし、理由が分からない。
「突然だけど、石神君って彼女いる?」
「……………いません。そもそも女友達がいない」
自分から女の子を避けてきから当然だけど、口にすると悲しくなる。
それにタツ姉はタツ姉だからノーカンだ。
「なるほどなるほど、タツ姉さんがストーカーしてる理由が分かったよ」
「本当? どんな理由?」
そう答えると、にやけ顔の花祭さんが腕を組んでくっついてきた。