11話 ペロペロ
「んっ、あっふ…」
変な声が出てしまった。
「あっ、ごめん。痛かった?」
「いや、痛くない。そこは剥き出し状態というか、擽ったいだけだから」
本来なら神経の上に皮下細胞があるから普通は触られても平気だけど、僕は噛まれたせいで皮膚が薄くなってしまい、神経がむき出し状態になってしまったのだ。なので触られると自分の内面を弄られてくる様な感覚に襲われてしまい、ついつい変な声が漏れてしまう。我慢しなくちゃいけないのは分かってるけど、どうしても抗えないのだ。
「んー、じゃあもうちょっとだけ見せて。見るだけだから」
「分かった」
それなら大丈夫だと思ったけど、横から密着して前のめり姿勢で凝視し始めてきた。もう体が近いではなく、くっついちゃっている。しかも舐め回す様な視線と傷痕に吹き掛かってくる微かな吐息のせいで、今まで経験した事のない刺激が湧き上がってきた。
何この感覚! 全然大丈夫じゃない!
傷跡に触られている訳じゃないのに落ち着かない。体の奥がムズムズする。
「そんなに凝視されると、恥ずかしいよ。それにその、汚いじゃん」
「えっ? そんな事ないって、汚くないよ」
「いやいや、歪でグロテスクじゃん。普通じゃないよ」
花祭さんがどんな反応をするのか知りたかっただけなのに、なんで誰もいない教室で密着してこんな感じになったんだっけ? 他の女の子にも見せてもこんな感じになっちゃうのかな? 流石にそれはない気がす
ペロッ
「ぬおぁっふわぁっ!」
とてつもない刺激が体内に入り込んできてたせいで体が飛び跳ね、ろくに受け身も取れずに机と一緒に派手な音を立てて倒れてしまった。
「おおっ、どうしちゃったの大丈夫⁉」
慌てて花祭さんが駆け寄ってきたけど、そのリアクションは正しくないよね!
「なな、何で、何で舐めちゃったの⁉」
「え? いやー、汚くないって言ったのに納得してくれないからさ、言葉が駄目なら行動で示せばいいかなーって、別に変な味はしなかったよ」
「だからって、ふつー舐めないよね!」
「何をそんなに慌ててるかな? ただ舐めただけじゃ…… あれ? 舐め……」
急に声が小さくなってから、小刻みに震えだす。
「ちょ、あれ? 顔熱い、何で舐め、ちょっと待って……」
顔が真っ赤になって、へたり込んだ後に心の叫びが聞こえてきた。
「何で私ペロペロしちゃったの⁉ 変態か!」
「今更それ言っちゃうの⁉」
これは酷い!
この状況を作った張本人が自爆しちゃったよ!
僕だって凄く恥ずかしくて色々言いたかったのに、何も言えなくなっちゃったよ。
なのでやむなく舐められた左腕を見てみたら、
「あ、唾液が艶々して光ってる」
「ぎゃーーー、見ないで許して忘れてーーーーー」
立ち上がらずに犬みたいに両手両足で這いよってきた花祭さんが、ハンカチで舐めた所を力強く拭き始めてきた。
「消えろーーー、この現実ごと消えてなくなれーーー」
「ちょ、だから傷跡は敏感だっ、あふっ、くすぐっ、らめええええええええええええええええええええええええええぇぇぇええええええええええええええええ‼」
汚れてしまった。色んな意味で。
コウ君の反応は過剰演出にしています。疑問に感じる人もいると思いますが、スルーしていただければ幸いです。