絵画で楽しむ天地想像
自分が小さくなったかと錯覚させられる程大きな本を、机の上で開くと、横から3対の瞳が覗きこんで来る。
「セーラ様きれーです」
「セーラ様これは何の絵なのですか?」
「これは天空神殿に伝わる天地創造を描いたものよ」
中心に極彩色に輝く光がありその周様々な神獣や天使が飛び回っている。
流石に宗教知識に疎くても、このくらいは私でも諳じられる有名な神話だ。
「あなた達、創生神話を知らないの?」
「知らないです」
「ごめんなさい」
「ごめ……さい」
聞くと、申し訳なさそうに彼女達は謝った。
奴隷だし子供だから知らないのではないかとの、想像通りの答えに私は頷いた。
この子たちからしたら、天使も羽根の有る、何か綺麗な良い存在位の認識なのでしょう。
「いいわ気分転換に私が教えてあげる、確り覚えなさい」
追々文字も教えていかなきゃならないだろうし、これはその練習。
この子達はまがりなりにも次世代なのだから。
「はい!」
「わーがんばります」
「ありがとうごじゃいます」
私の言葉に3人は、やる気のある返事をしてちょこんと、頭を下げた。
期待の籠った純粋な目で、キラキラと見詰められると、ちょっとたじろぎそうになる。
私は咳払いを1つして、ページをめくった。
「この世界が出来る前、そこには闇が広がっていた、何処までも続く深淵の闇に混沌の雲だけがたゆたっていた」
黒で塗り潰された世界に、暗い色の塊が不定形に蠢いている。そんな光景が描かれているのを見て子供達は怯えて言った。
「この絵何かこわい」
「真っ黒です」
「セーラ様こ……んとんってなんですか?」
「混沌よ、何とも判別出来なくて存在が定まっていない混ざりあった状態、ただこれは悪い物と言うより全ての属性が混ざったエネルギーだったと言われているわ」
「?」
子供達は首をかしげた。
「マナは解るわね?」
「はい」
「魔法の元だってお兄ちゃんが言ってました」
「………ん」
「お兄ちゃん」はラサイアスの事だろう。
ラサイアスは下に兄弟が居ないから妹とか憧れが有るんだとか、よく解らない事を言っていたな。
それでいて、私を兄妹の様な存在と言うのは、矛盾しているわよね。
「それが属性も目茶苦茶に沢山いっっっっぱいあったって事よ」
「へぇ~」
この世界のマナの全てが混ざった状態で存在していた、それは凄まじい力だったと推測されているわ。
それこそ世界を生み出す様な無限のエネルギー。
私達魔術師が魔法を使う時、体内に貯めた魔力を使って世界のマナに呼び掛ける。そして、呼び掛けに世界が応えてくれた時に魔術が発動する。
では、魔術師の魔力とは何か?
それも元を辿れば、生き物が呼吸や食事で取り入れたマナを、体内で魔力に生成しているのだと、言われているわ。
そしてマナは、時には誰かがコントロールしなくても、自然と不思議な現象を起こした。
不信心者なんかは、この世は強大な魔術の爆発のほんの一瞬の出来事なんて馬鹿な妄想をしたりするらしいわね。
それはまあいいわ。
私は次の場面を指差した。
そこには渦を巻く雲と今まさに輝きだした光がある。
「そして人種では計り知れない年月が経ちシンセイ、つまり新しい神が誕生した」
黒い雲を吹き払い、次々と神が顕現する。
先程と打って変わって絵の中では美しい色が洪水のように溢れていた。
「水の神、雷の神、土の神、火の神、風の神……様々な神様が産まれて一番先に生まれた輝ける神に跪き忠誠を誓った。これが天空の輝けるいと高きに御座す(おわ)天空の女神様と言われているの」
大勢の神々を従えた、白色に輝く女神様。
もちろんこれは想像上の姿で、実物を見た人種は居ない。
女神様の姿は古の預言者イボンが夢の中で神の姿を見たと記した、偽典イボンの魔導書の記述が元となって描かれるのが一般的だ。
この絵は典型的な様式で解り易さと、荘厳さを重視しているのだろう。
「ふわぁ……」
画家も特に力を入れて描いているようで、子供達から賛美のため息が漏れる。
多分この絵は写しで、本物は何処かの神殿に納められているだろうけど、私も素晴らしい出来だと思うわ。
神々が登場するとついに私達が今居る世界が出来る。
私は次のページへと進む。
「そして……沢山の神様が誕生する中で3番目と4番目にクロノトとシロレムと言う名前の神様が生まれましたわ」
黒と白の人形のシルエットだけがそこには描かれていた。
この神の名はこの場面にしか表れず詳しい描写がないからこんな扱いになるらしい。
この後の展開的にもあんまり細かく描けないのだろう。
「この2柱の神様は憎しみ合う訳でもなく自然にひかれ、戦いお互いを喰らいあった、そうして二人が縺れるように倒れるとそれが私達が今住む大地となった」
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