持ってるとお得なカード
「今はBランクを中心にC、Dランク10チームが合同で森での魔物討伐と調査を続けています」
説明と共に、レイチェルはテーブルの上に冒険者達の評価や、何処に誰が配置されているか記載された紙を広げていく。
どの冒険者も、ずっとこのソウカスで活きてきた、レイチェルにとっても顔見知りだ。
今も、彼らは森で戦っている。
「十中八九キラーエイプで確定でしょうな、しかしもう少し強いランクの魔物もあそこには居たはずなのだが……」
「数の暴力で押しきったのでしょうね」
アントンの質問に、冒険者の配置図へ向けていた視線を、シンは上げた。
「元々の数も、多かったのだと思います」
キラーエイプは、その狂暴性もさることながら、高い繁殖力を持つ魔物だ。
特にマブカ山に暮らす種類は、長年脅威に晒され続けた結果、その特長が顕著だった。
ドラゴンの群れが毎日主食にして、滅びないだけの繁殖力を獲得していると聞けば誰もが驚愕するだろう。
「群れは既に、普通の規模ではなくなっているでしょう、従来の討伐ランクは忘れてください」
通常、10~20前後の家族単位の群れを作って、狩りや生活をしている彼らだが、絶対強者のドラゴンが消え一つ一つの群れが急激に膨れ上がっている。
仲間の数が多くなれば、それだけ戦闘が有利になるのは魔物も人種も同じ事、そもそも集団での戦闘が得意な魔物だ。
今まで彼らを餌食にしていた様な強力な魔物も、逆に仕留めることが出来るようになっていた。
そして、魔物は強敵を食らうごとに強さを増していくのだ、キラーエイプの敵はもはやマブカ山にはいなかった。
だがそんな繁栄も、永く続くものではない。
どんなに広大な森でも、抱えられる魔物の数には限りがある。
直ぐに森を食いつくしてしまうだろう。
「交代で帰って来た冒険者の話では、今にも溢れそうだと報告が上がっていました」
キラーエイプの個体数は、危険領域突入している。
飢餓状態が永く続けば、本来進出することのない草原や、その先にある人種の領域へと溢れて来る事になるだろう。
それは所謂、魔物大暴走と言われる現象だ。
「疑ってすみません、貴方の言った通りになった」
アントンが謝罪するが、分霊体のシンはそれに気にするなと首を振った。
「いいえ、間違いなら良いのにと私も思いますから」
シンは嘴から重い息を吐いた。
こんな事で信用を得て謝られるよりも、外れて嘘つきと嗤われる事の方がどれ程いいかと。
それを聞けば、アントンもため息しか出ない。
暗くなる男二人に、レイチェルがぽつりと言った。
「救援に来てくれたクランの代表メンバーたちと話がつきましたら、私も出撃しようと思います」
ギルドマスターは高ランクの冒険者から選抜されることが多い、勿論強さではなく事務処理能力や交渉力を買われて抜擢されるマスターも居るには居るが、ここは普段から魔物の驚異が間近に存在する街だ。
レイチェルの元々のランクはAだった。
「何言っているんだ、ギルマスは残ってて下さい」
「武器の手配も町長への根回しも終わっている、私が居なくてもここは職員だけで何とかなるだろう、今は少しでも時間を稼がなくては」
手配しているドラゴンの素材を使った魔導兵器は、まだ完成していない。
そして何より、レイチェルが心配しているのは、ソウカスの街の周囲に散らばる農村やそこに残る避難できていない農民たちだ。
彼らは、町長の呼び掛けで外壁に囲まれたこの街に集まりつつあるが、危機感がないので動きが遅い。
「レイチェルさん無茶は駄目ですよ、もしもの時は貴女がみんなの指揮をとるんですから」
「解っています、そのつもりです」
ぎゅっと唇を噛み締めて、決意に瞳を潤ませる美女は全然解っているようには見えなかった。
再度ため息が漏れる、これはアントンとシンどちらのものだろうかーー
「そうですか、ではその前に他国籍の冒険者が来たらギルドカードを集めて少しだけ私に預からせて貰えませんか?」
「それは……構いませんがギルドカードなど、どうされるのですか?」
ギルドでは他国から来た冒険者には受付で一度ギルドカードを提出するように義務付けている。
そのどさくさでシンにギルドカードを預けることは出来るだろう。
だがレイチェルには疑問があった。
ギルドカードは冒険者ギルドの情報が詰まった機密だが、そもそもギルドカードの基幹となる術式を提供したのはシンたちである。
「いえ、実はちょっとした隠し機能があるんですあのカード」




