ノーマルモード
「あっごめんなさい外しました」
メイド姿で弓を構えた仲間が放った矢は突っ込んで来たオークに当たらず地面に落ちる。
その結果、怒り狂ったオークが前衛まで迫ってきた。
「ちょっ! いやぁあ!!」
軽鎧装備の少女の前衛は悲鳴を上げて盾を構え。
「ぶーぶふぅーぶふぅー」
オークはその弱腰の様子に鼻息を荒くして、手に持ったこん棒を振り回す。
「いやぁー誰かたすけて!」
何とか少女は盾でオークの攻撃を防いでいるが長く持ちそうにない。
「アマルダ! フォローを」
「いま無理だ!」
僕が声を掛けるとアマルダの切羽詰まった返しが後ろからした。
剣がぶつかり合う音も。
誰も手が空いていない、暇をしているメンバーなど一人もいない。
「くっそぉ!」
僕は目の前のオークソルジャーに苛立ちをぶつけた。
なんとかオークの中規模集団を撃破して僕は仲間を見回した。
みんな泥だらけ擦り傷だらけでぼろぼろだが、どうやら大きな怪我をしている娘は居ないみたいだ。良かった。
「みんな大丈夫」
「私、もう前衛無理……です……」
先程オークに苦戦していた娘がそう言い出すと、同じく前衛を任されて二月になる女の子が同意するように視線を下げた。
「無理……家に帰りたい……」
彼女が震えながら開いた手は、白く滑らかだった手は、今は真っ赤に腫れて痛々しい。
何度も何度もオークのこん棒を剣や盾で防いだ衝撃に依るものだ。
「今更なに言ってるんだい」
ぐずぐすと泣き出した女の子たちにアマルダは呆れてそう怒鳴った。
「危険も苦労も承知で付いてきたんだろう?」
「アマルダさんはもともと冒険者だったから平気なんですよ」
今までアマルダに強く言われれば黙っていた彼女たちが、珍しく言い返している。それだけ限界が近いのかもしれない。
「こんなんじゃなかった、こんなつもりじゃなかった」
「なんだって?」
「加護が貰えて簡単に強くなれて、危険は少ないって……そう、言ってたじゃない」
確かに危険はあるが、加護があれば大丈夫だと説明した覚えがあるのでこれについては僕は何も言えない。
こんな事になるなんて、誰も想像してなかったのだから。
「そんな甘い考えで冒険者になったのか、あんただってもうCランクだろうが!」
「貴女だって簡単にもっと強くなりたいからって、普通にやっててもこれ以上強くなるのは難しいからって言ってたじゃない!」
「っ……」
アマルダもそんな事を言っていたんだ。
僕にはそんな事一度も言っていなかったんだけど……
アマルダは図星を突かれたみたいに顔をしかめた。
「ならどうするんだ!こんな草原の真っ只中でもう疲れたので戦えませんってか? 死にたいのかい?」
「そ……んなこと……」
前衛の女の子たちは言葉につまっていた。
人数が限られているのだから、それぞれが役割を果たさなければ進むことは出来ない。
食料だって限られているのだから、予定した日数で次の村に着かなければならない。
そんな事もう何度も旅をして来て解っているのだ、みんな解っている。
「アマルダ、みんなも少し落ち着いてくれ。辛いのは解ってるここは力を合わせて乗り切るべき場面だ僕も頑張るから、もう少しだけ力をかしてくれないか?」
「ラサイアス……」
「ラサイアス様……」
「主殿……」
女の子たちは僕の話しに感じ入り、気を取り直しっ……たりしなかったようで瞳から光が消えた様な、変な表情でこちらを見ていた。
あれ?
「ラサイアス、やっぱり街道に戻った方がいいと思うわ」
その様子を黙ってみていたセーラが横から口を出してきた。
もう、それについては話し合いは終わっていた筈なのに、メイスについた血を拭いながらまた蒸し返してくる。
「こんな状態じゃここは抜けられないわ、今の私たちは前と同じ様には戦えないのよ」
人数も減っている、メインメンバーであるリリーナが欠けたのも大きいと、同じ説明を繰り返した。
「だが、今は一刻も早く王都に戻らなくては」
王都に戻り、天空の女神神殿で聖剣を復活させれば全ての問題は解決するのだ。
元通りに戻るのだから、少しでも早い方がいい。
それにあの堕天使が次に何をしでかすか解らない、戦うための力を取り戻しておかないと。
「誰かが犠牲になってもいいの?」
「そんな事言ってないだろう、我が儘言うなよ」
「……」
セーラは下を向くと唇を噛んで、何かに耐えているようだった。
お嬢様だから自分の意見が通らなくて気分が悪いのかもしれない、後でフォローしとかないと駄目かな。
面倒だな……
「心配しすぎだって」
「……セルジュはどうしてるの?」
「セルジュは馬車の中で祈りを続けているよ」
あれからセルジュは寝食以外の全ての時間を祈りに捧げている、みんなの為に……
誰にでも出来る事じゃない凄いよね、人々が彼女を聖女だと呼ぶのが良くわかる。
「それで?」
「それでって?」
「女神様は応えてくれたの?」
「いや、まだみたい」
そんなに簡単に大神である天空の女神が応えてくれるならば誰も苦労しないだろう。
まぁ、何か神託があれば、ここで無理する必要はないとセーラは期待したのかもしれないけど。
「そう、解ったわ……」




