序章 大江山決戦
序章 大江山決戦
ーーーーーさながらそこは【地獄】のようだった
立ち上る煙が青い空を覆い隠し、そこら中に人か獣か分からぬ死体が塵のように転がっていた。
いや、実際に転がっているものは全て人の形をとっていたものだ。
ただ、片方は人間で片方が化物なだけなのだ。
ーーーーー妖怪
それの化物は人に害を成し、人に意味嫌われる怪物。
そのなかでも最上位の妖であるもの。【鬼】
それがこの死体の山に転がっている肉塊の生産者だ。
その中で、未だ人間と鬼は争っている。
刀と鎧兜て武装した人間が鬼の首を切り落とし、その人間を怪力で擂り潰す鬼の腕。
そんな地獄のような光景の中、その中心部で二人。静かに相対している鬼と人がいた。
人間は髪を後ろで結った青年剣士
鬼は黄金色の髪に額から赤い角を生やした若い妖怪だった。
青年の目には焦りが見えていた、何故なら相対してから随分経っていたからだ。
「何故掛かってこない!臆病風に吹かれたか!?」
青年が叫ぶ、まるで何かを吹っ切ろうとするかのように。
その言葉を聞いて、鬼が笑った。
「それはお前さんの方じゃないか?
そんなの待たずに切りかかってくればいいだろう?」
まるで見透かしたように鬼か語る。
「まるで何かに迷ってるみたいじゃないか、迷うぐらいなら帰ればいいじゃないか。なぁ頼光?」
心の底から親しげに、相手を労るように頼光と呼ばれた青年へ言葉をかける。
「黙れ妖怪!我が親友の声で、言葉で、眼差しで俺を見るな!」
その言葉に反応し声を荒げる頼光。それでも体は正直だった、今までのこいつの行動や言動が…。かつて苦楽を共にし、約束を交わした彼を……
「貴様が…、死んだ筈のアイツの訳があるか!」
限界だった。辛うじて口から出たのはそんな虚勢。
自分でも分かっていた、ただ認めたくないのだ。今目の前に敵として立っているこの鬼……。【酒呑童子】が過去に失った自らの親友であるなんてことは………。
その言葉を聞いて、その鬼…酒呑童子は心底ため息を吐いた。
「なんだ?最早名前も呼んじゃくれないのか。相変わらず固いやつだ。」
やれやれ、と
酒呑童子は首を振る。
一挙一動が古き友と被る。
やめろ、お前は鬼なのだ。
人に害なす鬼なのだ。
俺は鬼を倒さねばならんのだ。
そう《彼女》に誓ったのだ。
頼光が葛藤しているときに、酒呑童子は穏やかに語った。
「それにしても懐かしいな。ガキの頃、お前とはよくこうして剣を交わしたもんだ。
お互い負けず嫌いだったから、勝敗も50勝50敗0引き分けだったな。あの頃はよかった、頼光と俺、そしてお前の許嫁のーーー」
「黙れぇぇぇぇぇえ!!!」
そこまで話した時、頼光が咆哮を上げ切りかかってきた。
吐き出したのは怒りと慟哭、友と愛するものを守れなかった過去の自分の罪。
忘れられる筈がなかった。
あの輝かしい日々に影を差した、あの出来事を。
思えばそう……
あの日から我々の地獄は始まったーーー