【第1話】
「ねぇ!ねぇキミ!大丈夫!?」
声が、遠い。
「救急車!救急車を呼んでくれ!!男の子が危険な状態だ!!」
……あれ……。
目を開けようとすると、白い空が見えた。いや、空じゃない。頬に冷たいものが当たっている。アスファルト、だ。
僕はいったい、どこにいるんだろう。
ああ、そうだ。
燃料を積んでたトレーラーが爆発して、吹っ飛ばされたんだっけ。
なんであんなことしたんだろう。自分でもよくわからないけど……。
あ。
「女の……人は……?」
声を出したつもりだったのに、かすれてほとんど音にならなかった。
「まだ意識があるぞ!大丈夫か!?君が守ってくれた女性は無事だよ!ちょっとケガはしてるかもしれないが、君のおかげで大丈夫だよ!」
「ボクの方が重傷なのよ!気をしっかり持ちなさい!今救急車が来るからね!」
……よかった。
誰かの役に立てることって、こんな感じなんだ。
知らなかった。
「!救急車が来たぞ!」
「よかった!……!?おい!!しっかりしろ君!」
「あああ!早く来て!早く来てえぇぇぇ!!!」
今日、僕は——
今日は、能力検査の日だった。
特に何も起きないと思っていた。
国が全国民に義務付けている十八歳になる年の一斉能力検査。手をかざして数値を測るだけで、だいたい三十分もあれば終わる。うちの家族は全員、それで終わりだった。
僕の家は、ごく普通のサラリーマン一家だ。
父は名刺交換をするほど少しだけ身体が頑丈になるらしい。そのせいで、うちの父はやや筋肉質だ。「やや」というところがポイントで、ゴリゴリに鍛えた感じではなく、なんとなく健康そうに見えるというくらいの。母は家族のために家事をするほど家族全体の運気が上がるらしい。おかげで我が家には謎の幸運体質がある——気がする。妹の美希子は口が悪くなるほどスタイルが良くなるという、冗談みたいな能力だ。まあ実際、妹の口の悪さは本物なので、スタイルがよくなるのも道理かもしれない。
そんな感じでヒーローのような凄い能力や使命があるわけでもない。
よくある話だ。父は普通の会社員、母は普通の主婦、妹は……少し口が悪いが、まあ普通の中学生、だと思う。
で、僕はというと、能力がよくわからない。
幼少期に一度、能力検証機構——半民半官の、能力の詳細を分析する施設——で検査してもらったらしいが、まったく能力が把握できないタイプだと言われて、それきりだ。「低能力値だと表面化しにくいことが多い。十八歳の一斉検査のあたりで数値が安定するので、その時の数値を見れば傾向くらいはわかるので心配しなくてもいいですよ。」という話だったので、両親もあまり気にしていなかったようだった。
実際、人に危害を加えたり、カンニングやズルになるような能力は学校でも禁止されているし、能力使用をともなった傷害や犯罪行為は未成年であっても厳罰の対象になっている。
町で有名なヤンキーですら無能力で殴り合うし、能力を使わずにタイマンで勝つから尊敬される…らしい。それもそれでどうかなと思うけど、つまり能力がわからなくても学生生活で困ることはほとんどないってこと。
でも大人になったら話は別だ。
この国では、能力が高い人々のことを「能力上流層」と呼ぶ。
字面のとおり、能力が優れた人々という意味だ。ただ、この言葉には揶揄の意味も含まれている。能力が高い、つまりリスクが低くて有用性が高い、ということは、就職に有利で、給与も高く、結婚相手にも選ばれやすい。気づけば能力と富が連動した階層が生まれていて、だから「能力が上の層」と「お金持ちの上流層」が重なって「能力上流層」という言葉になった——そんな経緯があると、学校で習った。
要するに、持てる者と持たざる者の話だ。
うちは、この世界でありきたりの持たざる者の側だった。
これはそんな持たざる僕に起きた平凡な日常の終わりと、数々の苦痛と涙と共に訪れた充実した日々の幕開けの話。




