墜落ウィッチ
最近の僕は工房の屋上がお気に入りだった。
かなり広いので、デカ男の僕でも余裕をもって寝そべることが出来る。
平たいのでゴツゴツすることもない。
ここならおちゃらけゴーストはやってこないし、ソラが楽しそうに空を駆けるのを見るのも気分が良かった。
なんか結局、追いやられてないか?
うとうとしていると轟音と激しい振動が工房を襲った。
地震かと思ってあたりを見回すと、玄関そばで何かが煙を上げていた。
工房の女の子が何事かと顔を出したが、僕はそれを止めた。
「見ちゃ駄目だ!!」
墜落した死体かなにかだからと思ったからだ。
だが、どうやらそうではないらしかった。
庭からルーメンの声が聞こえる。
「師匠、この娘、ゴーレムみたいっすよ?」
急いで階段を降りて玄関に出るとバラバラになったゴーレムが転がっていた。
そばには焼け焦げた黒いローブとホウキが落ちていた。こちらは無事らしい。
それにしてもなんともまぁ無惨な姿だった。
あちゃ〜。これは正直キツいな……。
ルーメンはしゃがみ込んでゴーレムを観察している
「師匠、この娘、蒼の術式の中枢は生きてるみたいっすよ。回収しましょう!!」
「そうだね。簡易的だけど、蘇生を試みよう」
だいぶルーメンも逞しくなったなぁと思った。
拾ってきた欠片をくっつけて蒼の中枢を再生させる。
なせだかルーメンは生首の成形が得意だ。
さすがにナンテ姉妹ほどの精度はないが、並みの生首ならざざっと組み立ててのける。
造形は割と適当でマネキンみたいなもんだったが。
ちなみに諸々(もろもろ)の事情でまだジェムちゃんは封印してある。
新しい生首もいきなりエッチエッチ言い出さないかと不安に思えた。
「あれっ、こ、ここは? か、からだがうごかない!!」
まだ彼女は自分の状況が理解できていないようだった。
彼女の眼の前で僕は手を振った。
「僕はフォルっていうんだ。キミの名前はわかるかい?」
生クビはコクリとうなづいた。
「はい。私の名前はカンデュっていいます。見ての通り、見習いのウィッチ・ゴーレムです。ホウキ乗り大会に向けて練習してたんですが、暴走についていけなくってこんなハメに……」
生クビはシクシクと泣いている。
みるにかなり精神年齢は低い。15歳前後だろうか。
疑問に思って僕はカンデュに尋ねた。
「で、大会はいつなの?」
彼女は鼻水を垂らしながら答えた。
「残り3日です。これでいい成績……バッジを手に入れられないと廃棄されてしまいます!!」
すんごい物騒な話だ。
詳しく聞くに、彼女の工房は専門のゴーレムを量産して、こういった大会に片っ端から派遣して賞金を稼いでいるという悪徳業者だった。
しかし、ゴーレムである以上、マスターに逆らうわけにもいかない。
僕はおもわず憤った。
「通報だな!! あぁ、キミのマスターロックは外しておくから好きなように逃げるといいよ」
だが、カンデュは未練がありそうだ。
「そうであったとしても必死で練習したのが無駄になるのは悲しいです!! なんとかなりませんか!? ここ、工房なんですよね!?」
残念ながらここまでバラバラになると3日ではどうなもならない。
また彼女は泣き出した。
「くっ、くやしいですよ〜〜!! 特に一緒に頑張ってきたホウキちゃんにはゴールさせてあげたかったです!!」
彼女はかなりの頑張り屋さんといった感じだった。
その姿勢に感銘を受けて、僕は無責任に安請け合いをしてしまった。
「よしっ!!僕がホウキ乗り大会に出て、良い結果を残してみせるよ。だからそんな悲しい顔をしないで。さあ!!」
目をパチクリしながらカンデュは泣くのをやめた。
とはいうものの、僕はホウキになんて乗ったことはなかった。
「コレは、厳しいぞ。ポテポテの時みたいに教えてくれる人が居ない。まぁ、悩んでてもしょうがないな。飛んでみるか。南無三!!」
ホウキにまたがって念じると僕はすごいスピードで上昇した。
うおっ!!このペースだと天高くまで昇ってしまう!! 昇天しちゃうよ!!
だんだん目眩がし始めたその時。
何かが僕を受け止めてくれた。
「バーカ。空の素人のクセしていっちょ前に翔ぶんじゃないよ」
振り向くとソラとオオワシが僕をキャッチしてくれていた。
「いいか? 体の力を抜いて……風に乗るんだ」
彼女の言うとおりにすると僕の身体は自然と空気の波にのった。
「なんだこれ……気持ちいい!!」
ソラはフォルの顔を覗き込んで満面の笑みを浮かべた。
「だろ? 中毒性あるよな。これだから翔ぶのはやめられないんだ!!」
工房の女子たちは流石に空まではついて行けず、フォルとソラの空中デートを見せつけられた。
だんだん慣れてきて、僕は両手離しでホウキに乗れるようになった。
「じゃあそろそろぶっ飛ばしていくぞ!! ついてこいよな!!」
ソラとオオワシはフルスピードを出した。
最高速もさることながら、スタートダッシュが恐ろしく速い。
遥か前から声が聞こえる。
「いいか。必ずしもこういうスピードダッシュが必ずしもいいとは限らない。トップ選手の後ろについて、受ける気圧を減らすんだ。スリップストリームってやつだな。あとはペースを見失わないようにペースメーカーを見つけるのも良い」
そして僕はキャマ・クーラとクランドールをシャトルランのように行き来して持久力をつけた。
タックルでの位置取りや、スピンしての回避などの特訓ももちろんだ。
こうして大会の日が来た。
ホウキ乗りは割と簡単に出来るので競技人口がとても多い。
しかし、トップクラスと言うと異次元の速度を誇る。
緊張の瞬間、開始のピストルが鳴らされた。
僕はスピードダッシュをきりつつ、トップには立たず、先頭集団の後方に位置取った。
うまい具合に前の選手に風圧をおしつける。
だが、トップクラスのホウキ乗りは伊達ではない。
どんどん差をあけられてしまった。
スピードをアップして追いつくのもありだが、持久力が続きそうにない。
心臓がバクバクしてきて苦しい。ここまで必死に修行したのに勝てないのか。
そんな無念が僕を支配しそうになった時、ソラの言葉が思い浮かんだ。
「ま、最終的には楽しんだもんがちだよ。大会とかそんなこと気にせずにさ。こう、ブァーーッて感じでさ。風を感じる楽しさを忘れたら翔ぶ意味なんてないからね」
僕は両手をばっと広げて風を感じた。
汗がながれてしたっていく。それが身体を冷やすのがまた快感だった。
「ブァーーッ!!」
ランニング・ハイというやつだろうか。
気づくと僕はゴールテープを一番に切っていた。
「優勝者!! フォル・バークライト!! ホウキ乗り+++、ホウキ乗りトライマイスターを授与します!!」
あのフォルが大会荒らしに来たと会場は大騒になった。
工房の皆が祝いに来てくれた。
「フォルさん、ホウキちゃんを勝たせてくれて……ありがとうございます!!人間の姿にもどれれば何かしらのお役に立てると思うのでよろしくおねがいします」
確かにここまで派手にぶっ壊れておいて治らないのも悲しいものだ。
またナンテ姉妹には文句を言われるだろうが、僕は彼女に修復の約束をした。
いや、でもヤクザのフロントだからな。
なんかあやしい信号発してるかもな……。




