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第67話 グランドエピローグ:異説の終幕

 婚礼は、いつの間にか帝国史に残る大式典へと発展していた。


「小さな式で十分なんだが」


 フェルクは事あるごとにそう言っていたが、アルヴィもリュセトも笑顔で押し切っていく。


「帝国が平和な国になったことを示す、絶好の機会じゃないか」


「いやー、外交の席でこの話題を振ったら、みんな興味を示すんだよね。

 フェルクって本当に有名人だなー」


「来賓の顔ぶれを考慮すれば、相応の式にせねばなりませんね」とレノリタも意気込む。


 式場は帝都の大聖堂である。


「神父の役は、私、セラファスが勤めさせていただきます。

 この度は誠におめでとうございます」


 聖都から直々に聖職者が招かれ、新郎新婦を神前にて迎える。

 なぜかアレイネが補佐として、相変わらず不満そうに傍らに控えている。

 セラファスには国家間の裁定から夫婦の誓いまで見極められる始末となってしまった。

 本来は神父の任には着かないような上級官が、「ご縁があったので」と特別に引き受けてくれたようである。


 フェルクとイヴェリは二人並んで、受付を済ませた来賓たちと挨拶を交わす。


 まずは皇帝、ヴァスケル、グスタフといった、帝国の要人たちが会場入りする。

 南部からはディオゼ、ルーシェ、ユキウスと見慣れぬ正装のキーグが。

 海都からはメリカをはじめとした議長家の一家が。

 そして、草原からは大族長ガヤンと武将カインゼが顔を出した。


「まさか騎馬の訓練ではなく、お前の結婚式に呼ばれることになるとはな。

 だが悪くない。どの国の大将も、随分とお前のことを信頼しているらしい」


 カインゼと久々に再会すれば、上機嫌にそんなことを言われたのだった。


 バルドーはリセアを伴って現れた。


「おい若造、不作の村があったら、いつでも相談しろ。うちの里で歓迎するぜ」


「イヴェリ様、おめでとうございます! お幸せに!」


 フェルクはバルドーと固く握手を交わし、イヴェリとリセアは抱き合っていた。

 ちなみにダグラスとグレンは会場警護の任に当たっている。世界中の要人が集まっているのだから精鋭が必要だ。止むを得まい。


 そして、一通りの来賓を式場へと見送った。

 会場内では、既に帝国の贅を尽くした料理が振る舞われている。

 いくつもの国々の人々が、一つの会場で酒を酌み交わしている。

 その中には、かつて刃を交え合った者同士もいることだろう。

 しかし、講和の下で世界は繋がった。

 たかだか一個人の婚礼のために、世界中の要人が集まる。

 まさしく平和だからこそできる、贅沢な式典なのだろう。


 イヴェリのお色直しを経て、会場の大きな扉の前に立つ。

 隣には純白の花嫁衣裳に身を包んだ愛しき人。


「行くか」


「はい」


 頷き合って、そっと手を繋いだ。

 そして、イヴェリは少しだけ照れたように微笑んだ。


「フェルクの手は温かいですね」


 その言葉に、フェルクの胸が高鳴った。

 かつては武器を握ることしか知らなかったこの手が、柔らかく脆い手を握っている。

 いつしか冷血皇子と罵られ、自分でもそうかもしれないと思っていた。

 だが、違った。この手は既に温もりを取り戻していた。

 そして、かけがえのないものを手中にしていたのだった。


 ――かくして、ノルスヴェイン・サーガ異説は幕を閉じる。

 蒼き炎に身を焦がしながら、心を寒さに震わせる戦鬼の姿は、そこにはもう無い。

 これは、冷血皇子と恐れられた一人の青年が、その手に温もりを掴むまでの物語である。


 第三章(第三巻) 了


 悪役貴族戦記/ノルスヴェイン・サーガ異説

 ~英雄陣営に討伐される冷血皇子に転生した俺は、生きる望みを模索する~ 完

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