第9回─光
それらの現象が崩れ始めたあと、彼女は自分が静寂に包まれた暗闇の中を漂っているのを感じた。
周囲には何もなく、ただ果てしない闇だけが、幾重にも彼女を呑み込んでいた。
何ひとつ触れられない、その孤独の中で、彼女は過去の断片を思い出し始めた。
彼女はヴィガを思い出した。
初めて彼と出会った時の光景が、鮮やかに心の中によみがえった。
あの優しい眼差しと、確かな微笑みが、一瞬にして彼女の胸へ戻ってきた。
彼らはともに幾つもの旅を重ね、数えきれない困難や危険を乗り越えてきた。
晴れの日も、雨の日も、ずっと一緒だった。
そして最後に、彼女は二人が茂みに覆われた森の中で道に迷ったことを思い出した。
あたりのすべてが少しずつ静けさへ沈み、その時の彼女は、ただ深い無力さと孤独を感じていた……。
彼女の記憶の断片は、その森の中で途切れていた。
それ以降の光景は、どうしても思い出せなかった。
その時だった。
彼女の心に、突然引き裂かれるような痛みが走った。
周囲の暗闇は、今にも彼女そのものを呑み込もうとしていた。
果てのない虚空の中で、すべての光は消え失せた。
彼女は、自分がこのまま完全に消されてしまうような感覚に襲われた。
「ヴィガ、助けて……私はここにいる!」
彼女は心の中で必死に叫んだ。
その声には、抑えきれない恐怖と愛しさが混じっていた。
それは魂の奥底からほとばしった叫びだった。
彼女は、その声がこの深い闇を突き抜け、自分に届いてくれることを強く願った。
闇に呑まれそうになった、その瞬間だった。
彼女は、聞き覚えのある声を耳にした。
最初はかすかで、不確かな響きだった。
けれど、時が経つにつれて、その声は少しずつはっきりしていった。
そう、あれは彼だ。
間違いない。
彼女の中に広がっていた絶望は、その声によって、優しい手でそっと撫でられるように救われていった。
「私たちが初めて出会ったあの夜を思い出して、心の光を信じて! そうすれば、私は君を見つけられる!」
彼の声は力強く、それでいて優しかった。
その響きは虚空の闇をまっすぐに貫き、彼女の心の最も深い場所へ届いた。
レイリスはその言葉を聞いた瞬間、脳裏にあの大雨の夜を思い浮かべた。
あの時の彼女は、雨の中で無力に立ち尽くしていた。
まるで、行き先を失った小さな舟のように。
彼は星の国から人間界へ現れた。
それは、ひと筋の光が雨の幕を裂いて、彼女を絶望から救い出したような瞬間だった。
彼は彼女のそばへ歩み寄り、優しく手を差し出した。
そして、自分の手をそっと彼女の掌に重ねた。
その瞬間、彼女の胸の中には、言葉にできない温かさと安らぎが広がっていった。
「その光は、君が信じる力によって、どんどん強くなっていくよ」
あの時の少年は、優しくそう言った。
彼の瞳には、果てしない確信と希望が宿っていた。
「もし君の心がブラックホールに引き込まれそうになったら、その光を信じてごらん。そうすれば、ブラックホールは消えるんだ」
彼女は、あの時のかすかな光を思い出した。
それは、自分が最も弱く、最も無力だった時に、灯火のように道を照らしてくれた光だった。
その光はとてもか弱く、今にも闇に呑み込まれてしまいそうだった。
けれど、まさにその光が、彼女に希望を取り戻させた。
暗闇の中にいても、なお追い求めるべき光があるのだと、彼女に信じさせてくれた。
レイリスが全力で信じようとした時、彼女の心の中には、かすかだが確かな力が湧き上がってきた。
彼女は目を閉じ、その記憶にすべての意識を集中させた。
あの少年が言っていた言葉が、何度も彼女の耳元で響いた。
「その光は、君が信じる力によって、どんどん強くなっていくよ」
その瞬間、彼女の目の前に、小さな光の点が現れた。
それは、まるで小さな珠のようだった。
その光はあまりにもかすかで、今にも闇に呑み込まれてしまいそうだった。
しかし、その無限の暗闇の中でも、その光点はしぶとく輝いていた。
まるで虚無そのものに抗っているかのように。
レイリスはその光点を見つめ、驚きと希望に満たされた。
彼女は、その光が自分の心の信念に応えるように、少しずつ明るさを増していくのを感じた。
かすかなまたたきだったものが、少しずつ強い輝きへと変わっていく。
それは、暗闇の中で孤独に、それでも力強く燃え続ける小さな灯火のようだった。
「そうだ……これでいい……」
彼女は心の中でそうつぶやいた。
その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
彼女は信じていた。
あの光は、自分の信念によってさらに強く輝き、暗闇から抜け出すための道しるべになるのだと。
光の点が次第に明るさを増すにつれて、レイリスの心には温かさと力が満ちていった。
その光は、彼女の心の奥底にあった恐れや絶望を、一つずつ、少しずつ取り除いていくようだった。
彼女は感じた。
その光は、ただの光ではない。
それはヴィガへの信頼であり、彼女の心の奥底にある最も純粋な希望と愛の象徴なのだと。
光はさらに強くなっていった。
小さな珠のようだった光は、やがて輝く星へと変わっていった。
それは彼女の目の前を照らし、暗闇は少しずつ後退していった。
かつて彼女を呑み込もうとしていた影も、その光の中で跡形もなく消えていった。
その時――
光はさらに強く輝き、温かさと希望に満ちたあらゆる色彩を放ち始めた。
まるで、闇の世界そのものを完全に追い払おうとしているかのようだった。
その光の中には、命と愛の波動が込められていた。
無数の星々が彼女の目の前で一斉にきらめき、彼女を果てしない光輝の中へ包み込んでいった。
すると突然、その眩い光の中から、一双の手がゆっくりと伸びてきた。
その手には、彼女が幾度も困難に直面した時、何度も優しく握ってくれた、あの懐かしい温もりと感触があった。
レイリスは思わず手を伸ばし、震える指でその手をしっかりと握りしめた。
その温かさは、少しずつ彼女の心を落ち着かせていった。
懐かしく、そして安心に満ちた感覚だった。
彼女がその手を握りしめると、光の中にあった輪郭が次第にはっきりとしていった。
ヴィガの姿が、少しずつ光の中から現れた。
彼の瞳には焦りと喜びが同時に満ちており、その視線はまっすぐレイリスへ注がれていた。
「よくやったよ、レイリス。ついに君を見つけたんだ!」
彼は優しくそう言った。
その目には、限りない愛と温かさが満ちていた。




