整理
独りになって……。
中条景泰「状況を整理すると、ここは越中の魚津城。敵は織田信長で越中と言う事は、大将は柴田勝家。兄の話を聞く限り、その数は数万にも及ぶ。これに対し我らは4千。城内の上杉景勝に対する忠誠心は高く、内から崩れる恐れは無い。ただ3ヶ月に及ぶ攻撃を受け、皆疲労困憊。兵糧はあるが、鉄砲攻撃で必要不可欠な玉薬の残りが少ない。押し切られる寸前にまで追い込まれている。」
自力でどうにか出来る状況には無い。
中条景泰「城攻めが始まってすぐ主君上杉景勝様に救援を依頼。ただ新発田重家の反乱もあり、上杉本隊が越中に出る状況には無かった。そのため殿は能登や越中から後詰を派兵。しかし兵数の差は如何ともし難く、追い払う事が出来なかった。」
戦いが2ヶ月を迎えようとしたその時。
中条景泰「上杉景勝様が越中に入られた。殿の兵でも難しい状況には変わりが無いが、城内の士気が高まった。しかし……。」
武田滅亡により、これまで安全であった信濃から森長可。上野から滝川一益が越後に侵入。
中条景泰「滝川は退ける事が出来たが、森は越後に拠点を構える事に成功。しかもその場所は……。」
居城春日山のすぐ目の前。
中条景泰「殿は春日山を優先。城内の方々に対し、これまでの働きに感謝の書状を残し去ってしまわれた。一応、降伏の許可を得る事が出来ているのだが……。」
今の状況で、柴田勝家が受け入れる理由は無い。
中条景泰「どうやっても落とす事が出来るのがわかっているのだから。しかし可能性が無いわけでは無い。何故なら……。」
上杉攻めを最初に始めたのは柴田勝家。にもかかわらず、後から侵攻を始め。新発田よりも動員出来る兵が少ない森長可に春日山一番乗りを果たされる恐れが生じているから。
中条景泰「尤も……。」
魚津城内で降伏を考えている者は、誰一人として居ないがな。
中条景泰「柴田による越後侵入を1日でも遅らせるのが目的であるのだから。これは誰も考えていないが……。」
魚津より先に春日山が落ちた方が、株を更に上げる事が出来るかも?
中条景泰「しかしここ魚津で、それだけの時間は残されていない。故に耳に穴を開け、名札を括り付けようとしているのだから。でもこんな目に遭う為だけに、ここに来たとは思えない。何かがある……。しかしどうあがいても打開の道を開く術が見つからない。」
諦め掛けていたその時。
中条景泰「今日は……天正10年の6月2日。……6月2日って確か……本能寺の変。」




