唐揚げ
「ふむ」
何かが怪しいと俺の直感が囁いている。
あの橋本が素直に俺の提案…料理を美樹に教えるだけのわけがない。
橋本の今までの行動から、予想できる彼女の意図をトレースしてみる。
①俺の部屋に夜這いにくる。
→千種の家であり、俺の部屋とは言え、千種が入浸りなのはおそらく親友の橋本には周知であろう。それに橋本家の家訓に反する。よって却下。
②自分の部屋が狭いのでより寛げるところに来たい。
→まあこれはその通りだろう。特になし。
③千種か俺に勉強を教わる。
→数度前の家に訪問しているはずだが、連絡がない。テストはまだ先だし、最近授業中は静かに聞いているはずだ。うん、否定。
④そもそも料理。美樹はできなかったっけ?
→玲先生が赤髪で現れたときの夜、橋本と美樹で作ってなかったか?あの時橋本は格段なにも言及してなかった。つまり、橋本が認めるくらいなレベル。
行き詰まった。そもそも情報が足りない。
ならば視察である。抜き打ちの。
「幸平!」
もう見つかった。
「結菜と前の家で密会不倫?」
週間千種はデマをまき散らすのか?
「雑誌が売れたら勝ちよ」
ご立派な定義なこと。
「直感がさ、囁いているんだよ。怪しいって」
「怪しいとどうなの?」
面白いじゃん。
「…行こうよ」
ジャーナリズムが敗北した日。
で、二人で家の前に出てみると見慣れない自転車が数台停まっている。
「あれ…」
結菜は徒歩だし、光太郎の友達か?
千種と顔を見合わせる。もし来客中ならさすがに失礼か。
「千種?と誰?知らない人?」
金髪が予想外の方向から声をかけてきた。疑惑の中心、橋本結菜だ。
「知らないのか俺のこと」
まあ野球漬けであんまりプールに行ってないし、沢村たちとつるむこと増えたしね。疎遠と言うほどではないけど、以前よりは減ったのは事実。
「知らないの?あたしの旦那」
「あそこが大きいくらいしか取り柄ないくせに」
試したことあったっけ?
「結菜?あたしの旦那」
「中古車に興味ないし」
「あたしも新車じゃないって言いたいの?」
どこのスイッチを押したのか、珍しいバトルモードの千種さん。
飄々として
「あなたたちも食べる?唐揚げ」
気の抜けるようなことを言ってきた。橋本のは食べたことないから分からないけど…こいつのことだから美味いんだろ。な、千種。
「あたしも得意だもん」
そうだっけ?
「愛妻料理と料亭を比べても意味がないだろ?」
そう和解案を提出してみたのだが、
「「ああ、そう」」
と双方ともお気に召さなかったようだ。
どうしろと。




