菓子パンの昼休み
「まあ…そんなわけでして」
思わぬやりとりを挟み、再び先生に報告をする。
「今年の男子の事情は分かったわ」
棚ぼた、のことだ。
中学は隣の県の和田家で過ごし、主に個人メドレーを主戦場にしていたことを話す。
水泳の話だからだろうか、先生は俺のベストタイムやラップを質問してきた。
「児島みささん、ね。ラップタイムを気にすることが多いんだけど、あなたのことだったみたいね」
児島のお姉さんには俺のことを知られている。さっきのことがあるから、もう隠し事とはいかないだろうけど。
「それでその時のコーチに九州転勤の話が出ているんだそうです」
「つまりその方に水泳教室やえーと…」
「幅広い雑用があるそうなんです」
「お名前は?」
「相原博己さんです」
「あら、相原さん…。」
「お知り合いですか?」
「あたしが水泳に夢中になり始めたころのトップ選手よ。同じ種目でね」
大雑把に年齢を計算してみて、あー確かにと納得する。俺たちが先生を崇拝するように、先生もまたコーチを仰ぎ見ていたんだろう。
「どこのスイミング?」
俺が大手の名前をあげると、
「大きいからねえ。埋没してしまっても…」
先生は少し考えていた。
「愛妻家ってほんと?」
「奥さんと面識はありませんけど、娘さんが小学校入学だと言って、よく写真を見せてもらいました」
「そっか…誠実な人柄だと聞いているわ…」
迷ってる様子。
「ちなみに…」
と、義兄と日向さんが所属するプロ野球チームのファンだと明かす。
「採用」
ナイスプレーだ、俺。
ヒメさんの謝罪といくらかの重責からの解放の道筋が見えたからなのか、先生は元気を取り戻したみたいだ。パンの袋を開け食べ始めた。
ふと、栄養管理とかがよぎる。
トップアスリートが菓子パンはまずいよな。
「日向さんの栄養管理、オフシーズンどうするんですか?」
あ、また落ち込ませてしまうかも。
「たぶん薫さんがなんか資格持ってますよね?」
「橋本さんのお母さん?」
「調理師は当然ですけど、あのキャラですよ?」
「持ってそうよね」
うまく回避。
「橋本に聞いてみて持っていらしたら、早めにお願いしましょうか。大杉のところも今本人が作ってますし」
「そうね、いい案だわ」
ついでまかせで言ってしまったけど…さて。
準備室をあとにして俺は教室に戻った。
腹が減った。
千種、弁当…。なんで菓子パン食べてんの?
「朝食のときに言ったよね?昼は購買でお願いって」
朝のランニング後の飯がうまくて流しちゃったわ。仕方なく購買に行くことにする。昼休みあと10分しかないけどね。
月曜日は菓子パン




