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高良フェノミナン/phenomenon〜キイロバナのまわりに咲く  作者: ライターとキャメル
第11章:秋のできごと

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逃げる少女

『見事なものね』

 狭い道で向こう側から来た車とすれ違う夫の運転をマリーは称える。

『日本じゃみんなやってることさ』

『あなたももう日本人じゃない』

『…どうかな。なりたいが』

『左側を走るのが落ち着かないわ』

『そればっかりは慣れてくれとしか』

『ずっと住めって?』

『君次第だ。太郎のためには一緒がいいと思うが』

『そうね。そのために全部の役職を整理したわ』

『ほんとか?』

『前見なさいよ』


 狭い道なんだから…とマリーは注意する。

『太郎が今参加してるチームがこの近くなんだ。寄ってくか?』

『そうね。ユニフォーム姿のあの子を見るのは初めてだから、見たいわ』

『よし、行くぞ』

『前見てって』


 夫婦は高良高校にやってきた。

『施設は新しいものが多いのね』

『少しずつ増える予定さ』

『わたしたち入れるの?』

『大丈夫なはずだ。許可証がある』

『なんであなたがそれを?』

『なんて言うか、まあ…名刺?』

『理解が足りないみたい』

『問題なく敷地に入れるんだから不足はないさ』


 許可証を見せる必要もなく二人は校内へと入る。

『広いわね』

『いろいろな施設が必要だからな』

 マリーは立ち止まり夫を見て

『あなた…夢』

『別にアメリカにこだわらなくても…な』

『ここに?』

『人類的には途上国の方が意味が多いはずだけどね…、俺はそこまでの博愛主義者にはなれない』

『……』

『故郷への恩返し』

『恩返し?知らない言葉だわ』

『そうだな…「還元」?』

『そう理解して?』

『ああ、構わない』


 夫は将来もここにいるつもりだ。

 わたしは…どうする?

 夫に相談しなかったのは失敗だった。わたし自身がこの国で住むことを想定していなかった。このまま住むと…将来この決断を()()することさえできないじゃないか。


 悄然してマリーが立ち止まると、トーマスは柔らかく言う。

『室内プールがあるんだ。行かないか?』

 マリーはそれを聞き我に帰ると

『わたしのために?』

『傲慢は神がお許しにならない』

 マリーははっとして

『そうね。そうだったわ』


 この人の方がよほど哲人ではないか…。

 昔から思ってたのだが、今改めてそう思う。

『職場があることは嬉しいものじゃないか?』

『人によるでしょ』

『聞くところによると数人日本のトップが集まっているらしい』


 そう話しながら室内プールに入る。

『幾つかコースがあって、地域の各年代層が通っている』

『素晴らしいわ』

『君を思ってプールを作ってもらった』

 傲慢だろうかと、不安気にマリーを覗き込む。

『水泳は、人を自由にするのよ』

『俺は泳げない』

『ふふっ、そうだったわね』


『今は…競泳コースのようだ』

 選手たちはプールサイドに集まり、長い髪を黄色いリボンで結えた少女の言葉に耳を傾けている。どうやら全員が女性。

 彼女たちを見ると確かにトップクラスらしい体つき。

 …見覚えがある二人。


『れい!』

 一人の成人が振り向き驚愕した表情を浮かべる。

 遅れてマリーの声がした方を全員が振り向く。

 その中の一人は間違いなく…

『さくら!』


 その少女は次の瞬間立ち上がり、()()()()とした。


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