さらに上に
快進撃とは程遠く…なんせ大会のレギュレーションに救われている感があり…どさくさ紛れに残ってしまった気がして仕方ない。
「この投手陣で次も勝てると思うなよ」と大前監督は釘を差してくる。身内が一番の敵ってやつですか?
監督としたら1回勝って後は数年かけて徐々に強くなればいい…くらいのつもりだったらしい。
「おまえら、有給余ってたら譲ってくれ」とミーティングで切実に訴えていた。
なんだか落ち着かない日々だ。
帰れば行朝さんと千紗さんで毎日のように難しい話をしている。
野球部(なんと部活に昇格した!)の練習で、時に俺も遅くなり、千種も水泳教室のマネージャーとして先生へのデータ作りや雑事を家に持ち込んで残業している。
そんな折唐突に御神託がくだされた。
「千種。幸平くんも。家を出ていきなさい」
と千紗さん。
え、勘当?
「思い立ったが吉日って言うでしょ?」
勘当が吉日とはこれいかに。
「大学に戻ろうとしたら院に行くのが一番かなって思ってね。院の試験って早いんだけど特例で今からでも受けていいって聞いたから、説明を受けに行くわ」
はあ…。
「そしたら行朝さんも来るって」
まあそうでしょうね。俺の目にはべた惚れしてるように見えます。
「あらあら。幸平くんの方があの人より甘えてるように見えるけど?」
お母さんの前ですけどこんな怖い妻いませんて。
…悪かった千種。その怖い目は止めてくれ。
早々に降参して千紗さんの次の言葉を待つ。
「この家を元さんたちに管理してもらうのよ」
あー、二棟のアパートの。
「橋本さんち4人でしょ?アパート二部屋は狭すぎるわよ。これから商売するなら、広い部屋だって必要になるでしょうし」
そうだよなあ。三姉妹だってみんな微妙な年齢だ。プライバシーもほしいだろうと思う。
「いろいろ勘違いしないでね。大切なのは大杉美樹さんがこれ以上、借りるお金を大きくしないこと」
そういうことか…。大人っていろんなこと考えるんだな。
「だからあなたたち二人…転校は嫌でしょ?」
俺は結構慣れてるけど…正直卒業まではここにいたい。千種は…。
「うん、分かった。転校はしたくない。だから部屋を借りるのね?」
「たまたまその部屋に一緒に住む両親は長期出張に行っちゃうんだけどね」
女性への形容としては相応しくないけど、確実に千紗さんはニヤリと笑った。
「もちろん幸平くんと千種、別々の部屋を…」
「一緒がいい」
まあ、そうだよなあ。さすがに俺からは言い出せないけど。
「でね。ついでと言ったらあれなんだけど…。あなたたち明日休みなさい」
え?
「明日行朝さんと大学に行くんだけど、いい機会だからあなたたちも来なさい」
俺たちも大学へ?
「ううん、違うわ。それとね、明日は六条さんも一緒に行くわよ」
はあ…そう…美也子も?
「大事な話があるの」
この章の最終話です。




